社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
少子化なのに「施設の子ども」が増える日本
『夢をもてない』。世界の人権侵害に関する調査報告や監視活動を行う国際NGOであるヒューマン・ライツ・ウォッチが、日本における社会的養護下の子どもたちの実情を調べ、取りまとめた報告書のタイトルです。
89ページに及ぶレポートは2014年5月に日本語版が発表され、いつでもWEBから参照できます。ヒューマン・ライツ・ウォッチ日本代表の土井香苗氏は、人権先進国の一員である日本が、こと「子どもの人権」については遅れをとっていることを分析。「あなたも里親になって」と呼びかける声を10MTVでも届けました。
第二次世界大戦後の児童養護施設は、親と死に別れた戦争孤児・浮浪児が大多数でした。しかし、今は違います。その多くが両親あるいは片親のいずれかは生存しているが、家庭内虐待やネグレクトによって親と共に生活ができない子どもたちなのです。政府の報告によれば、児童養護施設に入所する子どもの54.7%、里親の下で生活する子どもの41.3%、乳児院に入る子どもの37.6%が家庭内虐待や父母の放任怠慢、養育拒否にあっています(平成27年度)。
「一番困ったのは生活の基本的なことがわからないことです。電気はお金を払わないと家まで送られてこないこと、電車の切符の買い方、マクドナルドでの注文の仕方がわからない」
子どもにとって一番重要なのは「家族と暮らす権利」。それは血のつながりを必ずしも意味するものではありません。
日本でも、実子に恵まれないなど、自分たちの理由で子どもを家庭に受け入れようとする養子縁組は以前からあります。しかし、家族のない子どもたちのために家族をあげようという「社会貢献としての里親」が認識されてくれば、事態は改善するはずだと土井氏は伝えます。
お金がなくても、卓越したスキルがなくても、子育てはできます。現在の「認定里親制度」では、年齢、家の広さ、収入など若干の条件はあるものの、里親リストに登録することは可能です。たとえば子どもたちを育て上げ、配偶者と別れた人でも、家族の協力など一定の条件を満たせば、里親に名乗りをあげることができます。
こうした土井氏らの努力を受けて、2016年には児童福祉法が改正され、2017年8月には「新しい社会的養育ビジョン」、12月には「社会的養育の推進に向けて」の報告書が提出されています。なかでも里親委託の推進については多くの配慮がなされ、今後「里親」「養子」は浸透していく気配を見せています。
89ページに及ぶレポートは2014年5月に日本語版が発表され、いつでもWEBから参照できます。ヒューマン・ライツ・ウォッチ日本代表の土井香苗氏は、人権先進国の一員である日本が、こと「子どもの人権」については遅れをとっていることを分析。「あなたも里親になって」と呼びかける声を10MTVでも届けました。
児童養護施設の子どもの半分が虐待サバイバー
「夢をもてない」のタイトルは、2011年12月に大阪の施設入所者としてインタビューにこたえたノゾミさん(15)の言葉、「将来の夢なんてありません」から来たもの。この調査は2011年12月から2014年2月にかけて、200人以上のインタビューと現地調査(4地方10都府県)で行われました。東日本大震災にあった地域は例外にするとしても(報告書では特別の章が設けられています)、少子化のなか、親による虐待やネグレクトに苦しんでいる子どもたちの肉声がとらえられました。第二次世界大戦後の児童養護施設は、親と死に別れた戦争孤児・浮浪児が大多数でした。しかし、今は違います。その多くが両親あるいは片親のいずれかは生存しているが、家庭内虐待やネグレクトによって親と共に生活ができない子どもたちなのです。政府の報告によれば、児童養護施設に入所する子どもの54.7%、里親の下で生活する子どもの41.3%、乳児院に入る子どもの37.6%が家庭内虐待や父母の放任怠慢、養育拒否にあっています(平成27年度)。
施設内でも起こる「いじめ」、社会常識の欠如が痛い
さらにレポートでは、施設内で起こる子ども同士のいじめや暴力にも触れています。プライバシーが守られず、多くの人に囲まれてフラストレーションいっぱいで生活する子どもの中には、ほかの子どもたちをいじめてうっぷんを晴らす例も後を絶ちません。そんななか、少なくとも施設側の大人からの「体罰」が目に見えて減ったとのことです。元施設出身の30歳女性はこんな話をしています。「一番困ったのは生活の基本的なことがわからないことです。電気はお金を払わないと家まで送られてこないこと、電車の切符の買い方、マクドナルドでの注文の仕方がわからない」
子どもにとって一番重要なのは「家族と暮らす権利」。それは血のつながりを必ずしも意味するものではありません。
「社会貢献としての里親」は、子育てが終わった世代でも
「里親になる」のは、もちろん大変重要な決断です。しかし、アメリカではアンジェリーナ・ジョリーさんのように数人の国籍の違う養子を育てる例も少なくありません。日本の里親率の低さは、他の先進国と比べると際立って少ないことがレポートでも指摘されています(要保護児童に占める里親委託児童の割合<2010年前後>:オーストラリア93.5%、香港79.8%、米国77.0%、英国71.7%、フランス54.9%、ドイツ50.6%、イタリア49.5%、韓国43.6%、日本12%)。日本でも、実子に恵まれないなど、自分たちの理由で子どもを家庭に受け入れようとする養子縁組は以前からあります。しかし、家族のない子どもたちのために家族をあげようという「社会貢献としての里親」が認識されてくれば、事態は改善するはずだと土井氏は伝えます。
お金がなくても、卓越したスキルがなくても、子育てはできます。現在の「認定里親制度」では、年齢、家の広さ、収入など若干の条件はあるものの、里親リストに登録することは可能です。たとえば子どもたちを育て上げ、配偶者と別れた人でも、家族の協力など一定の条件を満たせば、里親に名乗りをあげることができます。
こうした土井氏らの努力を受けて、2016年には児童福祉法が改正され、2017年8月には「新しい社会的養育ビジョン」、12月には「社会的養育の推進に向けて」の報告書が提出されています。なかでも里親委託の推進については多くの配慮がなされ、今後「里親」「養子」は浸透していく気配を見せています。
<参考サイト>
・『夢がもてない 日本における社会的養護下の子どもたち』
https://www.hrw.org/sites/default/files/reports/japan0514jp_ForUploadR.pdf
・「新しい社会的養育ビジョン」
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11901000-Koyoukintoujidoukateikyoku-Soumuka/0000173888.pdf
・「社会的養育の推進に向けて」
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000187950.pdf
・『夢がもてない 日本における社会的養護下の子どもたち』
https://www.hrw.org/sites/default/files/reports/japan0514jp_ForUploadR.pdf
・「新しい社会的養育ビジョン」
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11901000-Koyoukintoujidoukateikyoku-Soumuka/0000173888.pdf
・「社会的養育の推進に向けて」
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000187950.pdf
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
「学ぶことが楽しい」方には 『テンミニッツTV』 がオススメです。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,500本以上。
『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
トランプ・ドクトリンの衝撃――民主主義からの大転換へ
トランプ・ドクトリンと米国第一主義外交(1)リヤド演説とトランプ・ドクトリン
アメリカのトランプ大統領は、2025年5月に訪れたサウジアラビアでの演説で「トランプ・ドクトリン」を表明した。それは外交政策の指針を民主主義の牽引からビジネスファーストへと転換することを意味していた。中東歴訪において...
収録日:2025/08/04
追加日:2025/09/13
国民に求められる外交感覚とは?陸奥宗光の臥薪嘗胆の意味
外交とは何か~不戦不敗の要諦を問う(3)「内政と外交」と持つべき外交感覚
「内政と外交」――これはまさに切っても切れない大事な関係にある。外交とは、国際関係ばかりに気を遣っていればいいのではなく、海外の声をききながら国内の声にも耳を傾けることが重要だと小原氏は述べる。まさに内政が大事で...
収録日:2025/04/15
追加日:2025/09/19
世界で最もクリエイティブな国は? STEAM教育が広がる理由
数学と音楽の不思議な関係(4)STEAM教育でつくる喜びを全ての人に
世界では「創造性がどれくらい大事か」という問題意識が今、急激に高まっている。創造性とは全ての人にあり、偏差値などでは絶対に計れない、まさに無限軸の創造性のこと。そうした創造性を育む学びが「STEAM教育」である。最終...
収録日:2025/04/16
追加日:2025/09/18
なぜ日本の所得水準は低いのに預金残高は大きいのか
続・日本人の「所得の謎」徹底分析(2)政府債務と預金残高の背景
国際的に見て、政府の債務残高が大きい日本。その背景には、バブル崩壊後の財政赤字を取り戻せていないことがあった。その一方で、預金残高も高い日本。所得が低いのに預金が多い日本の謎を解説する。(全4話中第2話)
※...
※...
収録日:2025/07/10
追加日:2025/09/17
地球上の火山活動の8割を占める「中央海嶺」とは何か
海底の仕組みと地球のメカニズム(1)海底の生まれるところ
海底はどうやってできるのか。なぜ火山ができるのか。プレートが動くのは地球だけなのか。またそれはどうしてか。ではプレートは海底の動きの全てを説明できるのか。地球史規模の海底の動きについて、海底調査の実態から最新の...
収録日:2020/10/22
追加日:2021/05/02