社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
AIは子どものように学んで進化していく
AIは何度もぶつかって「ぶつからないように」を学んでいく
2018年1月、日本ではソニーが12年ぶりに家庭用犬型ロボットaiboを復活させ話題になっていた頃、アメリカ・ラスベガスでは世界最大級の家電・IT見本市CESが開催されました。CESでは多くのメーカーによって自動運転技術が披露されたようです。こうした技術の進化は、ディープラーニングによってAIが画像認識能力を高め、運動能力を向上させていくことで可能になっていきます。東京大学大学院工学系研究科特任准教授・松尾豊氏からこのAIの学習過程を聞くと、まさに幼子が一つ一つできることを増やしていくそのプロセスと同じだなと思わされます。
たとえば、トヨタ自動車が開発した自動運転技術では、対向車などが相当に乱暴な運転をしても、ぶつからないように上手に避けるようになっています。これは、AIを搭載した自動車が何度もぶつかる経験を試行し繰り返していく中で、相手の動きを認識してぶつからないようにするにはどうしたらよいかと判断し、運転する運動能力を高めていったのです。その他、日産自動車では脳波から運転手の動きを予測してハンドル操作などをサポートするシステムを開発しており、昨今頻発して問題になっている高齢ドライバーの事故軽減にも貢献するのではないかと、期待が高まります。
練習熱心なロボットたち
2016年にGoogleが発表したのは、物がたくさん入った箱の中からロボットアームが目的のものをつかむという研究です。一見、単純に思えるこの動作が、実はロボットにとっては至難の業。多くの雑多な物の中から目的物を識別するだけでなく、その形状や重さ、どのような向きで入っているかによって、つかみ方を工夫しなければなりません。これもまた、つかんでは失敗して落とし、またつかんでは落としと何回もつかむ練習を繰り返し、学習してこのような動作が可能になっていきます。2018年1月には、NEDO(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)が、さらに進化したロボットハンド「からくり」の開発成果を発表しました。イチゴなど果物のような一つ一つがやわらかく不定形なものも、確実に一つだけ、傷つけないようにつまむことができるロボットハンド。このレベルに至るまでにも、きっとつかんではイチゴをつぶして失敗し、といった過程があったのだろうと思わされます。
松尾氏によれば、二足歩行ロボットも最初のうちはちょっとの凹凸や障害物にも転んでばかりだったとか。文字通り七転び八起きの学習を続けて、今では災害救助のタスクを難なくこなし、また、バック転のような驚きの能力を身につけたロボットも出現しています。
ここまで進化した自動翻訳技術
これらの運動系能力ばかりでなく、言語の意味理解に関する能力にもめざましい進歩が見られます。異なる言語を、前後の文脈から判断して正確に翻訳する自動翻訳技術がさまざまに開発されているのは周知のことですが、松尾氏が紹介するのは画像を介した自動翻訳です。写真を示すと、その画像に合わせた文を生成する。たとえば、黒いシャツを着た男の人がギターを弾いている写真を入れると、”a man in black shirt is playing the guitar.”という文章が出来上がるというもの。それだけではなく、最近ではその逆の技術、つまりテキストを示すとその通りの絵が描かれる、といった技術まで研究されています。「象が砂漠を歩いている」とあれば、その情景が描かれるということで、松尾氏はこれを「まるで物語を聞きながらその情景を頭の中にイメージした、その通りのことがAIでも可能になり始めている」と評価します。
これは、イマジネーション豊かな絵が瞬時に描かれるという楽しさもさることながら、テキストから判断して適切な絵が提示されることによって、日本人、中国人、アメリカ人、イラン人など、違う母国語を持つ人たちに一斉に同じように理解してもらう、いわばマルチ翻訳機能が期待できるわけです。
ディープラーニングによって、これらの運動能力、言語理解能力をAIは続々と手にしているわけですが、その学習過程には、試行錯誤 切磋琢磨 七転び八起きといった、およそ機械には似つかわしくない人間くさい言葉が似合うのが、なんとも興味深いところです。
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
雑学から一段上の「大人の教養」はいかがですか?
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,300本以上。
『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
40歳未満は2%…若手政治家が少ないという大きな問題
「議会と民主主義」課題と処方箋(6)若者の政治参加率が低いという問題
若者にもっと政治に参加してもらうためにはどうすればいいのだろうか。若年層の投票率の低さはそのまま政治への関心の低さを表しているが、実際に彼らの政治参加を阻む要因として、被選挙権の年齢が高く、また政治家という職業...
収録日:2024/06/07
追加日:2024/11/24
“死の終りに冥し”…詩に託された『十住心論』の教えとは
空海と詩(4)詩で読む『秘蔵宝鑰』
“悠々たり悠々たり”にはじまる空海『秘蔵宝鑰』序文の詩文。まことにリズミカルな連呼で、たたみかけていく文章である。このリフレインで彼岸へ連れ去られそうな魂は、選べる道の多様さと迷える世界での認識の誤りに出会い、“死...
収録日:2024/08/26
追加日:2024/11/23
重要思考とは?「一瞬で大切なことを伝える技術」を学ぶ
「重要思考」で考え、伝え、聴き、議論する(1)「重要思考」のエッセンス
「重要思考」で考え、伝え、聴き、そして会話・議論する――三谷宏治氏が著書『一瞬で大切なことを伝える技術』の中で提唱した「重要思考」は、大事な論理思考の一つである。近年、「ロジカルシンキング」の重要性が叫ばれるよう...
収録日:2023/10/06
追加日:2024/01/24
日本の根源はダイナミックでエネルギッシュな縄文文化
日本文化を学び直す(1)忘れてはいけない縄文文化
大転換期の真っ只中にいるわれわれにとって、日本の特性を強みとして生かしていくために忘れてはいけないことが二つある。一つは日本が森林山岳海洋島国国家であるというその地理的特性。もう一つは、日本文化の根源としての縄...
収録日:2020/02/05
追加日:2020/09/16
謎多き紫式部の半生…教養深い「女房」の役割とその実像
日本語と英語で味わう『源氏物語』(1)紫式部の人物像と女房文学
日本を代表する古典文学『源氏物語』と、その著者である紫式部は、NHKの大河ドラマ『光る君へ』の放映をきっかけに注目が集まっている。紫式部の名前は誰もが知っているが、実はその半生や人となりには謎が多い。いったいどのよ...
収録日:2024/02/18
追加日:2024/10/14
対談 | 林望/ロバート キャンベル