●適切な情報を選び取るための鍵は一次資料と歴史
―― つい先日、先生とお話をしていて、とても印象深かったお話が、物理学の場合は素人談義ができないけれども、国際政治の場合は床屋政談ができてしまうというものでした。要するに何か陰謀論のようなものがまことしやかになって、「それが正しいかもしれない」と思ってしまったり、どんな議論でもそれっぽいことを誰でも言えたりする。そういう時代においてどうやって個人として、さまざまな情報があふれ出てくる中で見極めて考えていけばいいのか。そのあたりはいかがでしょうか。
小原 やはり情報の選択が非常に重要です。今、まさにニセ情報であるとかフェイクニュース、プロパガンダについての情報戦が世界で展開されているわけです。そういった中でわれわれがどうやって、客観的で正しい情報をそこから選び出すことができるのか。これは本当に至難の業だと思うのです。
ただ、一次的な資料に当たることはすごく大事だと思います。本も含めて、SNSなどで山のようにいろいろな情報が流れているわけですが、原点に立ち戻って一次資料を大事にしていくということが一つ重要だろうと思います。
それから、自分の視野を広げるという意味でいうと、普遍的な正義だとか普遍的な合理性というものがないことを十分認識した上で、例えば中国はどういう国で、今どういうことが起こっているのかということを、一生懸命、好奇心を持って勉強してみる。
そこには歴史というものがあり、歴史にはたくさん名著もある。そうした名著を読むことによって、自分の視野を広げていく。固定観念だとか偏見を乗り越えるような、幅広い読書というのはすごく必要だと思います。そういう意味で、いい本、良書を見つけ出すことです。
古典にはやはり良書が多い。例えば、核戦争になったかもしれないキューバ危機の時に、当時のアメリカ大統領のジョン・F・ケネディは、ちょうどその危機の前にバーバラ・タックマンの『八月の砲声』という本を読んでいました。これは、第一次世界大戦がなぜ起こったかということについて、とても膨大な一次資料に当たって書かれた本で、注だけで1冊になるくらいの本なのです。
この本は一次資料に基づいており、ケネディはこの本を読んで、「戦争は誤算、誤解で始まったから、こういう誤算を起こしてはいけないのだ。こういった本がこの危機のあとに書かれるようなことには絶対なってはいけない」ということを考えました。ロバート・ケネディという彼の弟が『13日間』という、その当時の危機のことを書いているわけですが、そこでまさに、兄とのいろいろな接触を通じて、兄が言ったこと、兄が悩んだことを全部書いているわけです。実は、兄はバーバラ・タックマンの『八月の砲声』を読んでいたのだと。これはあの危機をやはり解決する上ではすごく大きかったと思います。
そういう意味で皆さんにお願いしたいのは、そうした良書を読んでいただくということです。それから、もちろんこのテンミニッツTVです。ここにはそうした第一次資料に基づいて研究されている東大の先生方や私の同僚がたくさんいます。そうした方々の話を聴くことも非常に効果的なのではないかと思います。
●民主主義の価値を大事にする――そのための教育が市民の連帯につながる
―― ありがとうございます。では質疑応答の時間に入りたいと思うのですが、質問を手短にお願いできればと思います。
〔質問1〕
「自由と責任」や「地域格差」「社会の強さ」についてのお話がありました。しかし、今はネオリベ社会ということもあり、市民の連帯は難しく、特に若い世代はそういう意識が低いように感じています。打開する可能性はあるでしょうか。
小原 一つ挙げるとすると、誰もが言うことですが、教育はやはりすごく大事だと思います。
例えば、今、若い人たちで選挙に行く人が非常に少ないですよね。先ほどから言っているように、自由民主主義の社会にわれわれはいるわけで、これは空気ではなくて、守っていかないといけないものです。特に、こうした権威主義の国家が出てきて、国際法を破ったり、人道にもとるような暴挙をやったりしている。こういった中で、われわれは危機感を持って、特に将来の世代につなげていくという意味でも、若い人たちがそうした民主主義の価値だとか、自由の価値というものを大事にしていくことがすごく大事だと思います。
まさに社会は人が作るものですから、特に国家以上に社会は人のそうしたオーナーシップやパートナーシップがなくなればどんどん弱くなっていくわけです。この社会がどれだけ強いかということは、これからの人生を歩む若い人たちにとってものすごく大事なことです。 私は先ほど四国の出身だと言いましたが、今、地方でもいくつかの大学の客員教授を...