●「新古典派」への誤解――現実の「新古典派」はもっと柔軟
―― 続きまして、新古典派経済学です。古典派に「新」がつくわけですが、これはどういうことなのでしょうか。
柿埜 「新古典派」とは基本的に、限界革命以降に出てきた経済学のことを総称して呼ぶ名前です。
これはしばしば、特に左派系の方の書いたものの中には、誤解があります。「ケインズ経済学とマルクス経済学と対立するものが新古典派経済学である」とか、「自由放任を唱える極端な市場原理主義の、極端な集団がある」といった理解をしている方がとても多くいます。反緊縮を唱える方々は、「緊縮主義とは新古典派経済学である」とよく言うわけです。
だけど、これは正しいものでは全くありません。「新古典派経済学」という特定の結束力が強いグループがあるわけではないのです。これは古典派に関してもいえるのですが、新古典派はなおさらそうです。
現在、「新古典派」という言葉を使うときは何を意味しているか。1870年代以降の経済学のグループの総称を、狭い意味で「新古典派」といいます。特にケンブリッジ学派というグループの人たちのことを、主にそう呼びます。
ですが、今現在、「新古典派」という言葉を使うときは、まったく違う意味で使っています。価格が伸縮的で、経済が長期的に安定した状態にあるときの経済理論のことを、「新古典派モデル」と呼んでいるのです。これは「新古典派」というグループがあるのではなく、短期的な経済の分析に使うモデルを「ケインズモデル」と便宜的に呼び、長期的に成り立つ議論を呼ぶときに「新古典派モデル」という名称を便宜的に使っているだけなのです。
―― それは、どういう違いですか。
柿埜 短期的に価格は、景気がすごく悪くなったからといって急に下げたり、急に上げたり、そういったことはあまりできません。だから、「価格が伸縮的に変化しない」ということです。
それから、例えばコロナショックがあると、それまですごく発展していたサービス業で、その業界の需要が落ちることが予想されます。実際、落ちています。そうなったときに、今、サービス業で働いている人たちは、すぐに別の市場に移って別の仕事を始めることはなかなかできません。こういった一時的な変化があったとき、すぐに対応することはできないわけです。...