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「ケインジアン」の分岐とMMT?…正統と異端の見分け方

本当によくわかる経済学史(15)3つのケインジアンとMMTの違い

柿埜真吾
経済学者/思想史家
情報・テキスト
ケインジアンにはさまざまな分派がある。よく耳にするのが「オールドケインジアン」「ニューケインジアン」「ポストケインジアン」だが、それぞれ何を指すのか。その主張や代表的な経済学者について解説する。そこで気になるのが、最近話題の「MMT」だ。ポストケインジアンの分派だというが、どんな違いがあるのか。その主張の詳細や位置づけを見ていく。(全16話中15話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:15:02
収録日:2022/06/08
追加日:2023/03/15
≪全文≫

●ケインズのすぐ後に登場した「オールドケインジアン」


―― 次に、押さえていただきたいのは、「ケインジアン」といってもいろいろな系列、派閥があることです。「オールドケインジアン」「ニューケインジアン」「ポストケインジアン」と名前はよく聞きますが、これはどういうものなのでしょうか。

柿埜 はっきりいって、ケインズ自身がそのときによっていろいろと言うことを変えているので、(悪い意味ではなく良い意味で)何を言っているのか分からないところがあります。

 オールドケインジアンといわれるのは、ケインズのすぐ後の人たちです。ポストケインジアンと被っているところもあるけれども、そこまで市場経済に対して全面的に否定的というわけではない人たちがオールドケインジアンです。

 オールドケインジアンはケインズと同じように、「市場経済は不安定だけれども、財政政策中心の景気対策でなんとかできる。金融政策は、多少インフレ的にしてあげるほうが景気は良くなるからやればいいけれども、あまり重要ではない」という考え方ですね。

 政府が景気を微調整(ファインチューニング)していけば――経済というものを機械的な、ネジで動くようなものだと捉えているわけです――うまくいくという考え方です。

 「IS-LM分析」という財市場・サービス市場の均衡と貨幣市場の均衡を考えた一般均衡モデルによって、まず財政金融政策の効果を分析したのがヒックスです。ケインズとも親交のあった人です。それから、同じような発想をさらに発展させた、アメリカのサミュエルソン、トービンといった人たちがオールドケインジアンに当たります。

 彼らは介入主義的なのですが、そこまでではありません。このオールドケインジアンの人たちは、実はミクロ経済学でも業績のある人が多いです。ミクロ経済学の基本的な発想は、(これは古典派的な発想ですが)「市場にいるさまざまな経済主体(企業や消費者)が、自分の効用や利潤などを最大化するように行動し、最適な行動を取っている」という仮説に基づいて経済を分析する体系です。

 これに対してマクロ経済学は、必ずしもそういった前提を置いていません。「政府が支出を増やしたら、機械的に皆、受け取った収入(の一定割合を)を使ってしまう」といった関数を設定するなど、そういうやり方を取りがちです。

 ヒックスも、サミュエルソンも、ミクロ経済学で大変な業績をあげた人ですが、不思議なことに、自分たちがミクロ経済学でやっていること(経済主体が合理的に行動しているという設定)を、マクロ経済学には持ち込みませんでした。だから、「政府が機械的に消費者の考えていることは考慮せずに、ある意味、経済政策を決めても別にうまくいく」と、トップダウン的な発想でやっていたわけです。ミクロとマクロがつながっていなかったところがオールドケインジアンの奇妙な点ですが、ある意味、理解できる点はあります。


●「人々は合理的に行動する」をマクロにも適用した「ニューケインジアン」


柿埜 マネタリズムは、「個々人はそれほど馬鹿ではないですよね」という発想です。つまり政府が「今、お金あげる」と言ったからといって、そのまま全部を後先考えずに使ってしまうほどボーッとした人たちではない。また、政府が「今、金融を引き締めるよ」「物価安定を大事にしているよ」と言っているけれども、どうせその後に滅茶苦茶に金融緩和するつもりだったら、インフレを本当に抑制するつもりではないという状況で、政府がそう言っているからといって「ああ、そうか」と思って信じてしまうなどということはない。つまり、政府が言っていることは本当かどうか、皆きちんと考えている。それをミクロ経済学でわれわれは言っているではないか。これが、マネタリズムと、その後に出てきた新しい古典派の発想だったのです。

 この発想は結局、よくよく考えてみれば正しいし、しかもそのほうがうまくいきます。そのことに気づいた人たちが、柔軟にそれを受け入れるようになります。

 「人々が合理的に行動して、ある程度、将来のことを考えるなどをしながら、政府の意図に関してもきちんと解釈しながら行動している」ということを前提にした、そういうことを認めた経済学。これを「ミクロ的基礎」という言い方をします。そういったミクロ経済学と整合的な経済学の考え方をマクロ経済学に持ち込まなければいけないことを認めた上で、ケインズ的な発想(「短期においては財政金融政策で景気を安定させることが必要になることがある」ということ)を認める人たちがいます。これがニューケインジアンと呼ばれるグループです。

 ニューケインジアンの人たちは、オールドケインジアンが「裁量的な経済政策がいい」と言っていたのに対し...
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