●経営は「区分」と「順番」が肝心
その次、第10条です。
「政事は大小転重(けいちょう)の辨(べん)を失ふべからず。緩急先後の序を誤るべからず。徐緩にても失し、火急にても過つ也。着眼を高くし惣体を見廻し、両三年四五年乃至十年の内何々と、意中に成算を立て、手順を遂(おふ)て施行すべし。」
「政事」は「政治」と言ってもいいし、「政(まつりごと)」と言ってもいいですね。また、この「政」というところを、「経営」と考えていただいても結構です。
これは要するに、非常時が前提ですから、非常時になると、いろいろなところから、いろいろなことをどんどんどんどん言ってきます。そのときに、「言われてすぐに取りかかっては駄目だ」と言っているのです。そして、まずやらなければいけないのは、「大小転重の辨」です。「辨」とは、「区分」という意味です。ですから、大きいこと、小さいこと、それから、軽いこと、重いことに区分するということをまずやってください。
次が「緩急先後」ですが、これは、「緩」は緩やか、「急」は急いで、「先」はまず先に、「後」は後でよい。「序」はプライオリティですね。こういう順番をしっかりしてくれと、言っているのです。
つまり、経営というのは、この「大小転重の辨」と「緩急先後の序」というものから成り立っているのです。これは、私も自分でやってみましたが、本当に完璧にできるまでは、やはり5、6年かかります。これからトップになろうという人は、今のうちから腕を磨いておかないといけないものです。
●高い視点から見て、全体を見回すこと
「徐緩にても」は、ゆっくりしすぎても失する。「火急にても」は、急ぎすぎても駄目。そして、次が重要です。「着眼を高くし惣体を見廻し」と言っています。つまり、「着眼点を高くしろ」「見るときに高い視点が必要なんだ」と言っているのです。これは簡単に言うと、「大局観」ということを表しているのです。
先の大津波、原発事故のようなときを一つ例にして申し上げれば、やはり着眼がもう少し高く、例えば、地球規模であるべきだったという意見は非常に多く、全くその通りだと思います。それから、惣体、全体を見なければいけない。ですから、福島なら福島のことだけ見るのではなく、全国規模でどういう状態になっていて、どういうことが福島に関係するのかという状況、そういう惣体をちゃんと見る必要があるということです。「着眼を高くし惣体を見廻し」。いいですね。
●いつも心の中で算段しておくように
さらに、ここからが重要なのですが、「両」というのは「2年」のことです。「両三年四五年乃至十年の内何々」とは、ここでは年で書いてありますが、月でもいいし、日でもいい、時間でもいいのです。「2時間のうち、3時間のうち」と考えてもいい。大切なのは、「これからこれをやる」「次はこれ」と言って、自分の心、意中に成算を立てるということです。心の中で算段をしろ、と言っているのですね。荒っぽくてもいいからプランを立て、それに則って、「はい、これ」「はい、これ」というように、「手順を遂て施行する」ということが非常に重要だということです。つまり、これは「思いつきで指示を出さない」ということを言っているわけです。よくよく惣体を見て、いろいろなものの順番を考えて、これを先にしようと思ったけれど、こっちの方がいいか、そういう熟考の末、心の中で決めて出していくということが重要です。
これは、日常の業務もそうだし、非常時はもっとこういうことが重要です。政治も経営も本質は変わらないということで、「大小転重の辨」、「緩急先後の序」というものを見て、それで、「これが最初かな、次はこれかな、その次はこれかな」というプランを立てていく。成算を心の中に立てる、算段を立てるということが非常に重要だということを言っている。これが第10条です。
●リーダーは大きな広い心をもって臨む
続きまして、第11条です。
「胸中を豁大寛宏(かつだいかんこう)にすべし。厪少(きんしょう)之事を大造に心得て、狹迫なる振舞あるべからず。仮令才ありても其の用を果さず。人を容るゝ気象と物を蓄る器量こそ、誠に大臣之体と云ふべし。」
この「胸中を豁大寛宏にすべし」は、「心を広くしてくれ」ということです。これはどういうことかというと、何しろリーダーのところには、次から次へといろいろと種々雑多なものが来る。そういうものも全部同じレベルで引き受けて、答えを出していかなければいけない、さばいていかなければいけないというときに、何が重要なのかというと、やはり大きな心というものは必須です。そういう意味で、心中、胸中を豁大寛宏、大きく広くしてくれ、と言っているのです。こうなるためには、維新の志士の...