●ケインズのすぐ後に登場した「オールドケインジアン」
―― 次に、押さえていただきたいのは、「ケインジアン」といってもいろいろな系列、派閥があることです。「オールドケインジアン」「ニューケインジアン」「ポストケインジアン」と名前はよく聞きますが、これはどういうものなのでしょうか。
柿埜 はっきりいって、ケインズ自身がそのときによっていろいろと言うことを変えているので、(悪い意味ではなく良い意味で)何を言っているのか分からないところがあります。
オールドケインジアンといわれるのは、ケインズのすぐ後の人たちです。ポストケインジアンと被っているところもあるけれども、そこまで市場経済に対して全面的に否定的というわけではない人たちがオールドケインジアンです。
オールドケインジアンはケインズと同じように、「市場経済は不安定だけれども、財政政策中心の景気対策でなんとかできる。金融政策は、多少インフレ的にしてあげるほうが景気は良くなるからやればいいけれども、あまり重要ではない」という考え方ですね。
政府が景気を微調整(ファインチューニング)していけば――経済というものを機械的な、ネジで動くようなものだと捉えているわけです――うまくいくという考え方です。
「IS-LM分析」という財市場・サービス市場の均衡と貨幣市場の均衡を考えた一般均衡モデルによって、まず財政金融政策の効果を分析したのがヒックスです。ケインズとも親交のあった人です。それから、同じような発想をさらに発展させた、アメリカのサミュエルソン、トービンといった人たちがオールドケインジアンに当たります。
彼らは介入主義的なのですが、そこまでではありません。このオールドケインジアンの人たちは、実はミクロ経済学でも業績のある人が多いです。ミクロ経済学の基本的な発想は、(これは古典派的な発想ですが)「市場にいるさまざまな経済主体(企業や消費者)が、自分の効用や利潤などを最大化するように行動し、最適な行動を取っている」という仮説に基づいて経済を分析する体系です。
これに対してマクロ経済学は、必ずしもそういった前提を置いていません。「政府が支出を増やしたら、機械的に皆、受け取った収入(の一定割合を)を使ってしまう」といった関数を設定するなど、そういうやり方を取りがちで...