テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
ログイン 会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2017.05.26

ニュースで話題の「忖度」ってどういう意味?

 昨今、世間を騒がせている「森友学園問題」。本来なすべき議論をそっちのけで、メディアでも国会でも取り上げられ続けました。そんな旬のニュース場面で、「忖度」という言葉がにわかに注目を集めています。

「森友学園問題」では、官僚が総理夫人の「意向を推しはかった」という意味で「忖度」が使われています。海外メディアへの会見で、「忖度」の適切な訳し方に困惑し、一時通訳が止まるという事態もニュースになりました。

 問題の取り扱われ方からも、何だか悪い言葉のように感じますが、本来「忖度」という言葉は、「“上役”の意向を推し量る」という意味ではないということをご存じでしょうか? 今回は「忖度」をはじめ、本来の意図とは違う意味で使われている言葉をご紹介します。

「忖度」についてしまったネガティブなイメージ

「忖度」は本来、「心を推測する」、「他人の気持ちを推し量る」という意味です。もちろん、相手の気持ちを察するという点において、今回のような「上役の意図を推し量る」という使い方もあるでしょう。無言のうちに空気を読むということと、近いニュアンスがあるかもしれません。しかし、決してそれだけの意味ではなく、相手の気持ちを想像し慮るという意味もあるのです。

「上役の意図を推し量る」という場面で頻繁に使われるようになったのは2000年代に入ってからといわれます。今回ニュースの話題になるくらいですから、決して目にする頻度は多くはありませんでした。しかし、「忖度」は着々と、政治の場や上下関係の上に成り立つ、「上役への気遣い」というニュアンスが強くなっています。

誤用の多い言葉たち

「忖度」のように、本来の意味の一面がピックアップされたり、ニュアンスが変わってしまっている言葉はたくさんあります。

・「潮時」

 例えば「潮時」という言葉は、本来「物事をはじめたり終えたりするのに、適当な時機」、つまりポジティブな意味での好機ということで、はじまりにも、終わりにも使える言葉です。しかし、多くの人が「終わり」を意図する言葉として使っています。実際に2012年に文化庁が行った調査では、「ものごとの終わり」で使う人が36.1%という結果が出ました。「終わり」というニュアンスから、どことなくネガティブな印象を受ける人もいるかもしれません。

・「なし崩し」

 なぜかマイナスで使われるようになった言葉に「なし崩し」があります。「仕事をなし崩しに進めて行く」というと、「そんな仕事の仕方で大丈夫?」と思いませんか? 実は、「なし崩し」の本来の意味は「物事を少しずつかたづけていくこと」。着々と進んでいるという意味で、投げやりにとりあえず済ませていくということではないのです。

・「敷居が高い」

 レストランやお店などに「高級すぎたり、上品すぎて入りづらい」という意味で使う方は多いと思います。しかし、本来は「不義理や面目のないことがあって、その人の家へ行きにくい」という意味です。いずれも入りづらい、行きづらいという意味ですが、元々は後ろめたさのある言葉なんです。

・「煮詰まる」

 答えが出ない、問題が解決しないときに「煮詰まった」と表現することがありますが、実はこれも本来の使い方ではありません。正しくは「結論が出る段階に近づく」こと。まるで逆の使い方です。

・「気がおけない」

 誤用の代表例のような形で紹介されますが、「遠慮したり気をつかったりする必要がなく、心から打ち解けることができる」ことを指します。「ない」という言葉がネガティブに感じるためか、逆の場面で利用したり、「気がおける」など本来はない言葉が生まれたりもしています。

時代によって言葉は変化する

 いかがでしたでしょうか? 調べてみると誤用が多い言葉はまだまだあります。

 しかし、確かに言葉を正しく使うということは大切ですが、その一方で言葉は時代によって変化するものです。誤用でも使う人が多くなれば、辞書の内容も改訂され、誤用も正しい言葉となり、時には新しい言葉として認められるようになります。

 大切なのは言葉はお互いの思いを伝えるためのツールだということです。プラスの意味で言ったつもりが、マイナスの言葉として受け取られたり、時にはその逆もあるでしょう。きちんと相手の意図を理解し、感情をくみ取ること、それこそ正しい意味での「忖度」が役に立つかもしれませんね。
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
「学ぶことが楽しい」方には 『テンミニッツTV』 がオススメです。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,300本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

経営をひと言で?…松下幸之助曰く「2つじゃいけないか」

経営をひと言で?…松下幸之助曰く「2つじゃいけないか」

東洋の叡智に学ぶ経営の真髄(1)経営とは何かをひと言で?

東洋思想を研究する中で、50年間追求してきた命題の解を得たと田口佳史氏は言う。また、その命題を得るきっかけとなったのは松下幸之助との出会いだった。果たしてその命題とは何か、生涯の研究となる東洋思想とどのように結び...
収録日:2024/09/19
追加日:2024/11/21
2

次の時代は絶対にアメリカだ…私費で渡米した原敬の真骨頂

次の時代は絶対にアメリカだ…私費で渡米した原敬の真骨頂

今求められるリーダー像とは(3)原敬と松下幸之助…成功の要点

猛獣型リーダーの典型として、ジェネラリスト原敬を忘れてはならない。ジャーナリスト、官僚、実業家、政治家として、いずれも目覚ましい実績を上げた彼の人生は「賊軍」出身というレッテルから始まった。世界を見る目を養い、...
収録日:2024/09/26
追加日:2024/11/20
神藏孝之
公益財団法人松下幸之助記念志財団 理事
3

冷戦終焉から30年、激変する世界の行方を追う

冷戦終焉から30年、激変する世界の行方を追う

ポスト冷戦の終焉と日本政治(1)「偽りの和解」と「対テロ戦争」の時代

これから世界は激動の時代を迎える。その見通しを持ったのは冷戦終焉がしきりに叫ばれていた時だ――中西輝政氏はこう話す。多くの人びとが冷戦終焉後の世界に期待を寄せる中、アメリカやヨーロッパ諸国、またロシアや同じく共産...
収録日:2023/05/24
追加日:2023/06/27
中西輝政
京都大学名誉教授
4

遊女の実像…「苦界と公界」江戸時代の吉原遊郭の二面性

遊女の実像…「苦界と公界」江戸時代の吉原遊郭の二面性

『江戸名所図会』で歩く東京~吉原(1)「苦界」とは異なる江戸時代の吉原

『江戸名所図会』を手がかりに江戸時代の人々の暮らしぶりをひもとく本シリーズ。今回は、遊郭として名高い吉原を取り上げる。遊女の過酷さがクローズアップされがちな吉原だが、江戸時代の吉原には違う一面もあったようだ。政...
収録日:2024/06/05
追加日:2024/11/18
堀口茉純
歴史作家
5

国の借金は誰が払う?人口減少による社会保障負担増の問題

国の借金は誰が払う?人口減少による社会保障負担増の問題

教養としての「人口減少問題と社会保障」(4)増え続ける社会保障負担

人口減少が社会にどのような影響を与えるのか。それは政府支出、特に社会保障給付費の増加という形で現れる。ではどれくらい増えているのか。日本の一般会計の収支の推移、社会保障費の推移、一生のうちに人間一人がどれほど行...
収録日:2024/07/13
追加日:2024/11/19
森田朗
一般社団法人 次世代基盤政策研究所(NFI)所長・代表理事