●アダム・スミスによるイギリス重商主義に対する痛烈な批判
―― それでは、いよいよ古典派経済学についてです。よく聞く名前としてアダム・スミス、あるいはリカード、ジョン・スチュアート・ミルが出てきますが、それぞれどのようなことを主張したのでしょうか。
柿埜 一番重要なのはスミスの話です。その考え方を発展させたのが、その後のリカードやミルですから、まずスミスのことを説明します。
スミスは『国富論』という、1776年に出版された本で非常に有名な人です。彼は、「重商主義の考え方はおかしい」ということを、この本の中で指摘しました。彼が言ったことは非常に簡単で、先ほど(第2話)先取りしてしまいましたが、「市場で皆が自発的な交換をすることは、お互いにメリットがなかったら行わない」「お互いにメリットがあるからこそ交換をする」ということです。つまり、「交換は皆に利益をもたらす活動だ」ということを、スミスは指摘したのです。
一国内で交換して、皆で分業して仕事をすることは、その国をとても豊かにする活動です。得意な商品を得意な人が作って、その人から買ったほうが、自分で作るよりもいいに決まっている。農業が苦手な人が農業を自分で行うよりも、農家から買ったほうがいい。自分は得意なことをやればいい。それで社会が豊かになるのならば、国同士でも同じことが成り立つのではないか。これは当たり前のことだということで彼は、重商主義者が当然だと思っていた保護貿易ではなく、「自由に貿易するほうがむしろ社会が豊かになる」と言います。
自発的な交換のメカニズムということでは、国内の取引の場合も、海外の取引の場合も、まったく一緒だということが、まずスミスの指摘した重要な点です。これは当時のイギリスの重商主義に対する重大な批判だったのです。
―― 当時は保護貿易が普通だったわけですね。
柿埜 保護貿易が普通で、「(重商主義者もこのような考え方をしていたのですが)植民地をどんどんつくって、そこを支配して、植民地からいろいろな産物を取り入れる。そうして植民地帝国の中で自給自足することが素晴らしいのだ」という考え方をしていました。
―― 一種の「富の収奪」ですね。
柿埜 スミスは、「そんなことはしなくていい。植民地などいらない」と言ったわけです。