●「ビッグバン」は膨張宇宙論に反対する学者から揶揄された言葉だった
(前回お伝えしましたが)、「ハッブル=ルメートルの法則」によって、膨張宇宙論が発達していきます。ルメートルの提唱した「宇宙は小さな『宇宙の卵』から生まれた」ということですね。そして、実際に宇宙膨張が発見されました。
さらに、宇宙の卵についての議論が進みます。宇宙が膨張しているとすると、それは過去において、とても小さな領域に物質が集中していたということになります。それは突き詰めれば、初期の宇宙は「とても高密度で、とても高温な小さな火の玉だった」と言い換えることもできます。そういうことを言ったのはジョージ・ガモフです。ロシア出身のアメリカの物理学者ですが、彼は1948年に論文を発表し、その説を提唱しました。
当時は、定常宇宙論を唱える学者が勢力を張っていて、けっこう反対は強かったらしいのですが、高密度高温の火の玉を「じゃあなにかね、宇宙はドッカンと生まれたのかね」と揶揄されたのが、「ビッグバン」という言葉の語源になったらしいのです。つまりこれは、膨張宇宙論に反対する立場の学者からつけられた名前のようですね。ビッグバン宇宙論というと、今では悪い意味ではなく、よい意味で使われていますけれども、これはそういうものの先駆けとなるものでした。
●ノーベル賞を受賞することにもなった「宇宙背景放射の発見」
ビッグバン宇宙論が提唱されて、その証拠が探されたわけです。証拠とは、「熱い火の玉だった時代」を観測的に見ることができるかどうかということです。実際にいくつかのグループが、それを観測する試みを準備していました。
宇宙初期ですから、遠くを見れば宇宙の初期を見ることができるということです。ただ、(遠方の)宇宙はとても速く後退していますから、周波数が長いほうに伸びているわけです。なので、そうしたとても熱い宇宙というものは、われわれからとても速く遠ざかっているので、非常に微妙な熱さ(温度)で観測されるはずです。そのことが全天からくまなく観測されるだろうという予測があったわけです。
そして、それは全くの偶然に発見されます。それが宇宙背景放射で、「宇宙マイクロ波背景放射」とも呼ばれます。マイクロ波とは電波の領域のことです。電波が宇宙のいたるところから等しい強度でやってくるということを発見したのが、アーノ・A・ペンジアス氏とロバート・W・ウィルソン氏です。
彼らは電波望遠鏡の感度を上げるために、雑音を精密に測定していました。ただ、どうしても取り切れない雑音があるということです。(絶対)温度にして3.5 Kの雑音が4080 Mc/sですから、これは4.08 GHzの周波数で「どうしたってこの3.5 Kの雑音は取りきれないよ」と悩んでいたのです。それが宇宙全体のどこからでも来るし、等方的であって変動しないし、波も偏っていないということです。
このことを実際にビッグバンの証拠を探していたグループが聞きつけて、やられたというわけです。それで、そのグループと並行して論文を書くことになります。スライドの下段にありますが、左がロバート・ディッケ氏の論文、右がペンジアス氏とウィルソン氏の論文が並ぶことになるわけですが、ペンジアス氏とウィルソン氏はこの宇宙背景放射の発見の功績をもって、1978年のノーベル賞を受賞されています。
これは、宇宙が熱かった頃の名残だと考えられています。どれぐらい熱かったかというと、宇宙がプラズマ状態、つまりプラズマが冷えて原子の状態になるとき、最後に放った光で3000度程度といわれています。よって今は、3000度であった宇宙の名残を見ているということです。3000度が3度Kまで下がっているということで、それだけ速く後退していると見ることができるわけですね。
つまり宇宙が熱かった頃の名残が発見されたことで、ビッグバン宇宙論は確固たるものとして信じられるようになるわけです。