●口を清潔にすると肺炎を防げる
河原 誰もが綺麗な口を持っています。ところが、その口が汚れてくると、ばい菌だらけになります。そうすると、ばい菌が口の中でぶわっと広がって、それが血液を通ることもあります。
そのときに一番の問題となるのが、肺炎です。
肺炎を予防するためには、口を清潔にすることが一番大切です。1999年に米山武義先生が、「介護高齢者に対する口腔衛生の誤嚥性肺炎の予防効果に関する研究」を『ランセット(Lancet)』という雑誌に発表しました。そこで示されたのは、徹底的に口を清潔にすると、肺炎が半分に減ったということです。これは驚異的なことで、世界中が驚かされました。
●口腔ケアにより健康になり、海外旅行へ
河原 以上のような論文が1999年に出たのですが、その1年後の2000年には、次のような症例がありました。私のお友達のお母さんだったのですが、彼女は病院に入院していました。しかし、口の中がかなり汚れていたのですが、それでも当時は、何もせずに食事を食べさせていました。
しかしその後、口腔ケアをしてから食事を食べさせるようにしたところ、2週間くらいで、それまでできなかった運動ができるほど、元気になりました。次第に唾液も出てきて、最終的には海外旅行に行くまでになりました。
――(上濱) 要するに、次のようなことがあったのですね。ある回復期リハビリテーションの病院に入院している方がいました。その方は、もはや何もしないで余命を待つという状況でした。しかし、最低限、口からお薬を飲むことができたので、その女性の息子さんは、自分の知っている病院に連れて帰り、口を綺麗にしてもらいました。余命の最後に、できるだけのことをしてあげようと考え、転院なさったのです。転院後、リハビリの方法が口から食事を食べさせる治療に変わったということですね。
河原 その通りです。食べさせてみようということになりました。口の中がかなり汚れていたのですが、その頃はまだ、医科で口を綺麗にするという習慣がありませんでした。医科と歯科はそれほど離れていました。しかし歯医者のお母さんでしたので、入れ歯は持っていました。そこでリハビリを行い、一週間後には非常に良い状態になりました。
●口腔ケアは体だけでなく、脳に良い影響を及ぼす
―― このように、口の中を綺麗にする口腔ケアを行うことで、サルコペニアという筋肉の萎縮が治り、普通に歩けるようになることもあります。全身の筋肉に栄養をつけ、動くことももちろん重要なのですが、実はこの判断は脳で行われています。そのため、体への栄養だけではなく、噛んで食べ、味わうことにより、脳にいろいろな情報を入れてあげることが重要です。脳はこれらを統合して処理することで、最終的には、寝たきりから歩けるようになります。
今まで、寝たきりは体の問題だと考えられていたのですが、現在は、口腔ケアを見直すことの重要性が指摘されています。全身のフレイル(身体の衰え)をなくすためには、最初に口腔のフレイルをなくし、お口を元気にしていくことが重要なのです。われわれは、これを目標にしています。
河原先生の症例で、もう1つ重要なのは、脳が健康になる可能性があるということです。そのことによって、心も健康になり、心が健康になれば、生きているという存在感も出てきます。この症例は、こうしたことを示していると解析できるのです。ですから、口腔ケアを徹底していくことは、感染症の予防にもなりますが、口腔機能を再建することにもつながります。また、その延長上には、心のケアや脳と体が健康になるということが示唆されます。
河原 1999年に『ランセット』で論文が発表されてから1年後のケースから、私は多くのことを学びました。その頃はまだ、口を清潔にすることの重要性が医科では全く指摘されていませんでした。しかし、先ほどの映像を見て、よく噛んで食べることは、口を清潔にして、唾液の分泌を良くし、元気で長生きすることにつながるということを学んだのです。
●予防歯科と、インプラントや入れ歯による代替の重要性
河原 口の健康、つまり予防歯科は一番大切なものです。子どものときから大人になるまで、しっかりと予防し、自分の歯を丈夫に保てば、60~70歳まで自分の歯を維持することができます。しかし、これに失敗すると、入れ歯になってしまいます。
入れ歯になってしまった際には、例えばインプラントがあります。これは河津寛先生からお借りしたインプラントの画像です。世界中いろい...