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コロナ克服のためには「夢のある」経済システムの構想が必要

コロナ禍で揺れる世界経済の行方(9)今後の課題

島田晴雄
慶應義塾大学名誉教授/テンミニッツTV副座長
情報・テキスト
新型コロナウイルス感染と世界経済を総括してきたが、今後の対策はどうあるべきだろうか。「感染対策か、経済回復か」は二者択一できないし、第二波への備えも喫緊の課題だ。各国政府の莫大な財政支出の膨張も頭の痛い問題だが、全てを知的に解決するには情報の有効活用、そして世界の協力が不可欠だろう。(全9話中第9話)
時間:14:54
収録日:2020/06/15
追加日:2020/07/14
≪全文≫

●感染対策か経済回復か、再来リスクにどう備えるか


 さあ、最後は結論に代えて、今後はどうしたらいいかという課題を、皆さんと一緒に考えたいと思います。

 いま世界中の国々が直面している最大の課題は「感染対策か、経済回復・維持か」ということです。感染対策を徹底的に進めれば経済が止まります。経済活動を回復して成長路線にもっていこうものなら、人々は接触しますから、また感染の再来になるのはだいたい目に見えています。これは世界諸国にとって、究極のジレンマです。それをどう知的に賢く乗り越えていくかというのが課題だと思います。

 感染拡大のリスクは、専門家の誰もが言っていることなので、諸国は一歩一歩、経済活動の再開を進めています。今まで(6月前半時点)の再開がどの程度かというと、範囲は非常に限られていて、この数カ月で落ち込んだ経済活動の水準を埋めるレベルには、まったく達していません。例えば国際航空路線の乗客率はまだ1割にも満たないぐらいです。

 国際航空や基幹産業の工場がフル稼働し、劇場やサッカー場などが満席になって、経済成長が実現できるようになると、人々の移動・交流・会合が活発化します。そうなると人々の接触は飛躍的に増えますから、マスクをつけて手を消毒してシールドをつけて接客していても、感染は再び大規模に広がる可能性が高いのです。

 かつて世界を襲ったスペインかぜでは、1918年から1920年にわたって3回も感染波が起こり、世界43カ国以上の人々が感染したことで知られています。このときは第一波で約2350万人、第二波で840万人、第三波で約280万人、総数約3460万人が亡くなったといわれています。

 今は当時に比べると、科学技術も医学も非常に進歩していますから、当時のようなことにはならないと思いますが、ワクチンが開発されて人類が広くその恩恵を享受できるようになるまでにはまだ数年はかかります。そして、ここ3年ぐらいの間、大規模な感染が流行する可能性は十分にあるので、そのための備えを確実に構築して、感染の脅威に対して人類が総出で知恵を出し合って対応していく必要があるというのが二つ目の大きなポイントです。


●莫大な財政支出の膨張にどう対応するのか


 三つ目には、ずっとこの報告で申し上げてきた莫大な財政支出の膨張にどう対応するのかという課題があります。この莫大な財政赤字の累積は、財政破綻のリスクを高めます。

 二つのルートをご紹介したいと思います。まず、国債によって赤字が累積すると、国債の価値が下がります。これは金利の逆数ですから、金利が上昇します。それが一定水準を超えると政府や企業の資金調達が難しくなって、財政破綻から経済破綻につながってしまう。これが一つです。

 もう一つ。累積財政赤字が一定以上に高まってくると、特に国債経済界では関係者が「あの国は夫妻の返済能力がない」と判断してくることで、通貨価値が急減します。そうするとデフォルトのリスクが高まります。デフォルトを起こせば経済破綻そのものになってしまうからです。

 こうしたリスクがあるため、IMFが描いている累積財政赤字比率の高まりは、非常に恐ろしいことなのです。では、これを解決するのにはどういう方法があるかということを、ご一緒に考えてみたいのですが、一つは王道があり、もう一つは条件がかなえば解決に向かうかもしれない道です。

 王道は何かというと、経済成長によって税収を増やす。他方、財政構造の改革によって歳出のスリム化を図る。そして、財政再建を実現する。これはだれもが賛成する王道です。こうした構造改革は日本でも10年ぐらいずっと言っていますが、なかなか実現に近づいていません。


●「DX推進」による経済システムの開発を


 今回の新型コロナ感染を機に、世界諸国がこぞって取り組んだのは、情報を戦略的に活用してソーシャル・ディスタンシングを取りつつ経済活動を進めることでした。言い換えれば「DX(デジタルトランスフォーメーション)」の推進です。もし、それによって生産性が格段に高まるようなことがあれば、経済成長と税収増加が同時に達成されて、財政の持続性が高まるかもしれません。具体策は、この次に少しお話しします。

 一方、21世紀に入って超低金利が長期間続きました。経済専門家(エコノミスト)は皆、「なぜこのような低温経済が持続することになったのか」と議論していますが、この状況が簡単に改善したり変化したりする傾向は見えません。

 また、コロナ不況対策で、多くの国々は大規模な経済対策を打ち出していますが、金利がゼロに近いので累積財政赤字の金利負担の増大はそれだけ軽減されます。そのため、多くの国は政府負債の増加にそれほど危機感を持っていないように見えます。

 日本は超低金利とほとんど成長しない経済に加え...
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