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トップの顔色と会社の雰囲気は、社風を測るバロメーター

重職心得箇条~管理職は何をなすべきか(14)社風と秘密

田口佳史
東洋思想研究家
情報・テキスト
どんな会社にも「社風」はあるが、2000社強の会社を指導してきた東洋思想研究者・田口佳史氏の目に映った社風は全て違っていたという。企業と古典思想を結び付ける、類いまれな眼力を借りて、『重職心得箇条』第15条と16条を読んでいく。(全15話中第14話)
時間:13:30
収録日:2016/02/03
追加日:2016/07/05
≪全文≫

●一つとして同じもののない社風は上から始まる


 今回は、まず第15条です。

 「風儀は上より起るもの也。人を猜疑し陰事を発き、たとへば誰に表向ケ様に申せ共、内心はケ様なりなどと、掘出す習いは甚あしゝ。上に此風あらば、下必其習となりて、人心に癖を持つ。上下とも表裡両般之心ありて治めにくし。何分共此六かしみを去り、其事の顕れたるまゝに公平の計ひにし、其風へ挽回したきもの也。」

 これも重要なことです。私はこれまで2000社あまりの会社をご指導申し上げてきましたが、一つとして同じような風土、社風の会社はありません。社風とは不思議なもので、皆違います。

 では、その社風は誰がつくるのでしょうか。ここにあるように、「風儀は上より起るもの也」。要するに、社風というものは良きにしき悪しきにつけ、上からずっと下りてくるものだということを忘れてはいけません。


●最も悪いのは「猜疑し、陰事をあばく」社風


 中でも、一番いけない悪い社風とは何かというと、「人を猜疑し、陰事を発き」とあるように猜疑心の塊のような組織です。

 隠しておきたいことは、本来誰にでもあるものですが、それを全部暴いて、「お前、本当はこうだろう」とずかずか言挙げするようなことが、第一に挙げられています。

 もう一ついけないことが次の段の「表向ケ様に申せ共、内心はケ様なり」です。例えば部下のA君に「表向きはこうなっているけど、本当のところはこうなんだ」と言ってしまう。これは「表と裏がある」と教育しているようなものです。これらを「掘出す習は甚だあしゝ」で、ひどく悪い。「掘出す」とは、本来隠れていなければならず、掘り出すべきではないものを掘り出してくるような悪い慣習を指しているのです。

 「猜疑し、陰事を発き」で、全てを疑ってかかり、誰もが皆「本当だろうか」と人を信用しないような社風。そして、さらに隠しておきたいことをどんどん暴いていくような社風。それから、次に裏表がある人間のことを言っています。表向きはこうだけれど裏はこうなっているというようなことばかりを言い、「君にだけは本当のことを教える」などと言って派閥をつくろうとするタイプ。言われた相手は「じゃあ、ウソのことだったんですか」ということになります。

 そういうことを都度都度やるような風習があれば、「上に此風あらば」で、下はいつしかそういうものに染まっていく。「下必其習となりて」というわけで、下の方も同じようなものになるということです。


●社風の改善は、成功の秘訣


 どうなるかというと、「人心に癖を持つ」と、凄みのある表現をしています。「癖」は人心にもあるものなのですね。「本当は違うんでしょう。それ、裏があるんでしょう」と人を疑ったりする癖です。

 こういう社風は、改革が難しく、エネルギーが必要です。私も何社か担当しましたが、とても難しい社風なので、それを塗り替えるぐらいなら、こちらに新しいものをつくった方が簡単だというぐらい難しいものです。しかし、それは皆でつくってしまったことなので、こうなると自滅してしまうと言ってもいいぐらいです。「上下とも表裡両般之心ありて治めにくし」と言っている通りです。

 ですから、「何分共此六かしみを去り」で、難しくややこしい厄介な感情や、この人の言うことは本当なのだろうかといちいち正さなければいけなくなる風は全部やめて、全部が疑いなく本心であるというようにしていく。「其事の顕れたるまゝに公平の計ひにし」とあるように、表に現れたものが全て正しいということにしてやっていくのです。

 癖のある組織では、社内を持ちまわるだけで精一杯エネルギーを使い、くたくたになってしまいます。ですから、「其風へ挽回したきもの也」。良い風習に挽回することが重要だよ、と言っているわけです。

 社風などというものは、目に見えず、係数にもなりません。ですからとてもつかみにくいものですが、その会社の業績に非常に強い影響を及ぼしていると言ってもいいと思います。だからこそ、いつも公明正大で晴れやかな社風、晴れ晴れと青天白日のような社風にしていただくことは、成功の一つの秘訣と言ってもいいぐらいです。


●組織の「機密」をどう取り扱うべきか


 続いて、第16条に入ります。

 「物事を隠す風儀甚あしし。機事は密なるべけれども、打出して能き事迄も、韜み隠す時は、却て衆人に探る心を持たせる様になるものなり。」

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