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スペースマイニングのポイントは水が月にあるかどうか

宇宙探査の現在と可能性(10)スペースマイニング-2

小泉宏之
東京大学大学院新領域創成科学研究科准教授
情報・テキスト
スペースマイニングのための最適な場所を決めるためには、月と地球との距離が一定である地点を宇宙空間上に見つける必要がある。そのための指標がラグランジュ点である。これにより、効率的かつ有効な宇宙基地の拠点が特定される。(全10話中第10話)
時間:11:02
収録日:2019/06/11
追加日:2019/07/22
カテゴリー:
≪全文≫

●拠点として最適な場所はどこか


 最後にもう1つ、宇宙で構造物を組み立てる際、その拠点をどこにつくるかということを、簡単に説明します。

 月面で水を入手し構造物を形成させていけば、月面上に基地をつくることはもちろん可能です。しかし、重力ポテンシャルが小さいため、月面から出ていく際にはそれなりにエネルギーを必要とするので、拠点としては得策ではありません。基地をつくる際、どこが良いのかを示す指標として「ラグランジュ点」というものがあるので、これを紹介したいと思います。


●ラグランジュ点により、拠点が定められる


 ラグランジュ点とは、宇宙空間上のある点を指しています。どこでも良いわけではなく、ある複数の決まった場所を指しています。宇宙空間上に適当に宇宙工場をつくってしまうと、1つ困ったことが生じます。それは何かというと、月と地球との距離に関するものです。

 例えば、地球周辺にあるさまざまな人工衛星は、地球からの距離に応じてそれぞれ違う速さで地球の周りを回っています。そのため、宇宙空間上にポンと宇宙工場をつくると、それは月とも違う速度でクルクルと回ることになります。そうすると、月と地球それぞれとの距離の相対値が常に変わってしまうという状態が生まれます。これでは、基地として適していません。そのため、できれば月との相対関係を常に保ったまま地球の周りを回るような場所を特定する必要があります。それを示したものが、ラグランジュ点と呼ばれる場所です。地球と月の周囲の関係では、5点あります。


●ラグランジュ点はどのようにして決まるのか


 ラグランジュ点はどのようにして決まるのでしょうか。例えば本来、月の内側や外側に人工衛星を置くと、月とは違う速さで回っていきます。外側であれば月よりも遅く、内側であれば月よりも速く回るのです。しかし、このことは地球の重力を考えた場合に限定されます。

 実際にはこれに月の重力も関わってきます。地球の重力は、地球に近いほど強いという状態になるのですが、これに月の重力の影響を考えると、少し釣り合いが変わっていきます。

 地球と月の重力の釣り合いを考慮すれば、うまく月と同じ速度で地球の周りを回る点が見つかります。月のこちら側に1点、向こう側に1点です。合成重量を考えると、ちょうど軌道周期が月と等しくなる位置が見いだされるのです。

 こうした観点から計算すると、全部で5点、このような点があります。今お話しした月のすぐ近くの地球側とその反対側を、ここではラグランジュポイントの1と2と呼びます。この2つに加え、月と真反対のところに3つ目の点があり、さらに不思議なようにも思えますが、月と地球を一辺とする正三角形のもう1点の頂点上に、ラグランジュ点4、5があります。この合計5点が、ちょうど月と同じ周期で地球の周りをクルクルと回ることができる平衡点です。多くのSF作品などに出てくる宇宙コロニーなどは、こうしたラグランジュ点につくられることが想定できます。このポイントが、ちょうど地球にとっても月にとっても都合の良い配置になっています。


●ラグランジュ点をポイントとして、深宇宙に向かう


 そのため、宇宙基地をつくるならば、おそらく月の内側あたりの位置になるでしょう。ここに宇宙基地をつくり、前回までに述べたように、必要な食べ物や人、電子部品だけを地球から送り込みます。一番重さがかかる推進剤や構造物は月から運びます。そして、このラグランジュ点で部品を組み上げ、深宇宙に出て行きます。ラグランジュ点は、地球の重力からほとんど離れた場所なので、そこから即座に火星の方に向かうことができます。そして、電気推進機を使いスパイラル軌道で向かえば、さらに効率的である可能性があります。

 こうしたことから、仮に月で水が取れればガラッと世界が変わってくるだろうというのが、研究者の間の共通認識です。


●世界各国が月の探査を始めている


 最近、月の探査が盛り上がっています。2019年だけを見ても、年初に中国が月の裏側に降り立ちました。月の裏側に降り立ったのは今回の中国が初めてで、月の探査の先鞭をつけたといえます。中国も月探査ができるほどの技術力を持っているということが示されました。

 もうひとつ面白かったニュースは、2019年4月のものです。イスラエルのスペースILという...
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