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国境がなくなる?「欧州最高の知性」の未来予測
未来予測は今の日本でははやらないようですが、欧米では「未来学者(フューチャリスト)」と呼ばれる人たちがいます。「現在の選択」が何年(世紀)後の未来にどう影響していくかを分析していくもの。その筆頭とも言えるのが、「ヨーロッパ復興開発銀行」初代総裁を務め、「ヨーロッパ最高の知性」とも称される経済学者のジャック・アタリ氏です。
誰もが「まさか」と思ったドナルド・トランプ氏の勝利を予測し、エマニュエル・マクロン氏を政治の世界に引き入れた「EUの預言者」は、2030年をどう予測しているのでしょうか。大ベストセラーになった『21世紀の歴史』に続いて、2017年に刊行された『2030年ジャック・アタリの未来予測』から一部をご紹介します。
コンピュータの性能が向上して、2025年以降、人間の演算速度との差は3.5倍まで縮まります。機械学習や深層学習で進歩を遂げたAIは、さまざまな場所で人間と会話するようになり、とくに知識や医療分野の自動化に貢献していきます。AI搭載ロボットの登場は、人間の学習・会話・知覚・作曲・感情刺激を促すとともに、機械と人間の違いを深く考えさせ、一部では不死願望をつのらせる人も登場するでしょう。
ビッグデータの威力が増す2030年には、モノのインターネット(IoT)も格段の進歩を遂げています。1500億個の「モノ」がインターネットを通じて互いに、そして数十億人の人々とつながるようになるとの見積もりです。その市場規模は、2025年の段階で4兆ドルから11兆ドル。世界のGDPの7.5~21パーセントに相当するシェアを占めます。
3Dプリンターの普及による生産手段の一変、拡張現実や仮想現実の導入による現実と仮想の混合(建設現場や戦場でさえ、バーチャルに歩き回れるようになる!)、セマンティック検索の発展が人工知能と結びつくWeb4.0時代の到来なども、現在の動向から2030年に実現すると見られる事項の一部。ナノメートル単位の新たな素材がついに登場し、医療や環境をはじめとする分野の研究を推進させるのも、この頃の画期的な出来事と考えられています。
主にアフリカとアジアで増えた人口は、中産階級の増加をもたらします。2016年に世界で18億人の中産階級が、2030年には49億人にまで増えますが、うち66パーセントがアジア人。ハイレベルな教育を受けた中産階級の増加によって、所有権、人権、労働者の権利、民主主義の尊重など、法の安定した支配が強く求められる、とアタリ氏は見ています。
イノベーションがどれほど画期的で魅力的であっても、技術の進歩によって雇用は破壊され、富のさらなる集中が加速します。この頃になると、人類の3分の2は都市部で生活し、その基盤を支えるために働き盛りで有能な移民が大量に必要になる地域が増加します。国境の役割も現在とは様変わりし、自動翻訳機の普及がそれを後押しするでしょう。
国家間の均衡が急速に変化するとはいえ、2030年の世界最大勢力はアメリカであり続けると考えられています。アップル、フェイスブック、アマゾン、グーグルなどトップ企業の売上高は大国のGDPを上回り、企業が国家より強力になる時代が来るのは確実です。そうした企業が、自分たちは国から独立した高みにいて、国同士を競争させることで企業活動をより有利にする条件を国に押し付けていくことが、地政学的秩序の崩壊を招きます。
ただ、地球政府が誕生して、市場に法秩序を遵守させるようなことは起こりません。未来は、80億人の行動、創造力、憤懣、錯乱、激怒、そして世の中をよくしようとする意思の絶えざる相互作用から生じていきます。「自分自身の人生を大切にすること」だけが未来を悪夢から救う方法であり、「世界の行方は、各自が自分自身になれるかどうかにかかっている」とアタリ氏は断言しています。
誰もが「まさか」と思ったドナルド・トランプ氏の勝利を予測し、エマニュエル・マクロン氏を政治の世界に引き入れた「EUの預言者」は、2030年をどう予測しているのでしょうか。大ベストセラーになった『21世紀の歴史』に続いて、2017年に刊行された『2030年ジャック・アタリの未来予測』から一部をご紹介します。
人類史上稀にみるテクノロジー・イノベーションが続出
2016年から2030年までの15年間を、アタリ氏は「人類史上稀にみる大型のテクノロジー・イノベーションが続出」するエポック・メイキングな時代ととらえています。コンピュータの性能が向上して、2025年以降、人間の演算速度との差は3.5倍まで縮まります。機械学習や深層学習で進歩を遂げたAIは、さまざまな場所で人間と会話するようになり、とくに知識や医療分野の自動化に貢献していきます。AI搭載ロボットの登場は、人間の学習・会話・知覚・作曲・感情刺激を促すとともに、機械と人間の違いを深く考えさせ、一部では不死願望をつのらせる人も登場するでしょう。
ビッグデータの威力が増す2030年には、モノのインターネット(IoT)も格段の進歩を遂げています。1500億個の「モノ」がインターネットを通じて互いに、そして数十億人の人々とつながるようになるとの見積もりです。その市場規模は、2025年の段階で4兆ドルから11兆ドル。世界のGDPの7.5~21パーセントに相当するシェアを占めます。
3Dプリンターの普及による生産手段の一変、拡張現実や仮想現実の導入による現実と仮想の混合(建設現場や戦場でさえ、バーチャルに歩き回れるようになる!)、セマンティック検索の発展が人工知能と結びつくWeb4.0時代の到来なども、現在の動向から2030年に実現すると見られる事項の一部。ナノメートル単位の新たな素材がついに登場し、医療や環境をはじめとする分野の研究を推進させるのも、この頃の画期的な出来事と考えられています。
アジア・アフリカの人口が増え、国境は有名無実になる?
一方、テクノロジーの恩恵を利用する人間の状況はどうなっているでしょうか。2030年の世界人口は、今日よりも10億人増の83億~85億人。増えるのはアフリカ、インド、中国で、フランスとアイルランドを除くヨーロッパ諸国やロシア、韓国、日本の人口は、大規模な移民流入がない限り、減少していくといわれています。主にアフリカとアジアで増えた人口は、中産階級の増加をもたらします。2016年に世界で18億人の中産階級が、2030年には49億人にまで増えますが、うち66パーセントがアジア人。ハイレベルな教育を受けた中産階級の増加によって、所有権、人権、労働者の権利、民主主義の尊重など、法の安定した支配が強く求められる、とアタリ氏は見ています。
イノベーションがどれほど画期的で魅力的であっても、技術の進歩によって雇用は破壊され、富のさらなる集中が加速します。この頃になると、人類の3分の2は都市部で生活し、その基盤を支えるために働き盛りで有能な移民が大量に必要になる地域が増加します。国境の役割も現在とは様変わりし、自動翻訳機の普及がそれを後押しするでしょう。
多国籍企業が国を手玉にとる未来を回避するには?
アタリ氏が危惧しているのは、2030年にはこの世を耐え難く思う人々が現在よりも圧倒的に増え、ささいな危機をきっかけに世界を大混乱に導くことです。国家間の均衡が急速に変化するとはいえ、2030年の世界最大勢力はアメリカであり続けると考えられています。アップル、フェイスブック、アマゾン、グーグルなどトップ企業の売上高は大国のGDPを上回り、企業が国家より強力になる時代が来るのは確実です。そうした企業が、自分たちは国から独立した高みにいて、国同士を競争させることで企業活動をより有利にする条件を国に押し付けていくことが、地政学的秩序の崩壊を招きます。
ただ、地球政府が誕生して、市場に法秩序を遵守させるようなことは起こりません。未来は、80億人の行動、創造力、憤懣、錯乱、激怒、そして世の中をよくしようとする意思の絶えざる相互作用から生じていきます。「自分自身の人生を大切にすること」だけが未来を悪夢から救う方法であり、「世界の行方は、各自が自分自身になれるかどうかにかかっている」とアタリ氏は断言しています。
<参考文献>
・『2030年ジャック・アタリの未来予測 ―不確実な世の中をサバイブせよ!』(ジャック・アタリ著、林昌宏翻訳、プレジデント社)
・『2030年ジャック・アタリの未来予測 ―不確実な世の中をサバイブせよ!』(ジャック・アタリ著、林昌宏翻訳、プレジデント社)
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