社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
大国は同盟国を裏切る…日英同盟にみる歴史の教訓
2017年11月5日~7日、トランプ米大統領が初来日しました。2016年の大統領選挙中は「日本の駐留米軍の経費を全額、日本に負担してもらう」などの発言で物議を醸したトランプ氏ですが、日米首脳会談では「日本がもっと武器を買えばいい」とストレートに提案。ディールはスムーズに運んだのか、ゴルフに会合に話題を振りまいて、安倍首相と笑顔で握手の2ショット。「日米同盟の揺るぎない絆を世界に向かって示した」と自画自賛モードを大いに示しました。
なぜ、トランプ時代は、日英同盟時代と似ているのでしょうか。中西氏は、アメリカが中国・ロシアとの関係において瀬戸際まで追い詰められてきているから、という見方をしています。
アメリカが中国・ロシアの双方にいい顔を向けながら両者の間を分断し、かつ出費を最小限に抑える方法は、同盟国の切り捨てです。ただ、そうすればもちろん今のように同盟国から支えてもらうことはできなくなります。
同盟国とのしがらみが損か得か。そんなドライな計算をせざるをえない立場に追い込まれていることが、20世紀初頭、世界覇権国の余裕を失っていたイギリスの状況と似ていると氏は分析します。
そこで目をつけたのが、元気のいい若い国である日本です。ただ、彼らから見た当時の日本は「極東の新興国」で、ハラが読めません。ほんの少し前まで刀を差して、欧米に対してひるまず真っ向から立ち向かってきた連中なのです。そんな相手と手を結ぶ心理的抵抗を乗り越えて、イギリスが日英同盟に踏み切ったのは、「もはや後がなかった」からにほかなりません。
日英同盟を仔細に検討すると、「日本を助ける」という意図はなく、いざとなればイギリスが参戦するという条件も、かなりネグレクトされていたと中西氏は言います。しかし、イギリス以上に日本には「後がなかった」。みすみす裏切られ、見捨てられることは承知の上で、同盟を結び、決死の覚悟で日露戦争に臨んだのが当時の日本だったようです。
ずっと恐露派だった伊藤博文でさえ、「もういよいよとなったら、自分は浜辺へ出て竹やりででも」という本土決戦の覚悟を持って乗り出したのが日露戦争であり、日英同盟でした。
歴史の教訓は「大国は同盟国を裏切る」ことだ、と中西氏。日米同盟はもちろん大事にしたいが、ここまで世界が大きな変動期を迎え、トランプ政権下のアメリカの姿も見えてきた以上、自助努力と自主防衛を考える必要がわれわれには迫られているのではないでしょうか。
「パックス見せかけ」はアメリカだけでなく、ロシアや中国も強面に見せかけて、我を通そうとする大国です。実質のない上滑りな国際政治ばかりが空中戦のように飛び交う下で、日本も自分の足で立ち、外交能力を高める必要があると中西氏は呼びかけています。
「見せかけの平和」がまかり通るトランプ時代
こういったことを「パックス見せかけ(見せかけの平和)」と厳しく指摘するのが、歴史家の中西輝政氏です。1990年に『日米同盟の新しい可能性』で石橋湛山賞、2000年には『大英帝国衰亡史』で山本七平賞と毎日出版文化賞をダブル受賞した氏は、トランプ時代を日英同盟時代と重ねて注視しています。なぜ、トランプ時代は、日英同盟時代と似ているのでしょうか。中西氏は、アメリカが中国・ロシアとの関係において瀬戸際まで追い詰められてきているから、という見方をしています。
アメリカが中国・ロシアの双方にいい顔を向けながら両者の間を分断し、かつ出費を最小限に抑える方法は、同盟国の切り捨てです。ただ、そうすればもちろん今のように同盟国から支えてもらうことはできなくなります。
同盟国とのしがらみが損か得か。そんなドライな計算をせざるをえない立場に追い込まれていることが、20世紀初頭、世界覇権国の余裕を失っていたイギリスの状況と似ていると氏は分析します。
イギリスも日本も「後がなかった」日英同盟
日英同盟を結んだ頃のイギリスは、ドイツ海軍の伸長で本国近海さえ危ぶまれる状況となり、世界に派遣した軍艦を呼び返す必要に迫られていました。しかし、そうするとアジアはガラ空きになり、ロシアの進出を許すがままになる。まことに困った状況が「栄光ある孤立」の内情でした。そこで目をつけたのが、元気のいい若い国である日本です。ただ、彼らから見た当時の日本は「極東の新興国」で、ハラが読めません。ほんの少し前まで刀を差して、欧米に対してひるまず真っ向から立ち向かってきた連中なのです。そんな相手と手を結ぶ心理的抵抗を乗り越えて、イギリスが日英同盟に踏み切ったのは、「もはや後がなかった」からにほかなりません。
日英同盟を仔細に検討すると、「日本を助ける」という意図はなく、いざとなればイギリスが参戦するという条件も、かなりネグレクトされていたと中西氏は言います。しかし、イギリス以上に日本には「後がなかった」。みすみす裏切られ、見捨てられることは承知の上で、同盟を結び、決死の覚悟で日露戦争に臨んだのが当時の日本だったようです。
「大国は同盟国を裏切る」のが歴史の教訓
日英同盟を積極的に推進した人に、当時の外務大臣だった小村寿太郎がいます。ハーバード大学を首席卒業、ウォール街で弁護士を務めた経験もあるので、欧米人の発想を心底理解していました。イギリスが「親日」感情から同盟を結ぶのでないこと、最後は日本が独力でやるしかないことは、彼が最もよく知っていたはずです。ずっと恐露派だった伊藤博文でさえ、「もういよいよとなったら、自分は浜辺へ出て竹やりででも」という本土決戦の覚悟を持って乗り出したのが日露戦争であり、日英同盟でした。
歴史の教訓は「大国は同盟国を裏切る」ことだ、と中西氏。日米同盟はもちろん大事にしたいが、ここまで世界が大きな変動期を迎え、トランプ政権下のアメリカの姿も見えてきた以上、自助努力と自主防衛を考える必要がわれわれには迫られているのではないでしょうか。
「パックス見せかけ」はアメリカだけでなく、ロシアや中国も強面に見せかけて、我を通そうとする大国です。実質のない上滑りな国際政治ばかりが空中戦のように飛び交う下で、日本も自分の足で立ち、外交能力を高める必要があると中西氏は呼びかけています。
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
「学ぶことが楽しい」方には 『テンミニッツTV』 がオススメです。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。
『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
なぜ算数が苦手な子どもが多いのか?学力喪失の真相に迫る
学力喪失の危機~言語習得と理解の本質(1)数が理解できない子どもたち
たかが「1」、されど「1」――今、数の意味が理解できない子どもがたくさんいるという。そもそも私たちは、「1」という概念を、いつ、どのように理解していったのか。あらためて考え出すと不思議な、言葉という抽象概念の習得プロ...
収録日:2025/05/12
追加日:2025/10/06
浸透工作…台湾でスパイ裁判が約70件、それも氷山の一角
習近平中国の真実…米中関係・台湾問題(5)恐るべき台湾への「浸透」
日本では「台湾有事」における日本への影響を口にする人が多いが、事態はより複雑である。中国の浸透により台湾は分断を深め、内側から崩壊しようとしている。浸透しているのは軍や政府内部の大量のスパイ、反社会組織を通じた...
収録日:2025/07/01
追加日:2025/10/15
伊能忠敬に学ぶ、人生を高めて充実させる「工夫と覚悟」
伊能忠敬に学ぶ「第二の人生」の生き方(1)少年時代
伊能忠敬の生涯を通して第二の人生の生き方、セカンドキャリアについて考えるシリーズ講話。九十九里の大きな漁師宿に生まれ育った忠敬だが、船稼業に向かない父親と親方である祖父との板ばさみに悩む少年時代だった。複雑な家...
収録日:2020/01/09
追加日:2020/03/01
ジョークの精神…なぜ人は厳しいときほど笑いを磨くのか
世界のジョーク集で考える笑いの手法と精神(1)体制を笑うジョークと諷刺の精神
「ジョークは時代を映す鏡」といわれる。現代でも、紛争や戦争に直面する厳しい状況はもちろん、一部の専制国家では自由な言論が封じられた社会で、多くの人びとが暮らしている。そうした抑圧された環境下では、体制を笑う諷刺...
収録日:2024/03/14
追加日:2024/06/14
水平離着陸で宇宙へ、近未来のロケット像と進む技術開発
未来を知るための宇宙開発の歴史(12)宇宙推進技術はどこまで進化したか
ロケットは縦に発射されるのが通常思い描かれる姿であり、それが常識だったが、より快適に、より安価に飛ばすために新たなエンジン開発も進んでいる。また、宇宙空間においても、より広範囲に、あるいは長時間活動するための技...
収録日:2024/11/14
追加日:2025/10/12