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「2027年・台湾有事」説が飛び交った背景

台湾有事を考える(3)アメリカの対中戦略と台湾有事の可能性

島田晴雄
慶應義塾大学名誉教授/テンミニッツTV副座長
情報・テキスト
日本の防衛費が大幅に増額したことは、それほど日本の周辺環境が危険な状態になっていることを示している。それは、中国の軍事費の驚異的な伸びによって東アジアにおける米軍優位が崩壊しているからだ。これが台湾有事の可能性を高めている最大の要因だが、アメリカはバイデン政権になってさらに中国への対抗姿勢を強めており、「2027年・台湾有事」説も飛び交っている。ただ、そこには中国を追い込む罠という見方もある。それはどういうことなのか。(全9話中第3話)
時間:08:42
収録日:2022/12/19
追加日:2023/02/06
カテゴリー:
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≪全文≫

●中国への対抗姿勢を鮮明にしたバイデン政権の安全保障指針


 さて、バイデン政権が誕生した2021年、3月3日に初めて安全保障指針というものを公表しました。これはブリンケン国務長官が発表したのですが、彼の初めての外交演説でした。「世界の力の分布が変化して新たな脅威が高まっている。それは中国だ。中国は21世紀最大の地政学的試練を与えている。安全保障上、優先課題として取り組む必要がある。経済、外交、軍事、先端技術と、力を組み合わせて、安定的で開かれた国際システムに対抗し得る唯一の競争相手、最も危険な競争相手、したがって同盟国と連携して中国に対抗していく必要がある」と。

 これはアメリカの基本国際戦略として3月に発表されたのですが、アメリカはそれ以降ずっと中国に対して総力を集中するという考え方で対応してきました。ですから、2021年8月にアフガニスタンから撤収しているのです。アメリカは同時テロ以来、約20年もそこに進駐して頑張っていたのですが、撤収しました。(そこに)それだけの資源を費やすことができないのです。なぜなら、中国に注ぎたいからです。

 それから、ロシアのウクライナ侵略があったわけですが、その時もウクライナの領土には立ち入りません。それをやると、ロシアと直接対決になって大変な資源が使われることになるからです。やはりアメリカの資源は中国に注ぎたい。そこまでアメリカの緊張はかなり高まっているのです。

 2021年4月、ホワイトハウスで日米首脳会談が行われました。そこに菅義偉首相(当時)が行かれたわけですが、アメリカはこれをやるために非常に周到な準備をしました。まずその前に、Quad(クアッド)すなわち4カ国会議を行い、続いて2+2(ツー・プラス・ツー)の会議を行い、コロナの最中にもかかわらず初めてアメリカの代表団が日本にやってきて、中国を名指しで批判しながら相当突っ込んだ議論をしたわけです。

 それを踏まえて、ホワイトハウスで首脳会談が行われたのですが、その時に共同声明で、「日本は台湾海峡の平和と安定の重要性をともに強調して、両岸問題の平和的解決を目指すことで合意をした」ということを発表したのです。そこで菅氏は、日米同盟と地域の安全保障を強化するために、自らの防衛力を格段に強化することを決意したと言っているのです。

 そのあと、5月23日に東京で日米首脳会談が開かれました。その共同声明には、「日本の防衛力を抜本的に強化するため、防衛費の相当な増額を確保する」と明記したのです。これは非常に異例なことです。予算が決まる前に首相がそれを国際公約することなど普通はないのですが、アメリカも相当気負っているから、こういうことになったのだと思います。


●「2027年・台湾有事」が飛び交った背景


 東アジアでは、アメリカ軍の優位がかなり崩れてきています。例えば、中国はアメリカを上回る戦力を持ち、アジアに展開する中国の戦闘機はアメリカの5倍。これは2020年くらいの段階ですが、2025年には8倍になる。戦闘艦艇は5倍から9倍になる。こういう状況です。

 アメリカは軍事費の余力も乏しく、そういうことになると、期待するのは同盟国の協力です。バイデン政権は日本をことのほか重視するようになっています。ちなみに中国は中距離弾道弾1900基、中距離巡航ミサイル300発、北朝鮮も数百発保有していると考えられます。アメリカはそのままやり合えば敵わなくなる。そういう状況になっているのです。

 2021年3月5日、アメリカのインド太平洋軍のデービッドソン司令官(当時)が、上院の軍事委員会の公聴会で、「中国は2050年までにアメリカに取って代わって世界のリーダーになる野望を強めている」と展望した上で、「その前に台湾がその野心の目標の1つであることは間違いない。その脅威は向こう10年間、実際には6年で明らかになると思う」と言ったものですから、これが大変な話題になって、2027年が台湾有事だという説が飛び交ったのです。

 そのあと、後任のアキリーノ司令官が上院の軍事委員会の公聴会で、台湾に対する中国の軍事力が最大の懸念だとして「中国は戦略的位置にあって、中国が台湾を支配した場合、航行の自由が制約され、世界貿易の3分の2に影響が及ぶ可能性がある」と述べ、台湾有事について米軍の深い懸念を浮き彫りにしたのです。

 アキリーノ氏は、「中国は米軍を地域から排除する能力を著しく向上させている。多彩なミサイルを保有して、第2列島線内への米軍の接近を阻止する能力を持っている。核兵器の装備も想像よりはるかに速い。台湾侵攻を見過ごせば、地域のパートナーとしてアメリカの信頼が失われる。民主主義の成功と見なせる台湾を防衛できなければ、インド太平洋地域の同盟国は有事の際のアメリカの存在意義に疑問を持つことになるだろう。アジアの安保体制...
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