社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
バランス感覚に長けたローマ初代皇帝アウグストゥス
英語の月名の一部がローマ皇帝に由来(July,August)しているのはよく知られたことですが、企業が資金提供をして文化・芸術活動を支援する「メセナ」。これも元をたどれば古代ローマのある人物に由来しています。その人物とはローマ初代皇帝アウグストゥスの側近ガイウス・マエケナス。マエケナスMaecenasがフランス語のmécénatに転じたのです。
文化面から若き皇帝を支えたのがマエケナスなら、軍事面で支えたのがもう一人の優れた側近アグリッパです。彼はカエサルの下で軍務についていた時にオクタウィアヌスに引き合わされ、二人とも同年代ということもあり意気投合。決して軍才に恵まれているとは言えないオクタィアヌスの腹心として、ローマを支えました。オクタウィアヌスがアクティウムの海戦で、アントニウス・エジプトの連合軍に勝利し、実質的なローマの統治者として君臨するきっかけをつかんだのも、この勇将アグリッパの存在あってこそと言われています。
このように帝国形成のスタート段階で、軍事と文化、剛柔バランスよく優れた側近が存在していたということは、大変意味のあることといえるでしょう。
一方、私人としてはなかなかに温情あふれる魅力ある人物であったようです。ある時、従者を一人つれて森を散歩していたところに、イノシシが突然現れました。驚いた従者は、あろうことか自分一人でさっさと逃げてしまったのです。普通ならば、「主人を置き去りにして自分だけ逃げるとは何事か」と怒って処罰しても不思議ではないのに、アウグストゥスは、「あいつ、先に逃げやがって」と笑い飛ばして終わりだったそうです。プライベートでのアクシデントでもあり、誰もけがをしなかったわけだし、と笑って済ませる大らかさが彼にはありました。
ローマ初代の皇帝として君臨したこの青年は、性格においても政策の進め方においても、そして部下の人選でも、すべてにおいてバランス感覚に優れた指導者であったようです。
皇帝を文武両面から支えた二人の側近
古代ローマ史を専門とする歴史学者・本村凌二氏によれば、マエケナスはローマという国家が世界に名だたる一大帝国となっていくその過程で、文化面からローマの威容を発信していく重要性を心していた人物でした。その具体策として彼は、ローマの建国叙事詩『アエネーイス』の執筆を進める詩人ウェルギリウスをはじめ、多くの詩人、文人を集め、経済的援助でバックアップしていたのです。トロイア陥落後、戦いを重ねて新天地イタリアに至る『アエネーイス』の主人公アエネーアースに、人々は後にローマを統治するオクタウィアヌスの姿を重ねたことでしょう。文化面から若き皇帝を支えたのがマエケナスなら、軍事面で支えたのがもう一人の優れた側近アグリッパです。彼はカエサルの下で軍務についていた時にオクタウィアヌスに引き合わされ、二人とも同年代ということもあり意気投合。決して軍才に恵まれているとは言えないオクタィアヌスの腹心として、ローマを支えました。オクタウィアヌスがアクティウムの海戦で、アントニウス・エジプトの連合軍に勝利し、実質的なローマの統治者として君臨するきっかけをつかんだのも、この勇将アグリッパの存在あってこそと言われています。
このように帝国形成のスタート段階で、軍事と文化、剛柔バランスよく優れた側近が存在していたということは、大変意味のあることといえるでしょう。
公人と私人、二つの顔を巧みに使い分ける
このように優れた信頼できる部下が集まったのは、アウグストゥスが公私のバランスをとってきちんと使い分けることができる人物だったからだと、本村氏は言います。公人としては、非常に実利的で合理的。冷静で決まり事には厳格をもって処すると伝えられており、部下の従者が姦通の罪を犯したことが発覚すると、あるべき秩序を乱したということで、その男の足を切断するという厳罰を下しました。一方、私人としてはなかなかに温情あふれる魅力ある人物であったようです。ある時、従者を一人つれて森を散歩していたところに、イノシシが突然現れました。驚いた従者は、あろうことか自分一人でさっさと逃げてしまったのです。普通ならば、「主人を置き去りにして自分だけ逃げるとは何事か」と怒って処罰しても不思議ではないのに、アウグストゥスは、「あいつ、先に逃げやがって」と笑い飛ばして終わりだったそうです。プライベートでのアクシデントでもあり、誰もけがをしなかったわけだし、と笑って済ませる大らかさが彼にはありました。
バランス感覚に裏打ちされたリーダーシップ
思えばオクタウィアヌスは「尊厳なるもの」という偉大な称号を得てからも、独裁制を嫌うローマ共和制の伝統を尊重し、「自分はローマ市民の第一人者・プリンケプスである」と強調することを忘れませんでした。「権力においては他の人と同じで、特に秀でているわけではない」という態度を常に意識し、実際には優れた側近の力も借りて、実質的な統治を着々と進めていく。公私の使い分けと同じように、建前と本音のバランスもうまくとっていたということでしょう。ローマ初代の皇帝として君臨したこの青年は、性格においても政策の進め方においても、そして部下の人選でも、すべてにおいてバランス感覚に優れた指導者であったようです。
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
「学ぶことが楽しい」方には 『テンミニッツTV』 がオススメです。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。
『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
あなたは縄文系?弥生系?…弥生時代の実態に迫る
編集部ラジオ2025(10)弥生人の遺伝子、生活、文化
「自分は縄文系だろうか? それとも弥生系だろうか?」。そんなことを、ふと考えたことはありませんか。
日本は、縄文系の遺伝子や文化がいまなお色濃く残りつつ、そこに弥生系の遺伝子・文化が絶妙に混交して、独...
日本は、縄文系の遺伝子や文化がいまなお色濃く残りつつ、そこに弥生系の遺伝子・文化が絶妙に混交して、独...
収録日:2024/04/03
追加日:2025/05/29
なぜ日本の医療はテロに対応できないのか?三つの理由
医療から考える国家安全保障上の脅威(5)日本の医療の問題点と提言
残念なことだが、現在の日本の医療はテロ攻撃には対応できない。その理由として、テロの悪意に対して無防備なこと、時代遅れの教科書的知識しか持っていないこと、テロで想定される健康被害に対応できる医療体制にないこと、が...
収録日:2024/09/20
追加日:2025/05/29
なぜ弥生時代の始まりが600年も改まった?定説改訂の背景
弥生人の実態~研究結果が明かす生活と文化(1)弥生時代はいつ始まったのか
弥生時代の始まりが600年ほどさかのぼった――私たちがかつて教科書で習ってきた知識は日々の研究によって更新され、紀元前3世紀だった弥生時代の開始年代の定説が近年、測定法の洗練によって大幅に改められたのだ。その背景には...
収録日:2024/07/29
追加日:2025/03/19
なぜ東郷平八郎はバルチック艦隊を対馬で迎え撃ったのか?
戦史に見る意思決定プロセス~日本海軍の決断(1)日本海海戦・東郷平八郎
「もしも自分が東郷平八郎だったら・・・」バルチック艦隊の迎撃作戦でどんな決断を下すだろうか。海上自衛隊幹部学校長・山下万喜氏が、現在西側諸国を中心に使われている意思決定プロセスを日露戦争・日本海海戦に適用し、そ...
収録日:2015/06/15
追加日:2015/07/20
ハミルトン経済学に立脚した「米国システム」4つの柱とは
米国システムの逆襲~解放の日と新世界秩序(2)ハミルトン経済学と米国システム
トランプ大統領が標榜する「米国システム」の思想の背景には、関税政策を軸に大英帝国の自由主義に対抗せねばならないというハミルトン経済学の思想があった。かつてのアメリカの「独立」と現在を重ね、反グローバリズムに舵を...
収録日:2025/04/25
追加日:2025/05/27