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軍国主義の狂信者が、民主主義の狂信者になっただけ

逆遠近法の美術論(10)イコンの文化を継承する民族

執行草舟
実業家
情報・テキスト
グローバリズムに代わる、新しい文明である霊性文明に一番近いところにいたのが日本である。だが日本は明治以来、安易な近代化によって、霊性文明から遠ざかってしまった。実は、戦前のインパールや南方作戦、特攻隊と、戦後の高度成長や民主主義は変わらない。軍国主義の狂信者が、民主主義の狂信者になっただけである。「人の命は地球より重い」と言う言葉は、まさに象徴的である。さらに人類は、「希望」によって原爆をつくり、「希望」によって高度成長をやめずに続けようとしている。希望があると思っているから、何も反省しない。期待できるのは魂の賦活だけであり、だからこそ芸術作品が大きな意味を持つのだ。(全10話中第10話)
※インタビュアー:神藏孝之(テンミニッツTV論説主幹)
時間:11:39
収録日:2022/08/30
追加日:2023/05/12
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≪全文≫

●なぜ日本は「犯罪者に金を払うなんて」と軽蔑されたか


執行 今、大体見てもらいましたが、今日わかってもらいたいのは今のグローバリズムに代わる新しい文明は、確実に霊性文明だということです。霊性文明という意味では、歴史的にも日本が一番近いところにいます。このことを特に日本人にわかってもらいたい。もう達成寸前まで行った民族だったということです。自分で捨ててしまったけれど。悪い意味でイコンの文明を今、体現しているのが漫画文化です。

―― なるほど。

執行 人間の真面目さというか、一つの芸術性から言うとちょっと下がりますが、漫画文化を日本が築いたのは、日本人がイコンの文化を継承する民族だからだと思います。だから、漫画をもっと魂の崇高なものに育て上げなければダメということです。漫画のままではダメです。

 イコンは、芸術家が苦悩して作り上げた漫画です。日本はそういうものを作れる最も近い文明をもってきたし、築いてきた。そのことに、テンミニッツTVなどを通じて日本人に気づいてもらいたい。

―― そうですね、もったいないですよね。せっかく持っていたし、蓄積もあるし。

執行 それを明治維新のときに主張していたのが、西郷隆盛です。そうではなく、西洋に追いつき追い抜けで、全部捨ててもいいから西洋化したと一般に言われたのが、大久保利通です。この対立が、西南戦争を招いた。

 西郷隆盛が守ろうとした武士道とは、英米文明を乗り越えた、超英米文明である霊性文明だとわからなければダメです。

―― なるほど。でももったいないですね。もうちょっとだったわけですね。

執行 明治の物語などを読んでいると、本当にもうちょっとでした。西洋人が砲艦外交で乗り込んでくるのが、もう50年、いや30年遅かったら日本は霊性文明を完成させていたでしょう。変な言い方ですが、霊性文明の国として西洋文明と対峙できたと思います。

―― もうちょっと熟成してから対峙すれば……。

執行 そう。当時でも西郷隆盛のように、西洋近代化にあれだけ反対する人がいた。これは霊性文明をつかんでいる人が、武士にはごまんといたということです。別に近代化がいけないのではなく、日本文明を全部捨ててやることはないという話ですから。

―― そうですよね。

執行 あと30年開国が遅れていれば、武士は残らなくても士族という階層が残ったと思います。

―― ある種のエリート階層ですね。

執行 全国民が納得してリスペクトしている階層です。

―― 公のことを考える。

執行 国のために人生を全部捧げる階層です。それを国民全員が納得した上でできるには、あと30年必要だった。

―― もったいなかったですね。

執行 全部捨ててしまいましたから。

 太平洋戦争や大東亜戦争のことを言う場合、軍国主義と戦後の民主主義は別だとみんな言いますが、これは違います。

―― 同じですよね。

執行 革命が起きたのは、明治維新だけです。戦前のインパールや南方作戦、特攻隊と戦後の高度成長や民主主義は変わらないと思います。方向が変わっただけです。学校制度も同じで、軍国主義の頃にやられていた価値観のとおり、我々は学校教育を受けている。

―― 名前が変わっただけです。

執行 そう、方向性です。だから、日本ほど人命尊重で、民主主義の考え以外を絶対受け付けない国はありません。福田赳夫のあの有名な発言がある国ですから。(バングラデシュの首都)ダッカでしたっけ。

―― ダッカですね。

執行 あのときに「人の命は地球より重い」と当時の福田赳夫総理が言った。あれで本当に金を払って、人質も解放させた。それが通ってしまう国ですから。

 あの頃はまだ西欧やアメリカでもキリスト教文明が残っていたので、「犯罪者に金を払うなんて、とんでもない話だ」と日本は世界中から軽蔑されました。でも軽蔑されたことそのものがわかっていない。何しろ「人一人の命が地球より重い」と総理大臣が言っている国ですから。

 これはインパールと一緒です。あの福田発言は特攻隊の命令を出した人、インパール作戦をやった人、南方で守備隊全員に弾も食い物も与えず「みんな死ね」と言った人と何も変わらない。だから、軍国主義の狂信者が、民主主義の狂信者になっただけです。


●『ベラスケスのキリスト』を訳した理由


―― 深く考えないところも同じですよね。一つのことを深く考えない。そして自分を照らす物差しを持っていないということですね。

執行 軍国主義を煽ったのもマスコミです。覚えていると思いますが、朝日新聞を中心として……。

―― いや、すごいものでした。

執行 当時の朝日新聞なんて読んだら、もう腰を抜かします。「皇軍の行くところ敵なし」などと朝日の第一面に出ています。それが今度は民主主義の最先端。だから同じ...
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