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「聞く力」「応仁の乱」…あの本はなぜ売れた?
雑誌・書籍の売り上げが右肩下がりというのは、この10年で言われ続けている出版業界の現状です。メディア媒体としてインターネットが台頭しはじめ、それまで速さを売りにしてきた雑誌は後手に回りました。
「本が売れない時代」と言われて久しいですが、まったく業界が冷え切っているわけではありません。編集者や執筆者は、日々さまざまな企画を立案し、販売アイディアを考え、ベストセラーを生み出しています。今回は、近年のベストセラーはどう生まれるのか、その背景を追っていきます。
ところが、この『応仁の乱』が約40万部のベストセラーになったのです。これは新書業界から見ても異例の数字です。著者自身はもちろん、担当の編集者もこの数字には「信じられない」というコメントをしています。ヒットを受け、「地味すぎる大乱」「スター不在」「ズルズル11年」など、応仁の乱のイメージを逆手にとったキャッチコピーを増やし、さらに読者を取り込みました。
もちろんこのヒットは、著者、編集者、販促担当、すべての人々の努力が実を結んだ結果といえます。しかし、一方で『応仁の乱』のベストセラー化には現代社会と当時の日本が似ているからではないかという指摘もあるのです。貧富の差が広がり、一揆を起こそうとした当時の浪人たちの姿が、現代に重なります。また、室町幕府の崩壊の足音が近づき、戦乱の世の扉が開かれるというのも、漠然とした世界に立ちこめる不穏な空気に近いのかもしれません。そうした世相に見事にマッチしたのがこの『応仁の乱』でした。本のヒットと時代の空気というのは密接に関わり、こうしたヒットに繋がるのです。
こちらの書籍は、自己啓発本というよりも阿川さんの実体験を書いたエッセイ本というくくりになります。多くの方のインタビューを経験されてきた阿川さんの実績が、そのまま形となったものです。阿川さんご自身が、「自分は聞くのが苦手」「だから試行錯誤を重ねて具体的に書くことができた」と語っています。20代以上の人々、とくに40代の女性に人気を博し、ベストセラーとなりました。
何を伝えたいか、意図が明確に伝わる書籍は、それを求めている人の心に届きやすいと考えられます。書籍や雑誌の企画などは、「タイトルのインパクト」と「企画内容が読んだだけで伝わるか」というのが肝です。『聞く力』がヒットした2012年は、そうした「聞く」という姿勢を意識する人が多かったのかもしれません。人の心にいかに深く、鋭く入っていくことができるかというのも、ベストセラーに求められる条件です。
例えば、村上春樹さんの『1Q84』という小説は、発売まで一切が謎に包まれていました。あらすじなどの内容は一切知らされず、この執拗なまでの秘密主義が話題を呼び、普段は村上作品を読まないという人でも書籍を購入。記録的ヒットとなりました。
逆にすべてをオープンにしたことでヒットしたものもあります。宿野かほるさんの『ルビンの壺が割れた』という小説は、発売直前に2週間限定で修正途中の原稿を公開。読者がキャッチコピーを考えて応募するキャンペーンを開催しました。その結果、当時無名の作家だったにもかかわらず、1カ月半で4万部という売り上げを記録したのです。
これらは出版社サイドの工夫ですが、書店で行われた興味深いキャンペーンもあります。2016年に、盛岡のさわや書店フェザン店で行われた取り組みは、「文庫本の表紙を隠して販売する」というものでした。「文庫X」と題して、中身の簡単な解説と、担当者の熱い推薦文が書かれたカバーをつけて販売。このキャンペーンは全国的に広がり、2週間で200冊が売れるという異例の事態に。後日、改めて清水潔さんのノンフィクション『殺人犯はそこにいる』だということが公表されましたが、メディアでも取り上げられ、その後も好調な売れ行きを記録しました。
「本が売れない時代」と言われて久しいですが、まったく業界が冷え切っているわけではありません。編集者や執筆者は、日々さまざまな企画を立案し、販売アイディアを考え、ベストセラーを生み出しています。今回は、近年のベストセラーはどう生まれるのか、その背景を追っていきます。
時代背景にマッチするかが重要
2017年に奇妙なヒットを飛ばした呉座勇一さんの『応仁の乱 戦国時代を生んだ大乱』をご存じでしょうか?応仁の乱といえば、織田信長や豊臣秀吉が活躍するより少し前のお話。いかにして戦国時代がはじまったかという、戦国時代への入口ともいえるため、歴史的事件だけど「地味でよくわからない」というのが一般的な応仁の乱のイメージでした。ところが、この『応仁の乱』が約40万部のベストセラーになったのです。これは新書業界から見ても異例の数字です。著者自身はもちろん、担当の編集者もこの数字には「信じられない」というコメントをしています。ヒットを受け、「地味すぎる大乱」「スター不在」「ズルズル11年」など、応仁の乱のイメージを逆手にとったキャッチコピーを増やし、さらに読者を取り込みました。
もちろんこのヒットは、著者、編集者、販促担当、すべての人々の努力が実を結んだ結果といえます。しかし、一方で『応仁の乱』のベストセラー化には現代社会と当時の日本が似ているからではないかという指摘もあるのです。貧富の差が広がり、一揆を起こそうとした当時の浪人たちの姿が、現代に重なります。また、室町幕府の崩壊の足音が近づき、戦乱の世の扉が開かれるというのも、漠然とした世界に立ちこめる不穏な空気に近いのかもしれません。そうした世相に見事にマッチしたのがこの『応仁の乱』でした。本のヒットと時代の空気というのは密接に関わり、こうしたヒットに繋がるのです。
読者の心に、深く鋭く入ること
『応仁の乱』から少しさかのぼりますが、阿川佐和子さんの『聞く力 心をひらく35のヒント』が、150万部を超えるロングセラーとなったことを覚えていらっしゃる方も多いことと思います。このヒット以降、阿川さんといえば『聞く力』というほど、“アガワ流コミュニケーション”が広く知られるようになり、たくさんの読者を獲得しました。こちらの書籍は、自己啓発本というよりも阿川さんの実体験を書いたエッセイ本というくくりになります。多くの方のインタビューを経験されてきた阿川さんの実績が、そのまま形となったものです。阿川さんご自身が、「自分は聞くのが苦手」「だから試行錯誤を重ねて具体的に書くことができた」と語っています。20代以上の人々、とくに40代の女性に人気を博し、ベストセラーとなりました。
何を伝えたいか、意図が明確に伝わる書籍は、それを求めている人の心に届きやすいと考えられます。書籍や雑誌の企画などは、「タイトルのインパクト」と「企画内容が読んだだけで伝わるか」というのが肝です。『聞く力』がヒットした2012年は、そうした「聞く」という姿勢を意識する人が多かったのかもしれません。人の心にいかに深く、鋭く入っていくことができるかというのも、ベストセラーに求められる条件です。
販売促進のための奇抜なアイディア
しかし、いくら魅力的な書籍が発刊されたからといって、知ってもらわなくては誰も買ってはくれません。そこで手腕が求められるのが販売促進、いわゆる販促です。この販促を工夫して、ヒットが生まれることもあります。例えば、村上春樹さんの『1Q84』という小説は、発売まで一切が謎に包まれていました。あらすじなどの内容は一切知らされず、この執拗なまでの秘密主義が話題を呼び、普段は村上作品を読まないという人でも書籍を購入。記録的ヒットとなりました。
逆にすべてをオープンにしたことでヒットしたものもあります。宿野かほるさんの『ルビンの壺が割れた』という小説は、発売直前に2週間限定で修正途中の原稿を公開。読者がキャッチコピーを考えて応募するキャンペーンを開催しました。その結果、当時無名の作家だったにもかかわらず、1カ月半で4万部という売り上げを記録したのです。
これらは出版社サイドの工夫ですが、書店で行われた興味深いキャンペーンもあります。2016年に、盛岡のさわや書店フェザン店で行われた取り組みは、「文庫本の表紙を隠して販売する」というものでした。「文庫X」と題して、中身の簡単な解説と、担当者の熱い推薦文が書かれたカバーをつけて販売。このキャンペーンは全国的に広がり、2週間で200冊が売れるという異例の事態に。後日、改めて清水潔さんのノンフィクション『殺人犯はそこにいる』だということが公表されましたが、メディアでも取り上げられ、その後も好調な売れ行きを記録しました。
本屋さんに行くことのススメ
いかがでしたでしょうか?出版不況といわれる現代ですが、それでも本を愛し、作る人、売る人の努力は絶え間なく続いています。最近本屋さんに行っていないという方や、ネットでの購入が主になっている方も、ときには本屋さんに足を向けてみると、思わぬヒット作や、売り出しのタイトルに出会えるかもしれませんよ。~最後までコラムを読んでくれた方へ~
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