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勉強してもムダ?学力・収入と遺伝の密接な関係
子どもの教育をどうするか、子を持つ親ならば誰しも悩ませられるテーマではないでしょうか。我が子のために可能な限り良い教育環境を与えたい……胎教から早期教育、習い事、芸術鑑賞、自然体験などなど、色々と教育に心を砕いている家庭も多いことでしょう。
ところが近年脚光を浴びている行動遺伝学の報告によれば、教育環境をいくら整えたところで将来の生活レベルを決定付けるのは遺伝子だと唱えられています。それどころか、我が子にどう接していようとも、虐待やネグレクトなどの論外なケースは別として、本人の人格形成にはさほど影響を及ばさないとか……。なんだか寂しい話ですが、行動遺伝学から見た「子育て」はどのようなものになるのでしょう?
しかし、近年では学習能力に影響を及ぼしているのは「環境」よりも「遺伝子」と見られています。専門家によって数値の差異がありますが、知能はだいたい70%、学習能力は50%~60%は遺伝によるものだと唱えられているのです。
証明のためのサンプルとして、DNAが100%共通している一卵性双生児の兄弟姉妹がなんらかの理由で別々の環境下で育ったケースがしばしばとりあげられています。別々の家で育って成人した兄弟が知能テストを受けた結果、驚くことに大きな差異はほとんど見られなかったのです。このことから知能や学習能力の発達に家庭環境、社会的な文化環境の及ぼす影響は少ないと見積もられています。
周囲の環境からの影響があるとしても、両親や兄弟など家族より、友人関係からの影響の方が大きいとのことでした。朱に交われば良くも悪くも赤くなるのが人間、ということでしょうか。
上述した話が行動遺伝学から見た子育てへの結論だとしたら、孟子のお母さんもがっかりですね。しかし、子ども時代に関しては、遺伝と環境の影響は成人と異なる点が見られるとも報告されています。
子どもの頃こそ、生まれたばかりで遺伝の影響が大きく出るのではないかと思えますが、人間は成長するにつれて遺伝子の影響が大きくなり、環境からの影響が小さくなっていくそうです。15歳くらいまでは家庭環境が、学校の成績から認知能力、反社会的行動などに影響を与えていると言われています。
また、アメリカの研究によれば、経済状況の厳しい家庭で育った子どもは遺伝よりも環境から受ける影響の方が大きく、実に80%にのぼるそうです。逆に経済的に安定している家の子どもが環境から受ける影響は50%に留まるとか。環境によっては、本来の能力を発揮できなくなってしまうことを示す例といえるでしょう。
まず第1に、両親から受け継ぐ遺伝子の組み合わせパターンには膨大な数があります。ひとえに学力と言っても、たくさんの遺伝子が相互に影響しあって表れているものなので、親がXだから子どももXと、簡単に予測できるものではないようです。親そっくりの子どもはできない理由は遺伝があるから、なんて言い回しもされています。
第2に、ひとつの遺伝子からの影響は一生続くわけではないということも報告されています。歳を経る中で人は変わってゆく生き物だということでしょうか。……「トンビが鷹を生む」とか「神童も大きくなればただの人」なんて皮肉が伝わっているのは、昔の人も遺伝というものを経験上わかっていたのかもしれませんね。
さらに付け加えるならば、子どもの知的好奇心を覚えそうなものに触れさせてあげることは決して無駄ではないようです。社会性、視野を広げられるかもしれません。ただ、知的な子どもに育てようとプレッシャーをかけるような必要は、親子ともどもないようです。
遺伝子が個人の様々な能力を決定づけているのだとしたら、皆に5教科100点満点を目指す教育を施すよりも、向いていることを伸ばして自立できるように、幸福に生きていけるように考えていく、そんな個性を活かす教育が受けられる時代が来ることが待ち望まれます。
ところが近年脚光を浴びている行動遺伝学の報告によれば、教育環境をいくら整えたところで将来の生活レベルを決定付けるのは遺伝子だと唱えられています。それどころか、我が子にどう接していようとも、虐待やネグレクトなどの論外なケースは別として、本人の人格形成にはさほど影響を及ばさないとか……。なんだか寂しい話ですが、行動遺伝学から見た「子育て」はどのようなものになるのでしょう?
孟子のお母さんの引越しって無意味?
人間の人格形成に影響を及ぼすのが「生まれ持った資質=遺伝子」か「受けてきた教育=環境」か、というのは古来より論争の種になっていました。孟母三遷の故事で有名な孟子のお母さんは、息子が住んでいる町の大人たちのすることを真似て遊ぶことに気づいて、学問や礼儀作法に関心を持つよう学校のそばへ引越ししました。教育環境を選び抜いた逸話として有名です。しかし、近年では学習能力に影響を及ぼしているのは「環境」よりも「遺伝子」と見られています。専門家によって数値の差異がありますが、知能はだいたい70%、学習能力は50%~60%は遺伝によるものだと唱えられているのです。
証明のためのサンプルとして、DNAが100%共通している一卵性双生児の兄弟姉妹がなんらかの理由で別々の環境下で育ったケースがしばしばとりあげられています。別々の家で育って成人した兄弟が知能テストを受けた結果、驚くことに大きな差異はほとんど見られなかったのです。このことから知能や学習能力の発達に家庭環境、社会的な文化環境の及ぼす影響は少ないと見積もられています。
周囲の環境からの影響があるとしても、両親や兄弟など家族より、友人関係からの影響の方が大きいとのことでした。朱に交われば良くも悪くも赤くなるのが人間、ということでしょうか。
経済状況によって遺伝と環境から受ける影響に変化が!
上述した話が行動遺伝学から見た子育てへの結論だとしたら、孟子のお母さんもがっかりですね。しかし、子ども時代に関しては、遺伝と環境の影響は成人と異なる点が見られるとも報告されています。
子どもの頃こそ、生まれたばかりで遺伝の影響が大きく出るのではないかと思えますが、人間は成長するにつれて遺伝子の影響が大きくなり、環境からの影響が小さくなっていくそうです。15歳くらいまでは家庭環境が、学校の成績から認知能力、反社会的行動などに影響を与えていると言われています。
また、アメリカの研究によれば、経済状況の厳しい家庭で育った子どもは遺伝よりも環境から受ける影響の方が大きく、実に80%にのぼるそうです。逆に経済的に安定している家の子どもが環境から受ける影響は50%に留まるとか。環境によっては、本来の能力を発揮できなくなってしまうことを示す例といえるでしょう。
遺伝子は生涯変わらない祝福か、はたまた呪いなのか
同時に、「遺伝的に学習能力が低かったらダメ」とネガティブに早とちりしないようにという注意も出ています。ともすると、《カエルの子はカエル》的な想像をしてしまうかもしれませんが、ことはそう単純ではないようです。まず第1に、両親から受け継ぐ遺伝子の組み合わせパターンには膨大な数があります。ひとえに学力と言っても、たくさんの遺伝子が相互に影響しあって表れているものなので、親がXだから子どももXと、簡単に予測できるものではないようです。親そっくりの子どもはできない理由は遺伝があるから、なんて言い回しもされています。
第2に、ひとつの遺伝子からの影響は一生続くわけではないということも報告されています。歳を経る中で人は変わってゆく生き物だということでしょうか。……「トンビが鷹を生む」とか「神童も大きくなればただの人」なんて皮肉が伝わっているのは、昔の人も遺伝というものを経験上わかっていたのかもしれませんね。
さらに付け加えるならば、子どもの知的好奇心を覚えそうなものに触れさせてあげることは決して無駄ではないようです。社会性、視野を広げられるかもしれません。ただ、知的な子どもに育てようとプレッシャーをかけるような必要は、親子ともどもないようです。
個性を生かした教育が大切
小学生時代のクラスを振り返ってみると、いろんな子がいました。足の速い子、絵を描くのが上手な子、要領の良いまとめ役の子……それが遺伝子の影響だと意識したことはありませんでしたが、それぞれに向き不向きはあったと思います。遺伝子が個人の様々な能力を決定づけているのだとしたら、皆に5教科100点満点を目指す教育を施すよりも、向いていることを伸ばして自立できるように、幸福に生きていけるように考えていく、そんな個性を活かす教育が受けられる時代が来ることが待ち望まれます。
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