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DATE/ 2017.05.16

イギリスのTPP加盟は理論的には不可能ではない

 イギリスのメイ首相がアメリカのトランプ大統領との関係強化を進めていることが、注目を集めています。ブレグジット(EU離脱)後のイギリスの動きは、EU加盟国にとってはとりわけ気になるところ。そのイギリスが、アメリカの蹴飛ばしたTPPに加盟したらどうなる?と一見風変わりな仮説を立ているのは、政治学者で慶應義塾大学大学院教授・曽根泰教氏です。

理論的には可能な「イギリスのTPP加盟」

 イギリスがTPPに加盟することは、名称的には混乱を来すものの、理論的には無理ではないとするのが曽根氏の前提です。TPP=環太平洋パートナーシップですから、名前はTPAP=太平洋と大西洋のパートナーシップにでも変える必要があるでしょう。でも、TPPの趣旨そのものは、EUを離脱したイギリスの政策にも見合っているはずだ、というのです。

 ブレグジット後のイギリスが、EU圏外の国との関係性を強化する必要があるのは、自明の理です。オーストラリア、ニュージーランド、カナダなどは今もイギリス連邦を構成する国々であり、格好のパートナーとも目されます。

 さらに曽根氏の仮説を成り立たせる大きな根拠となるのは、イギリス国民がEUを嫌った真の理由です。あたかも大英帝国至上の古臭いナショナリズムや偏狭な移民嫌いが原因だとも喧伝されますが、実際には「国家主権」と「民主主義」を求める風土が、イギリスの未来を選ばせたのではないでしょうか。

EUとTPPの違いから見えてくるのは?

 EUとTPPはともにグローバリゼーションの申し子と言える存在ですが、内実はずいぶん違います。「ヒト、モノ、カネ」の往来を自由にすることが究極の目的とはいっても、TPPはあくまでも「経済」を円滑に動かすことが目的。加盟国の主権はしっかり行使することができ、EUのように委員会の方針に従わなければならなかったりすることはありません。

 EUの統一通貨ユーロを導入せず、スターリング・ポンドを使い続けたイギリスは、シェンゲン協定にも加わらず、移民・難民の受け入れについても独自の尺度を持っていました。それでもなお大多数のイギリス人にとって、顔も知らないブリュッセルのEU代表部やストラスブールの欧州議会の官僚たちが決めたことに従うのは、民主主義とは受け取りがたいことだったのです。

三つのうち二つしか実現できないという学説

 イギリスの週刊新聞「エコノミスト」やハーバード大学のダニ・ロドリック氏は、グローバリゼーションと国家主権のあり方についてよく似た意見を展開しています。

 以下の三つは同時に達成することができず、どれか二つを取れば、残りは犠牲にしたり縮小せざるをえないという考え方です。「エコノミスト」が掲げた三つは、「国家主権」「グローバルキャピタルマーケット」「国際的な規制」、ロドリック氏の三つは「グローバリゼーション」「国家主権」「民主主義」です。

未来を選ぶには、見極める力が必要

 ロドリック氏は、「グローバリゼーションと民主主義」をとって「国家主権」が成立しなくなっているのがEU加盟各国、「グローバリゼーションと国家主権」のために「民主主義」を後回しにしているのが共産主義中国の方針だとも言っています。

 曽根氏は、「二つをとって一つを捨てる」という方法よりは、もう少しきめの細かい見分けや仕分けができるはずだと提案しています。国民の私たちが見極める力を磨けば、より良い未来を選択できるということなのではないでしょうか。
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今井むつみ
一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授