●対策を打つよりも、まずはたくさん事象を集めよ
さらに、気を付けるべき点がいくつかあります。第1に、お客さまにとってのヒヤリハットをたくさん集めても、その全てに対策ができるわけではありません。しかしだからといって、集める事象を少なくする必要はありません。対策を打たなくてもいいから、どんなことがお客さまの気になることなのかを、情報として係員がシェアすることが、ものすごく役に立ちます。
どんな人でも、能力や仕事は95点です。それぞれに、色々な部分が足りません。だからこそ、ヒヤリハットを集めれば集めるだけ、95点の不足を補っていくためのヒントが得られるのです。また、ヒヤリハットの対策は社員全員に聞かなければいけない、という勘違いもよくあります。しかし、そうではありません。100人の社員がいれば、2人の情報が参考になるだけで十分です。95点の残りの5点がどのようなものかは、人によって違うわけですから、ヒヤリハットの使い道も人によって違ってきます。みんなが役に立つヒヤリハットなんて、これこそ神業です。
したがって、対策を打つことよりも、まずはたくさん事象を集めることです。100個なり1,000個なりのヒヤリハットの中から、各人が自分にとってヒントになるものを見出せばいいのです。レピュテーションリスクに関していえば、そのリスクをそれぞれが理解するようになれば十分でしょう。自分の仕事から見たときに、レピュテーションリスクになるものは何かを考えるのです。他者の情報、他者が集めてくれたヒヤリハットの中から、これを考えていくということが、まず重要になってきます。
●ポイントは、自分たちで決めないということ
第2に、ヒヤリハットというと、その全てに対策を打たなければいけないようなイメージがありますが、しかし、ここでもレピュテーションリスクが効いてきます。リスクには強弱があります。したがって、リスクの大きさに合わせて、つまり、より多くのお客さまにより大きな悪いインパクトを与えるものから、対策を打てばいいのです。マネジメントする人は、レピュテーションリスクの大小を評価して、ヒヤリハットの大きいものだけに対策を打つようにし、それを係員に定着させて、現場の次の活動につなげていくことができるでしょう。
その際、ポイントになるのは、自分たちで決めないということです。自分たちだけで考えてしまうと、どんどん話が狭くなります。本社のオーダーではなく、係員一人一人の考え方、判断に委ねられてしまうと、本社と現場の考えが食い違ってくるでしょう。本社がエラーだと言っても、現場ではそうは思わない。本社はトラブルだと言っているが、私はそうは思わない。本社は対策が必要だと言うが、そんなものは要らない。こういう状態になれば、結果的にトラブルが起こったときに、本社と現場の、あるいは現場の中の、責任のなすりつけ合いになってしまうでしょう。
こうした悪循環を避けるために必要なのは、やはり一人一人が95点という認識を持つことです。一人一人の足りない部分をどうにかして集めていき、それをヒントにしながら、自分の向上につなげていく必要があります。ヒヤリハットを出してくれた人に、この情報が役に立ったとフィードバックをかけることも、重要でしょう。100人のうち2人か3人で構いません。そういう情報が100個、1,000個と集まってくれば、誰もが自分にとって役に立つ情報を手に入れられるでしょう。昨日より今日、今日より明日、プラスになるという状態が実現していくのです。
それぞれがいろんな情報を集約し、それを自分たちの足りない部分のヒントだと捉え、それをマネジメントクラスの中間管理職が、対策という形でアドバイスをして伝えてあげる。このようにして、自分たちの仕事が向上し、さらには、その先にあるお客さまへのフィードバックが可能になれば、結果としてレピュテーションが上がっていくでしょう。
●クレームや苦情を現場のプラスになるように翻訳せよ
レピュテーションリスクをどのように評価し、下げていくのかということが重要です。中間管理職の人は、自分たちの目で見て、自分たちの目の前にいる、あるいはサービスの先にいる、これまでの皆さん方の知識や経験に基づいて、適正なリスクを評価していく必要があります。そのためには、常にお客さまの声や考えをしっかりと把握し、それに真摯に向かっていかなければいけないでしょう。これに関して重要な点を3点挙げておきます。
第1に、このように言ってしまうと、「お客さまは神様です」という風に、どんなお客さまの言うことも聞かなければいけないと思う方もいるかもしれません。しかし、そうではありません。むしろ、自分たちがレピュテーション(評判)を得たいお客さまこそが、大事になります。お客さまを選ぶと...