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芸術の深みや豊かさを決めるのは「人間の器」か「血」か

渡部昇一に学ぶ教養と明朗(8)芸術の「特性」とは何か

概要・テキスト
20世紀の大ピアニスト、アルトゥール・ルービンシュタイン。彼の自伝は、『チャップリン自伝』並におもしろい。彼は若いころ遊びまくり、数多くの武勇伝を残してきた。だが、第二次世界大戦を機に、音楽の深みが増していく。その1つの理由として挙げられるのは、ルービンシュタインが、ポーランド出身のユダヤ人だったことである。多くの在ポーランドのユダヤ人たちがナチスドイツに虐殺された悲劇は、彼にとっては生涯忘れられないことであった。また、芸術の特徴を決めるものとして、「人間の器」のほかに「血」の部分もある。ロシア人の音楽や文学は、やはりロシアならではのものである。(全10話中第8話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:13:05
収録日:2020/09/09
追加日:2020/11/27
カテゴリー:
≪全文≫

●『ルービンシュタイン自伝』のおもしろさ


渡部 『ルービンシュタイン自伝』は読まれたことがありますか。

執行 全部読みました。

渡部 めちゃくちゃ、おもしろいです。『チャップリン自伝』並みにおもしろい。若い頃は、本当に遊びまくっているんです。その頃は、やはり相当(演奏が)荒かったらしいです。そしてパリにいた時代に指を壊すんです。「これで俺は終わった」と思っていたら、パリに日本人の鍼灸師のような人がいて、そこに行ったら一発で治った。そんなことも克明に書いてある。だから第二次世界大戦前のパリで、日本人の鍼灸師のような人が活躍していたことがわかる(笑)。

執行 要はルービンシュタインという人物が、大物なんです。

―― 人自体が、おもしろいんですね。

渡部 ものすごく、おもしろいです。

執行 絵画コレクションもピカソに始まり、エル・グレコとか巨大な絵画コレクションで、今の日本人が見たらちょっと嫌味に近いほどです。すごい金持ちで、最後の家はハリウッド・セレブが住むビバリーヒルズでした。

渡部 スペイン王室に愛されましたから。当時は南米もものすごい金持ち国で、ベネズエラで王族のような生活をしている人がいるところを回って大金を稼ぎ、パリに帰ったらみんなで遊ぶ。ストラヴィンスキーなど名の残った人たちも含め、いっぱい、いろんな人と遊びまくった。ストラヴィンスキーとは女性の部屋を間違えたりして(笑)、本当におもしろいんです。

執行 だからそういうピアニストは、もういないんです。私が一番好きなバイオリニストのクライスラーにしても、バイオリニストとして一世を風靡しましたが、バイオリンが嫌いで、ほとんど練習しなかったんです。ピアノが好きで、1日中ピアノしか弾いていなかった。そういうバイオリニストが、世界的だというのがおもしろいんです。

渡部 (クライスラーは)曲もいっぱい書いています。そしてよく嘘を書くんです、題名で。たとえば「プニャーニというイタリアの作曲家が書いた素晴らしいイタリア風のソナタ」という題名の曲があります。じつは全部、自分で書いている。

執行 人をからかうのが好き。

渡部 そういうおもしろい人が、いっぱいいた時代でした。

執行 いたずらっぽいんです。まだ古き良きウィーンから出てきたバイオリニストだから、音楽的土壌というか……。

渡部 そうです...
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