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DATE/ 2017.07.12

愛の宗教キリスト教に「いのちの倫理」を学ぶ

 キリスト教は「愛の宗教」、聖書は「いのちの書」であると言われます。聖書の記述は、現代の日本人が日常の意識のままで読んでも、なかなか腑に落ちることはなく、「読もう!」と意気込んでも、尻すぼみになることが多いのではないでしょうか。上智大学神学部で教えている竹内修一氏は、その点を「聖書はハウツー本ではありません」と語っています。どんなふうに読めば、「いのちと愛」の関係がわかってくるのか、静かに耳を傾けてみましょう。

人によって引き出せるものが違う「いのちの書」聖書

 聖書が「いのちの書」と呼ばれるのは、知識ではなく知恵が語られているからです。誰が読んでも同じ内容を引き出せるのが「知識」なら、解釈に幅のあるのが「知恵」。受け取り方や咀嚼の仕方によってまったく違う、現実への生かし方が可能になるのが聖書の面白いところだ、と竹内氏は話します。

 臓器移植や遺伝子治療、脳死など、最先端の医療現場で用いられる「生命倫理(バイオエシックス)」という言葉よりも広いニュアンスで「いのちの倫理」について研究する、氏ならではの受け止め方でしょう。

聖書が使い分ける3種類の愛

 「汝の隣人を愛せよ」とイエスが説いたことは有名ですが、新約聖書で用いられる「愛」の言葉に3種類の違いがあることは、ご存じだったでしょうか。

 満たされていないものを相手に求める「エロス」、互いに友愛を結ぶ「フィリア」、ひたすら自分が与える「アガペー」。その3種類が使い分けられているのです。

 ヨハネによる福音書13章34節では、「あなたがたに新しい掟を与える。互いに愛し合いなさい。わたしがあなたがたを愛したように、あなたがたも互いに愛し合いなさい」と記されています。この「愛」はアガペーであり、「ひたすら与える」こと、究極的には「友のために命を捨てる」ことまでが求められているわけです。

イエスの愛、ペトロの愛

 同じ福音書の21章は、イエスがシモン・ペトロに対して、「ヨハネの子シモン。あなたは、この人たち以上に、わたしを愛しますか」と尋ねる場面です。ペトロは「はい。主よ。私があなたを愛することは、あなたがご存じです」と答え、イエスは彼に「わたしの子羊を飼いなさい」と告げます。

 同様の問答が三度繰り返されるのですが、これは何を意図しているのでしょう。

 一つは、「愛」の使い分けです。イエスがペトロに質問したのは、すべて「アガパオー」すなわちアガペーの言葉で、無償の愛・永遠で無限の愛の有無が問われました。それに対してペテロはへりくだり、「フィレオー」すなわちフィリアという自然な友愛の言葉を用いたのです。イエスはもちろんこれに気づきながら、「今はそれでも仕方がない」と考えられたのだろうと竹内氏は説きます。

 この後、イエスは処刑されていきますが、「鶏が鳴くまでに、あなたは三度わたしを知らないと言います」と告げられたペテロは全力で否定しながら、鶏鳴を聞いた瞬間に、自分がイエスを三度否んだことに気づき、号泣するのです。イエスが三度「わたしを愛しますか」と尋ねたのは、ペトロの過ちを予見して赦し、「わたしの羊飼いとして」立ち直らせるためでもあったのです。

イエスの愛、ペトロの愛

 羊飼いとは、キリスト教を伝道する仕事です。のちにペトロはローマで殉教したと伝えられ、その墓所跡に建てられたのがヴァチカンの総本山、サン・ピエトロ大聖堂です。

 竹内氏はさらに、マタイによる福音書から、イエス復活後の場面も引用してみせます。11人の弟子たちの中にはよみがえったイエスの姿を見ながら、「しかし、疑う者もいた」と記されています。

 そんな彼らに向かって、「あなた方は行って、すべての民をわたしの弟子にしなさい」と伝えるイエスの真意。自分を疑うような弟子であっても、すべてを託し、任せることができた「愛」の大きさを、竹内氏は至上の愛として語るのです。
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