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新古典派経済学への誤解と実際…特徴と古典派との違いは?

本当によくわかる経済学史(7)新古典派経済学とは何か

柿埜真吾
経済学者/思想史家
情報・テキスト
限界革命以降に登場した「新古典派経済学」。これについては、ケインズ経済学やマルクス経済学と対立するものだという誤解が現代でも非常に多い。それはなぜか。また、その具体的な中身は何なのか。新古典派の具体的なグループとしてマーシャルらのケンブリッジ学派、ワルラスらのローザンヌ学派、メンガーらのオーストリア学派を取り上げて、古典派経済学との違いとともに解説する。(全16話中7話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
≪全文≫

●「新古典派」への誤解――現実の「新古典派」はもっと柔軟


―― 続きまして、新古典派経済学です。古典派に「新」がつくわけですが、これはどういうことなのでしょうか。

柿埜 「新古典派」とは基本的に、限界革命以降に出てきた経済学のことを総称して呼ぶ名前です。

 これはしばしば、特に左派系の方の書いたものの中には、誤解があります。「ケインズ経済学とマルクス経済学と対立するものが新古典派経済学である」とか、「自由放任を唱える極端な市場原理主義の、極端な集団がある」といった理解をしている方がとても多くいます。反緊縮を唱える方々は、「緊縮主義とは新古典派経済学である」とよく言うわけです。

 だけど、これは正しいものでは全くありません。「新古典派経済学」という特定の結束力が強いグループがあるわけではないのです。これは古典派に関してもいえるのですが、新古典派はなおさらそうです。

 現在、「新古典派」という言葉を使うときは何を意味しているか。1870年代以降の経済学のグループの総称を、狭い意味で「新古典派」といいます。特にケンブリッジ学派というグループの人たちのことを、主にそう呼びます。

 ですが、今現在、「新古典派」という言葉を使うときは、まったく違う意味で使っています。価格が伸縮的で、経済が長期的に安定した状態にあるときの経済理論のことを、「新古典派モデル」と呼んでいるのです。これは「新古典派」というグループがあるのではなく、短期的な経済の分析に使うモデルを「ケインズモデル」と便宜的に呼び、長期的に成り立つ議論を呼ぶときに「新古典派モデル」という名称を便宜的に使っているだけなのです。

―― それは、どういう違いですか。

柿埜 短期的に価格は、景気がすごく悪くなったからといって急に下げたり、急に上げたり、そういったことはあまりできません。だから、「価格が伸縮的に変化しない」ということです。

 それから、例えばコロナショックがあると、それまですごく発展していたサービス業で、その業界の需要が落ちることが予想されます。実際、落ちています。そうなったときに、今、サービス業で働いている人たちは、すぐに別の市場に移って別の仕事を始めることはなかなかできません。こういった一時的な変化があったとき、すぐに対応することはできないわけです。

 これを「短期」と呼びます。短期といっても、割と長い期間にわたることももちろんあります。この短期の理論を、現代の経済学では便宜的に「ケインズ理論」と呼んでいます。ですが、これは実際にケインズが述べた理論ではありません。

 これに対して「長期」とは、こういう調整が全部終わった後です。

―― 例えば、サービス業の方が別の産業に移ったり、価格がジリジリ上がる、あるいは下がって、「このくらいが潮時でしょう」くらいになったときですね。

柿埜 そうです。そうなったときの状態のことを指す理論として、「新古典派」という言葉を使っているのです。

 これは「新古典派」と「ケインズ派」というグループがあるというより、便宜的な呼び名の問題で、しかも現実の「1870年代以降に実在した新古典派」とはあまり関係がないんですね、正直にいうと。ですから、実際の新古典派の考え方を少し戯画化したものが今、使われているのです。なので、「現実にあるもの」というよりは「そういうもの」だということです。よって、現実の新古典派は、そのようなガチガチの考え方をしていたわけではなく、「自由放任ではなく、必要なことは規制する」という、むしろ非常にまともな考え方をしていたというのが私の理解です。


●穏健なケンブリッジ学派、数理的分析を得意とするローザンヌ学派


―― 次に、ケンブリッジ学派、ローザンヌ学派、オーストリア学派が出てきます。これはどういった形になるのでしょう。

柿埜 今言った、「新古典派の具体的なグループ」がそれに当たります。細かいことを説明すると大変なので、簡単にいえば、「限界革命のリーダーたちのグループ」といえるのがマーシャルのつくったケンブリッジ学派で、非常に穏健な経済学の考え方です。

 マーシャル自身もそうなのですが、ピグーやケインズも若い頃は(マーシャルの弟子ですから)、「価格は短期と長期では分析の仕方が異なる」と考えました。短期的には需要が価格を決めている要素が大きいけれど、長期的には供給要因がより重要になるといった費用の分析など、今日のミクロ経済学の基本をつくったのが、このグループです。

 彼らは、貨幣数量理論を洗練させたものを持っていましたし、非常に穏健な考え方をした人たちです。

 ピグーは「市場の失敗」という現象を分析して、例えば「...
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