社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
イギリスのTPP加盟は理論的には不可能ではない
イギリスのメイ首相がアメリカのトランプ大統領との関係強化を進めていることが、注目を集めています。ブレグジット(EU離脱)後のイギリスの動きは、EU加盟国にとってはとりわけ気になるところ。そのイギリスが、アメリカの蹴飛ばしたTPPに加盟したらどうなる?と一見風変わりな仮説を立ているのは、政治学者で慶應義塾大学大学院教授・曽根泰教氏です。
ブレグジット後のイギリスが、EU圏外の国との関係性を強化する必要があるのは、自明の理です。オーストラリア、ニュージーランド、カナダなどは今もイギリス連邦を構成する国々であり、格好のパートナーとも目されます。
さらに曽根氏の仮説を成り立たせる大きな根拠となるのは、イギリス国民がEUを嫌った真の理由です。あたかも大英帝国至上の古臭いナショナリズムや偏狭な移民嫌いが原因だとも喧伝されますが、実際には「国家主権」と「民主主義」を求める風土が、イギリスの未来を選ばせたのではないでしょうか。
EUの統一通貨ユーロを導入せず、スターリング・ポンドを使い続けたイギリスは、シェンゲン協定にも加わらず、移民・難民の受け入れについても独自の尺度を持っていました。それでもなお大多数のイギリス人にとって、顔も知らないブリュッセルのEU代表部やストラスブールの欧州議会の官僚たちが決めたことに従うのは、民主主義とは受け取りがたいことだったのです。
以下の三つは同時に達成することができず、どれか二つを取れば、残りは犠牲にしたり縮小せざるをえないという考え方です。「エコノミスト」が掲げた三つは、「国家主権」「グローバルキャピタルマーケット」「国際的な規制」、ロドリック氏の三つは「グローバリゼーション」「国家主権」「民主主義」です。
曽根氏は、「二つをとって一つを捨てる」という方法よりは、もう少しきめの細かい見分けや仕分けができるはずだと提案しています。国民の私たちが見極める力を磨けば、より良い未来を選択できるということなのではないでしょうか。
理論的には可能な「イギリスのTPP加盟」
イギリスがTPPに加盟することは、名称的には混乱を来すものの、理論的には無理ではないとするのが曽根氏の前提です。TPP=環太平洋パートナーシップですから、名前はTPAP=太平洋と大西洋のパートナーシップにでも変える必要があるでしょう。でも、TPPの趣旨そのものは、EUを離脱したイギリスの政策にも見合っているはずだ、というのです。ブレグジット後のイギリスが、EU圏外の国との関係性を強化する必要があるのは、自明の理です。オーストラリア、ニュージーランド、カナダなどは今もイギリス連邦を構成する国々であり、格好のパートナーとも目されます。
さらに曽根氏の仮説を成り立たせる大きな根拠となるのは、イギリス国民がEUを嫌った真の理由です。あたかも大英帝国至上の古臭いナショナリズムや偏狭な移民嫌いが原因だとも喧伝されますが、実際には「国家主権」と「民主主義」を求める風土が、イギリスの未来を選ばせたのではないでしょうか。
EUとTPPの違いから見えてくるのは?
EUとTPPはともにグローバリゼーションの申し子と言える存在ですが、内実はずいぶん違います。「ヒト、モノ、カネ」の往来を自由にすることが究極の目的とはいっても、TPPはあくまでも「経済」を円滑に動かすことが目的。加盟国の主権はしっかり行使することができ、EUのように委員会の方針に従わなければならなかったりすることはありません。EUの統一通貨ユーロを導入せず、スターリング・ポンドを使い続けたイギリスは、シェンゲン協定にも加わらず、移民・難民の受け入れについても独自の尺度を持っていました。それでもなお大多数のイギリス人にとって、顔も知らないブリュッセルのEU代表部やストラスブールの欧州議会の官僚たちが決めたことに従うのは、民主主義とは受け取りがたいことだったのです。
三つのうち二つしか実現できないという学説
イギリスの週刊新聞「エコノミスト」やハーバード大学のダニ・ロドリック氏は、グローバリゼーションと国家主権のあり方についてよく似た意見を展開しています。以下の三つは同時に達成することができず、どれか二つを取れば、残りは犠牲にしたり縮小せざるをえないという考え方です。「エコノミスト」が掲げた三つは、「国家主権」「グローバルキャピタルマーケット」「国際的な規制」、ロドリック氏の三つは「グローバリゼーション」「国家主権」「民主主義」です。
未来を選ぶには、見極める力が必要
ロドリック氏は、「グローバリゼーションと民主主義」をとって「国家主権」が成立しなくなっているのがEU加盟各国、「グローバリゼーションと国家主権」のために「民主主義」を後回しにしているのが共産主義中国の方針だとも言っています。曽根氏は、「二つをとって一つを捨てる」という方法よりは、もう少しきめの細かい見分けや仕分けができるはずだと提案しています。国民の私たちが見極める力を磨けば、より良い未来を選択できるということなのではないでしょうか。
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
物知りもいいけど知的な教養人も“あり”だと思います。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,500本以上。
『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
地球上の火山活動の8割を占める「中央海嶺」とは何か
海底の仕組みと地球のメカニズム(1)海底の生まれるところ
海底はどうやってできるのか。なぜ火山ができるのか。プレートが動くのは地球だけなのか。またそれはどうしてか。ではプレートは海底の動きの全てを説明できるのか。地球史規模の海底の動きについて、海底調査の実態から最新の...
収録日:2020/10/22
追加日:2021/05/02
各々の地でそれぞれ勝手に…森林率が高い島国・日本の特徴
「集権と分権」から考える日本の核心(5)島国という地理的条件と高い森林率
日本の政治史を見る上で地理的条件は外せない。「島国」という、外圧から離れて安心をもたらす環境と、「山がち」という大きな権力が生まれにくく拡張しにくい風土である。特に日本の国土は韓国やバルカン半島よりも高い割合の...
収録日:2025/06/14
追加日:2025/09/15
「国際月探査」とは?アルテミス合意と月探査の意味
未来を知るための宇宙開発の歴史(9)宇宙開発を継続するための国際月探査
現在の宇宙開発は「国際月探査」を合言葉に掲げている。だが月は人類の移住先にも適さず、探査にさほどメリットがない。にもかかわらずなぜ「月探査」が目標として掲げられているのか。それは冷戦後、宇宙開発の目標を失った各...
収録日:2024/11/14
追加日:2025/09/16
成長を促す「3つの経験」とは?経験学習の基本を学ぶ
経験学習を促すリーダーシップ(1)経験学習の基本
組織のまとめ役として、どのように接すれば部下やメンバーの成長をサポートできるか。多くの人が直面するその課題に対して、「経験学習」に着目したアプローチが有効だと松尾氏はいう。では経験学習とは何か。個人、そして集団...
収録日:2025/06/27
追加日:2025/09/10
トランプ・ドクトリンの衝撃――民主主義からの大転換へ
トランプ・ドクトリンと米国第一主義外交(1)リヤド演説とトランプ・ドクトリン
アメリカのトランプ大統領は、2025年5月に訪れたサウジアラビアでの演説で「トランプ・ドクトリン」を表明した。それは外交政策の指針を民主主義の牽引からビジネスファーストへと転換することを意味していた。中東歴訪において...
収録日:2025/08/04
追加日:2025/09/13