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本質をズバリとつかむ「直観力」はいかに獲得されるのか

渡部昇一に学ぶ教養と明朗(3)直観力の根源とは?

情報・テキスト
あるときは、エーゲ海を泳いで西洋文明と日本文明の違いを悟った渡部昇一先生。またあるときは、自慢の最新式のオフィスを見て、「これは上司は楽でいいですね。監視しやすいから」と喝破してみせた渡部昇一先生。さらに子どものころの玄一氏が「ソビエトって怖いんでしょ?」と聞いたら、「いや、あの国はそんなに遠い未来じゃないうちに潰れてなくなるよ」と答えたという。その類いまれなる「直観力」は、いかに生まれたのか。その謎に迫っていく。(全10話中第3話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:09:47
収録日:2020/09/09
追加日:2020/10/23
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≪全文≫

●廃れたギリシャの神殿と、今も続く日本の神社の対比


―― これはエピソードの1つなのでしょうけれども、よく渡部昇一先生がおっしゃっていたのが、エーゲ海で泳いでいたときに、廃虚があった。それはギリシャ時代の神殿なのだけれど、今は廃虚になっていて、要するに宗教としては途絶えてしまったものだ。一方、日本の海で泳いだときは神社があった。神社も非常に長い歴史があるけれど、こちらはずっとお祀りが続いていて、いまだに信仰の対象になっている。このヨーロッパのあり方と日本のあり方というものは、どうなのだろう、と。

 特に渡部昇一先生はキリスト教カトリック信仰されていたこともあるので、深いところも含めて、ギリシャの宗教と日本の宗教の比較とか、いろんなことが多分……。

渡部 そうなんです。

執行 でも本当、日本は続いていますからね。

渡部 そう。そんなことをすごく楽しそうに。

執行 それは昇一先生の比較文化論の中枢課題だと思う。だから普通の日本の学者より、一段深いのです。それで、おもしろい。われわれの生活とも密着している。

 ただ、私が学生時代からすごく尊敬している増田四郎という日本の歴史学者がいます。最後は一橋大学の学長をやった人で、彼の『ヨーロッパとは何か』(岩波書店)が大好きです。もう一つ、岩波全書で出ていた『西洋中世世界の成立』(岩波書店)があり、これは完全に歴史学者による学問的な本ですが、この本自体の理解を私は、昇一先生の『アングロサクソンと日本人』でやりました。

 だから私は、本当の学問を理解させるための力が、「人間力」の中から出てくると思うのです。渡部昇一先生という学者の中に打ちこまれた「人間力」が、ギリシャ的な晴朗をつくっている。ギリシャ的晴朗とは、「晴朗」と日本語に一応、訳されているけれども、「明朗」ということですよね。この「明朗」が、渡部昇一先生と渡部家の中心課題であるように思うのです。それを、『明朗であれ』を読んで、すごく実感しました。

 そして、渡部家に貫通している「明朗さ」が、学問を通り越して、日本人の心に訴えてくる。いろいろなものをわからせてくれる。だって私は、この昇一先生の本(『アングロサクソンと日本人』)を読んで、増田四郎の学問書(もともと好きではありましたが)が全部、腹に落ちたわけですから。昇一先生が、腹に落としてくれたといいましょうか。その根本になっているのが「明朗さ」で、ギリシャ的晴朗を渡部昇一先生はつかんでいたのです。そしてそれが玄一さんをはじめ家族にまで遺伝している。だから玄一さんも、これからすごいことやる気がします。

渡部 いえ、私のネタは父ぐらいしかないですから(笑)。本当に出版できて嬉しかったです。

執行 自分の父親をこう表現できる人は数少ないから、何かおもしろいことやると思う。

渡部 頑張ります(笑)。

執行 それがチェロなのか音楽論なのかはわかりませんが。


●直観力に驚くことが、むしろ知識についてよりも多かった


―― 今の執行さんのお話で印象深いのが、「わかった」「腹に落ちた」という指摘がありましたが、渡部昇一先生のお話を聞いていると、視点の切り口をいただいて、「なるほど、そういうことか。こういう着目をされるんだな」とパッと開けてくることがよくあります。読む側からすると毎回、「渡部先生は、ここを見ておられるんだ」となるケースがすごく多かった印象があります。ご子息の立場から見て、渡部昇一先生の切り取る力、視点をズバッと設定する力は、どういうところから生まれたと思われますか。

渡部 父は知識の量を褒めていただくことが多く、たしかに常人では理解できないぐらいの知識量があったと思いますが、でも私は、父は「直観の人」だったと思っています。その原動力や背景に、知識があったのだと思いますけれども。

 例えば、ある会社の社長さんが案内してオフィスを見たときの話ですが、そこが最新式のオフィスで、今でいうソーシャルディスタンスのように離れ、自由に配置されている。上司はちょっと、高いところから全体を見ている。そういうオフィスを見て、相手から「これが最新式のオフィスなんですよ」と言われたときに、父は「あ、これは上司は楽でいいですね」と一言言うのです。「監視しやすい」と。

 普通そういうオフィスを見たとき、「最新式の自由な雰囲気」とか「広々とした」といったところに目が行くのですが、父はすぐ「これは上司の人は楽でいいですね」と言って、そばにいた人がみんなギクッとするとか(笑)。そういう不思議な直観力がありました。

 東日本大震災のときも、全然父は動じませんでした。もちろん「大変だ」という認識はあり、放射能のこともすぐに調べて、全然動じなかった。

 だから今回の新型コロナに対...
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