社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
21世紀のいま、ローマ史を学ぶ意義とは?
「古代ローマ史を学ぶ意義は?」と問われたときに、「世界史のなかでも、特にローマ史に絞る意味は?」と問い返したくなる方は、多いのではないでしょうか。歴史を学ぶこと自体については、ドイツの鉄血宰相ビスマルクの「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」の言葉が言い尽くしています。しかし、それだけで言い切れない何かが、ローマ史には潜んでいるということなのです。
自分の今置かれた位置づけから一旦離れ、似たような事象を時代も人物もかけ離れた歴史の中に探ってみることは、問題解決の何よりのカギとなります。英国人が愛してやまない政治家チャーチャルにも「過去をより遠くまで振り返ることができれば、未来もそれだけ遠くまで見渡せるだろう」との言葉があります。
さらに本村氏が「歴史に対する皮肉な見方」として、あえて紹介するのが、ビスマルクより一世代上の哲学者ヘーゲルの「人類が歴史から学んだことがたった一つある。それは、人類は歴史から何も学ばなかったということだ」という言葉です。実はこれこそが、歴史に学ぶ意義の大きさを反語的に伝える表現なのかもしれません。
長い4000年の古代の間に、人類は文字を使い、貨幣を流通させ、政治形態や宗教、そして国家の制度を整えてきました。21世に入って以来、テロリズムや地政学上の脅威が身近になっている現代にこそ、我々の行動を古代のシステムがどれほど規制しているかを見つめる必要がある、と本村氏は言います。
複雑にもつれた問題を考えるときこそ、原初にさかのぼる必要があるのでしょう。ローマ史は、ビジネスや人間関係に悩む人にとって、宝の山なのです。
「ローマ氏の中で人類史の経験がほとんど行われている。あの1200年の歴史の中には、人類が経験するようなことがほとんど行われていて、いわば社会科学の一つの実験場のようなものとしてある」
一方、ローマ史を「世界史の中の一流ブランド」と讃えるのは、『ローマ人の物語』全15巻を約15年かけて書き継いだ、イタリア在住の作家塩野七生氏です。塩野氏は、一連の著作により日本における古代ローマ史やイタリア史、イタリア文化への関心を高めたことから、ローマ名誉市民、イタリア永住権、さらにイタリア共和国功労勲章グランデ・ウッフィチャーレ章を獲得しています。
人類史5000年のうちの4000年を占める古代史の一番最後に出てきて、古代を締めくくり、中世への橋渡しをするのがローマ史。「人類史の経験がほとんど」入っているという、その変革の様子を参照することは、単なる振り返りや懐古趣味には終わらないでしょう。
時間も領土も、たて横そろったローマ史の魅力
ローマ帝国の特殊性を、ローマ史研究家の早稲田大学国際教養学部特任教授・本村凌二氏は、その時間的な長さ(1200年、東ローマ帝国も含めると2000年)と版図の広さ(現在のEUなど比較になりません)にあると指摘します。いわば「たて横そろった」状態なので、さまざまな場合に参照できるケースが多様に存在する、というわけです。自分の今置かれた位置づけから一旦離れ、似たような事象を時代も人物もかけ離れた歴史の中に探ってみることは、問題解決の何よりのカギとなります。英国人が愛してやまない政治家チャーチャルにも「過去をより遠くまで振り返ることができれば、未来もそれだけ遠くまで見渡せるだろう」との言葉があります。
さらに本村氏が「歴史に対する皮肉な見方」として、あえて紹介するのが、ビスマルクより一世代上の哲学者ヘーゲルの「人類が歴史から学んだことがたった一つある。それは、人類は歴史から何も学ばなかったということだ」という言葉です。実はこれこそが、歴史に学ぶ意義の大きさを反語的に伝える表現なのかもしれません。
人類史5000年のうち、古代でないのはたったの1000年
移り変わりの激しいのは世の常ですから、「古代」のことを知っても「現代」には何の役にも立たないと切り捨てている方も多いでしょう。しかし、人類が初めて文字によって記録を残しはじめた5000年前を歴史のあけぼのと見ても、古代は4000年の長きに渡ります。つまり、残りの中世・近世・近代・現代は、合わせても1000年の歴史しか持っていないということです。長い4000年の古代の間に、人類は文字を使い、貨幣を流通させ、政治形態や宗教、そして国家の制度を整えてきました。21世に入って以来、テロリズムや地政学上の脅威が身近になっている現代にこそ、我々の行動を古代のシステムがどれほど規制しているかを見つめる必要がある、と本村氏は言います。
複雑にもつれた問題を考えるときこそ、原初にさかのぼる必要があるのでしょう。ローマ史は、ビジネスや人間関係に悩む人にとって、宝の山なのです。
一流の知識人が認める歴史の一級ブランドとして
本村氏自身が大学院生だった頃、ローマ史を本格的に研究する決意に確信を得たのは、戦後の代表的知識人である丸山眞男氏による次の言葉でした。「ローマ氏の中で人類史の経験がほとんど行われている。あの1200年の歴史の中には、人類が経験するようなことがほとんど行われていて、いわば社会科学の一つの実験場のようなものとしてある」
一方、ローマ史を「世界史の中の一流ブランド」と讃えるのは、『ローマ人の物語』全15巻を約15年かけて書き継いだ、イタリア在住の作家塩野七生氏です。塩野氏は、一連の著作により日本における古代ローマ史やイタリア史、イタリア文化への関心を高めたことから、ローマ名誉市民、イタリア永住権、さらにイタリア共和国功労勲章グランデ・ウッフィチャーレ章を獲得しています。
人類史5000年のうちの4000年を占める古代史の一番最後に出てきて、古代を締めくくり、中世への橋渡しをするのがローマ史。「人類史の経験がほとんど」入っているという、その変革の様子を参照することは、単なる振り返りや懐古趣味には終わらないでしょう。
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
より深い大人の教養が身に付く 『テンミニッツTV』 をオススメします。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。
『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
日本でも中国でもない…ラストベルトをつくった張本人は?
内側から見たアメリカと日本(1)ラストベルトをつくったのは誰か
アメリカは一体どうなってしまったのか。今後どうなるのか。重要な同盟国として緊密な関係を結んできた日本にとって、避けては通れない問題である。このシリーズ講義では、ほぼ1世紀にわたるアメリカ近現代史の中で大きな結節点...
収録日:2025/09/02
追加日:2025/11/10
密教の世界観は全宇宙を分割せずに「つないでいく」
エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(4)全てをつなぐ密教の世界観
岡本浩氏、長谷川敏彦氏の話を受けて、今回から鎌田氏による講義となる。まず指摘するのは、空海が説く『弁顕密二教論』の考え方である。この著書で空海は、仏教の顕教は「中論」「唯識論」「空観」など世界を分割して見ていく...
収録日:2025/03/03
追加日:2025/11/20
島田晴雄先生の体験談から浮かびあがるアメリカと日本
編集部ラジオ2025(28)内側から見た日米社会の実状とは
ある国について、あるいはその社会についての詳細な実状は、なかなか外側からではわからないところがあります。やはり、その国についてよくよく知るためには、そこに住んでみるのがいちばんでしょう。さらにいえば、たんに住む...
収録日:2025/10/17
追加日:2025/11/20
知ってるつもり、過大評価…バイアス解決の鍵は「謙虚さ」
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(3)認知バイアスとの正しい向き合い方
人間がこの世界を生きていく上で、バイアスは避けられない。しかし、そこに居直って自分を過大評価してしまうと、それは傲慢になる。よって、どんな仕事においてももっとも大切なことは「謙虚さ」だと言う今井氏。ただそれは、...
収録日:2025/05/12
追加日:2025/11/16
成長を促す「3つの経験」とは?経験学習の基本を学ぶ
経験学習を促すリーダーシップ(1)経験学習の基本
組織のまとめ役として、どのように接すれば部下やメンバーの成長をサポートできるか。多くの人が直面するその課題に対して、「経験学習」に着目したアプローチが有効だと松尾氏はいう。では経験学習とは何か。個人、そして集団...
収録日:2025/06/27
追加日:2025/09/10


