社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
家康に天下を獲らせた意外な人物がいた!
最上義光は家康率いる東軍に勝利をもたらした立役者の一人
関ケ原の戦いで、徳川家康率いる東軍がなぜ勝てたのか? 小早川秀秋の裏切り、情報戦の勝利などがよく知られていますが、実はあまり知られていない一人の立役者がいます。それは「最上義光(もがみよしあき)」です。歴史好きの方なら、最上義光の名前はご存じでしょう。現在の山形県(出羽国)を中心に活躍した戦国大名です。伊達政宗の叔父であり、ライバルである一方、上杉家とも争っています。NHK大河ドラマ「独眼竜政宗」では、謀略の限りを尽くした「悪役」として描かれており、悪いイメージを抱いている方も多いかもしれません。
しかし、『家康に天下を獲らせた男 最上義光』(柏書房)を書いた山形大学人文学部人間文化学科教授・松尾剛次氏は、史料を基に、従来の悪役イメージとは異なる義光の姿を浮かび上がらせています。松尾氏は日本中世史・日本仏教史が専門で、2002年から山形大学で最上義光研究に着手、2016年に同書を上梓しています。ちなみに2014年には、その最上義光研究などに対し、山形市市政功労賞(教育・文化部門)が授与されています。
その松尾氏によれば、最上義光は現在の山形市の基本的な町づくりを行い、米どころ・庄内地方の開発にも力を入れた大名ということです。また、文化人としても知られており、特に連歌が得意で、京都の一流連歌師を呼んでよく連歌会を開いていました。さらに、「独眼竜政宗」で悪い印象がつく原因となった政宗毒殺未遂事件は、実は間違いであることがわかっています。政宗毒殺未遂事件とは、義光の妹であり、政宗の母である義姫が、政宗の弟・小次郎を愛するがあまり、政宗を毒殺しようとしたといわれる事件で、その後ろには義光がいたのではないかと考えられてきたのです。しかし最近の研究では、実は事件そのものがなかったことが判明したのです。
最上義光はなぜ57万石の大大名にのし上がったのか?
そして何より興味深いのは、江戸時代前期、最上義光が57万石の大大名にのし上がった事実です。同時期の伊達政宗が62万石ですから、最上家は伊達家とほぼ同程度の勢力を持っていたことになります。いったいなぜなのでしょうか。その秘密は「関ヶ原の戦い」にある、と松尾氏は主張しています。
最上義光は、娘の駒姫が、その夫・豊臣秀次の謀反事件に連座して秀吉に殺されたことなどもあって、もともと家康と関係の深い大名でした。しかし、関ヶ原の戦いそのものには参加していません。なぜなら、同じタイミングで「奥羽の関ヶ原合戦」を繰り広げていたからです。あまり知られていませんが、関ヶ原の戦いは岐阜・関ヶ原だけでなく、東北や九州でも行われていたのです。
このとき最上義光が戦っていたのは、上杉景勝です。上杉景勝は豊臣家の五大老の一人で西軍の代表的人物でした。景勝は、NHK大河ドラマ「天地人」で有名になった直江兼続を大将に据え、東軍の最上攻めに3万人近くの兵を送り込んできました。しかし、最上は全部でせいぜい1万に過ぎません。圧倒的に不利な状況でした。しかし、この頃には同じ東軍として友好関係を結んでいた伊達の援軍も得て、最上軍は奮闘します。直江勢は攻めても攻めても最上軍の長谷堂城を落とすことができませんでした。そして、関ヶ原の戦いで家康が勝つまで、持ちこたえたのです。関ヶ原の戦いが終わった後、直江勢は撤退していきました。
この上杉景勝の大軍勢を奥羽の地に足止めし、家康の勝利に貢献した最上義光の役割は極めて大きいものがあったと松尾氏は語っています。実際、家康は義光が関ヶ原合戦での勝利に貢献したことを認めて、上杉が治めていた庄内のみならず、由利郡(秋田県南部)の支配も認めました。こうして義光は、57万石の大大名となったのです。
最上義光は戦国時代を力強く生き延び、成功を収めた大名の一人
最上家はもともと室町時代の名家・斯波氏の一族で、出羽国支配を担当した羽州探題の家柄です。義光が目標としていたのは、その羽州探題再興でした。庄内や由利郡を得たことで、彼はその目標を達成したのです。振り返ってみれば、戦国時代を力強く生き延び、成功を収めた大名の一人と言ってよいでしょう。こうしてみていくと、最上義光が「悪人」だったという印象はなくなるのではないでしょうか。実際、義光が戦国大名の中で特に目立って悪いことをしたということはありません。それは、ドラマなどのせいで付いてしまったレッテルに他ならないのです。むしろ、今の山形の土台を築いた人物として、家康の勝利と江戸の平和をもたらした人物の一人として、正当に評価されるべきではないでしょうか。
<参考文献>
『家康に天下を獲らせた男 最上義光』(松尾剛次著、柏書房)
http://www.kashiwashobo.co.jp/book/b228855.html
<関連サイト>
松尾剛次研究室ホームページ
http://www-h.yamagata-u.ac.jp/~kmatsuo/
『家康に天下を獲らせた男 最上義光』(松尾剛次著、柏書房)
http://www.kashiwashobo.co.jp/book/b228855.html
<関連サイト>
松尾剛次研究室ホームページ
http://www-h.yamagata-u.ac.jp/~kmatsuo/
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
より深い大人の教養が身に付く 『テンミニッツTV』 をオススメします。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。
『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
なぜ思春期は大事なのか?コホート研究10年の成果に迫る
今どきの若者たちのからだ、心、社会(1)ライフヒストリーからみた思春期
なぜ思春期に注目するのか。この十年来、10歳だった子どもたちのその後を10年追跡する「コホート研究」を行っている長谷川氏。離乳後の子どもが性成熟しておとなになるための準備期間にあたるこの時期が、ヒトという生物のライ...
収録日:2024/11/27
追加日:2025/07/05
フェデラリスト・ハミルトンの経済プログラム「4つの柱」
米国派経済学の礎…ハミルトンとクレイ(1)ハミルトンの経済プログラム
第2次トランプ政権において台頭する米国派経済学。実はこの保護主義的な経済学は、アメリカの成長と繁栄の土台を作っていた。その原点を振り返り解説する今シリーズ。まずはワシントン政権の財務長官でフェデラリストとして、連...
収録日:2025/05/15
追加日:2025/07/08
グリーンランドに米国の軍事拠点…北極圏の地政学的意味
地政学入門 ヨーロッパ編(10)グリーンランドと北極海
北極圏に位置する世界最大の島グリーンランド。ここはデンマークの領土なのだが、アメリカの軍事拠点でもあり、アメリカ、カナダとヨーロッパ、ロシアの間という地政学的にも重要な位置にある。また、気候変動によってその軍事...
収録日:2025/02/28
追加日:2025/07/07
スターバックスのコンセプトは「サードプレイス」
ストーリーとしての競争戦略(6)事例に見る経営者の戦略
一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授の楠木建氏が、ホットペッパーとスターバックスを事例として、コンセプトの重要性を解説する。スターバックスやホットペッパーは、「第3の場所」・「狭域情報」といったコンセプトを的確に...
収録日:2017/05/25
追加日:2017/07/18
最悪のシナリオは?…しかしなぜ日本は報復すべきでないか
第2次トランプ政権の危険性と本質(8)反エリート主義と最悪のシナリオ
反エリート主義を基本線とするトランプ大統領は、金融政策の要であるFRBですらも敵対視し、圧力をかけている。このまま専門家軽視による経済政策が進めば、コロナ禍に匹敵する経済ショックが世界的に起こる可能性がある。最終話...
収録日:2025/04/07
追加日:2025/06/28