●痛みを「我慢しろ」と言える人がいなくなった
執行 もうそういう段階(魂や信仰の問題がズタズタにされてしまっている段階)まで来ています。それこそコロナも全部そうです。だから何をしていいかわからないのです。世界中、欧米も日本も。経済も大切だけれども、身体も大切だ。病気を治さなければならないけれど、経済も大切だ。いろんなことを言っていますが、要するに腹を括れないのです。
―― そうでしょうね。
執行 何を勘違いしているのか知りませんが、経済が壊滅したら病院も何もありません。そういうこともわかっていない。だから、せっかく経済を活性化しようとしても、コロナが増えてくれば、また慌ててやめる。これを永遠にしていれば、永遠に滅びてしまいます。今はそういう段階にあります。
これは信仰を失い、日本なら天皇制を失った結果です。私は予言できますが、天皇に対する尊崇の心が残っていたら、今の総理大臣は「病気を根絶したいのか、経済を立て直したいのか、どうするのか」と国民に選択を迫ることができます。
―― 後ろに天皇がいれば、ですね。
執行 「天皇を信じる人」なら。でも、自分が違うので。
―― 首相が天皇を信じる人なら。
執行 天皇を信じられる人なら。西洋なら、神を信じられる人。でもみんな、自分が何もしないで生きてきた人だから、人に何も言えないのです。だから、こちらが痛手を被ったと言われれば、「あ、いけない」とこちらを手当して、あちらだと言われればあちらをやる。今そうなっています。
―― 右往左往しています。
執行 右往左往です。物事をやるには、必ず「痛み」があります。これは我慢するしかない。「おまえら我慢しろ」ということです。これを言える人が、いないのです。
●天皇への畏怖が、私の父の「誇り」を作った
執行 だから、うちの親父みたいな人がいないということです。うちの親父が「良い、悪い」ではありません。自分の生き方でなければ、息子でも96歳で死ぬ日まで会いませんでした。昔でいう、勘当です。これを言い切れる人がいない。では、親父はなぜ言い切れたか。日本人の精神を持っていたからです。
親父の自慢話になってしまいますが、親父は三井物産で、「三井一の英語の名手」と言われていました。戦前に三井物産に入って、兵隊から帰ってまた戻りました。マッカーサーが三井を財閥解体したとき、親父は20代でしたが、三井で一番英語がうまいので財閥解体の手続きを全部やりました。もちろん若いから事務方で、中心になるのはもっと偉い人ですが。
―― でも実際の実務はやったのですね。
執行 そうです。マッカーサーが、親父の英語力に腰を抜かすほど驚いたと、一緒にいた親父の親友が目撃して教えてくれましたから間違いありません。マッカーサーがびっくりするぐらい、英語の名手だった。
英語が好きで、ずっと勉強していたわけです。それでいて、三井物産でアメリカをはじめ、いつも世界中を回っていましたが、息子の私が見て、日本人の魂を失ったことはありません。アメリカに憧れたり、イギリスに憧れたりしたことはまったくない。
昔の英語を勉強した人だから、英米文学は好きでした。英米人の優れた文学者は、文学として好きなのです。けれども、「アメリカは素晴らしい」とか「だから日本はダメだ」などと言うことは一切なかった。ただ英語が好きで、英語を研究している。親父にとっては、英語が神なのです。
私は中学生ぐらいのとき、親父に「アメリカに行くと、やっぱり面白いでしょう」と言ったことがあります。すると「そんなもの全然面白くないよ。英米人なんていうのは、あいつらはまったく英語が下手だから、まったくつまらん」と言っていました。ネイティブの人は英語が自然にできるから、親父みたいに英語が好きで、勉強して、英語を神だと思っている人からすると、何か許せないようです。
―― 読んでいる本も違えば、教養も全然違うし。
執行 そして「英米人には、いつも英語は教えてやるだけだ。英米人はまったく英語のことがわかってないから」と言っていました。
―― 自国語でやっているから、余計そうなんでしょうね。
執行 そうです。それは、親父がもともと持っていた「日本人としての誇り」であるわけです。
―― その誇りを持ったうえで英語をやったから、生きるわけですね。福澤諭吉 みたいに漢籍の素養があってオランダ語や英語をやれば……。
執行 明治ならそうですね。
―― 陸奥宗光も同じですね。
執行 そして親父は、天皇に対する尊敬もすごくありました。私から見ると親父は態度もでかくて、すごい存在でした。親父の1メートル圏内に近づいたことはありませんでした。怖くて近づけないのです。
―― 畏怖があったし、権威があったわけですね。
執行 そう...