社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
「シャネル」に学ぶ企業ブランディング
田中洋氏は、電通からアカデミズムに転身した中央大学大学院ビジネススクール教授。近著の『ブランド戦略論』(有斐閣)は専門書ながら日本初の本格的ブランド体系書として、2017年末の出版以来ビジネスパーソンにもバイブル的な人気を集めています。
今や「ノーブランド」もブランドの一種としてまかり通る複雑な世の中。「ブランディングは終わった」と、うそぶくやからも増えています。彼らをハッとさせるのは、「ブランドのプラセボ(偽薬)効果」という研究結果。よく効くと知られているブランドをつけた頭痛薬と、ブランドをつけない頭痛薬で実験すると、薬とプラセボ(偽薬)の関係で知られているのと同様の結果が出るのだそうです。
つかみどころのないブランドは、実は表層的であり本質的なのだと田中氏は言います。『ブランド戦略論』には30社以上のブランド構築ストーリーを紹介していますが、代表的な成功例とされるのはシャネルのストーリーです。
シャネルが人気を集めたのは1920年代、映画『巴里のアメリカ人』に描かれた時代のパリで、ピカソやジャン・コクトー、ストラヴィンスキーなどの芸術家と彼女が交際していたことが大きな原因の一つです。その頃ようやく盛んになったフォト・ジャーナリズムによって、ココ・シャネルは有名人、現在でいう「セレブ」にまつりあげられました。
当時、才能のあるデザイナーと衆目が一致したのはイタリア人のエルザ・スキャパレリです。ショッキングピンクを世に広めたこと、メタ・ガーメントというだまし絵のようなデザインで有名ですが、ブランド化にはいたりませんでした。
コルセットからの解放など、女性ファッションのあり方を転換したのは、シャネルだけでなくスキャパレリやポール・ポワレなどのパイオニア的デザイナーたちでしたが、その成果のほとんどは今やシャネル一人に還元される結果となっています。このことを田中氏はブランドにおける「起源の忘却」と呼んでいます。
たとえば、「シャネルの5番」はマリリン・モンローで有名になった香水ですが、香水の業界に「化学」を持ち込んだのはシャネルでした。それまでの「花を搾ったものがフレグランス」という常識を塗りかえ、工業社会を先取りしたのです。
また、現在ではキャリア・ウーマンに愛用されるシャネル・スーツは、シャネルが当時付き合っていたウェストミンスター侯爵の影響を受け、イギリスの軍服からヒントを得たと言われています。男性用の制服が、女性用として定番のスーツになったわけです。
さらに、模造宝石を使いこなしたのもシャネルです。アクセサリーを求める人は「ココ・シャネルのジュエリー」としての価値を認めるばかりか、「古い慣習からの解放」という付加価値まで、そこに見いだしています。まさにブランディングの力と言えるでしょう。
「シャネルの再挑戦」として名高いこの頃、世界的にはクリスチャン・ディオールのニュールックが大人気を集め、ココ・シャネルはすでに70代に入っていました。87歳で彼女が亡くなった後10年ほど、シャネルのブランドは忘れられていましたが、蘇らせたのはカール・ラガーフェルドの功績です。
現在のシャネルでは、ラガーフェルドのディレクションによる時代にマッチしたコレクションが毎年世界を騒がせ、その水面下をココ・シャネルのストーリーが支えている、と田中氏は分析しています。
目に見える「ブランド」は氷山の一角、そのほとんどは経営努力の賜物だという話でした。
今や「ノーブランド」もブランドの一種としてまかり通る複雑な世の中。「ブランディングは終わった」と、うそぶくやからも増えています。彼らをハッとさせるのは、「ブランドのプラセボ(偽薬)効果」という研究結果。よく効くと知られているブランドをつけた頭痛薬と、ブランドをつけない頭痛薬で実験すると、薬とプラセボ(偽薬)の関係で知られているのと同様の結果が出るのだそうです。
つかみどころのないブランドは、実は表層的であり本質的なのだと田中氏は言います。『ブランド戦略論』には30社以上のブランド構築ストーリーを紹介していますが、代表的な成功例とされるのはシャネルのストーリーです。
際立った存在ではなかったシャネルの成功と「起源の忘却」
ココ・シャネル。1883年生まれで、1971年に亡くなりました。彼女の87年の人生は、「シャネル」というブランドづくりの基礎となりました。しかし、意外なことに、同時代のファッション・デザイナーと比べたシャネルは「とりたてて際立った存在ではなかった」と田中氏は言います。シャネルが人気を集めたのは1920年代、映画『巴里のアメリカ人』に描かれた時代のパリで、ピカソやジャン・コクトー、ストラヴィンスキーなどの芸術家と彼女が交際していたことが大きな原因の一つです。その頃ようやく盛んになったフォト・ジャーナリズムによって、ココ・シャネルは有名人、現在でいう「セレブ」にまつりあげられました。
当時、才能のあるデザイナーと衆目が一致したのはイタリア人のエルザ・スキャパレリです。ショッキングピンクを世に広めたこと、メタ・ガーメントというだまし絵のようなデザインで有名ですが、ブランド化にはいたりませんでした。
コルセットからの解放など、女性ファッションのあり方を転換したのは、シャネルだけでなくスキャパレリやポール・ポワレなどのパイオニア的デザイナーたちでしたが、その成果のほとんどは今やシャネル一人に還元される結果となっています。このことを田中氏はブランドにおける「起源の忘却」と呼んでいます。
新しい価値の創造を考え抜いたキャリア・ウーマン
最初に「プラセボ効果」の話をしましたが、シャネルのブランド構築は、それまで価値のない「まがいもの」だと思われていたものを「本物」と認めさせ、「新しい価値」を作り出す努力に終始しています。たとえば、「シャネルの5番」はマリリン・モンローで有名になった香水ですが、香水の業界に「化学」を持ち込んだのはシャネルでした。それまでの「花を搾ったものがフレグランス」という常識を塗りかえ、工業社会を先取りしたのです。
また、現在ではキャリア・ウーマンに愛用されるシャネル・スーツは、シャネルが当時付き合っていたウェストミンスター侯爵の影響を受け、イギリスの軍服からヒントを得たと言われています。男性用の制服が、女性用として定番のスーツになったわけです。
さらに、模造宝石を使いこなしたのもシャネルです。アクセサリーを求める人は「ココ・シャネルのジュエリー」としての価値を認めるばかりか、「古い慣習からの解放」という付加価値まで、そこに見いだしています。まさにブランディングの力と言えるでしょう。
ラガーフェルドが継承したシャネルというブランド
第二次世界大戦後、シャネルは一時、表舞台から姿を消します。彼女の名前がもう一度パリのファッション界によみがえるのは、進駐してきた米兵の「お土産」を通じて、巨大なアメリカ・マーケットを香水で魅了したせいでした。パリにシャネルが再度店を出せたのは、戦後7~8年も経ってからです。「シャネルの再挑戦」として名高いこの頃、世界的にはクリスチャン・ディオールのニュールックが大人気を集め、ココ・シャネルはすでに70代に入っていました。87歳で彼女が亡くなった後10年ほど、シャネルのブランドは忘れられていましたが、蘇らせたのはカール・ラガーフェルドの功績です。
現在のシャネルでは、ラガーフェルドのディレクションによる時代にマッチしたコレクションが毎年世界を騒がせ、その水面下をココ・シャネルのストーリーが支えている、と田中氏は分析しています。
目に見える「ブランド」は氷山の一角、そのほとんどは経営努力の賜物だという話でした。
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
“社会人学習”できていますか? 『テンミニッツTV』 なら手軽に始められます。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。
『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
トランプ関税はアダム・スミス以前の重商主義より原始的
第2次トランプ政権の危険性と本質(2)トランプ関税のおかしな発想
「トランプ関税」といわれる関税政策を積極的に行う第二次トランプ政権だが、この政策によるショックから株価が乱高下している。この政策は二国間の貿易収支を問題視し、それを「損得」で判断してのものだが、そもそもその考え...
収録日:2025/04/07
追加日:2025/05/17
大隈重信と福澤諭吉…実は多元性に富んでいた明治日本
デモクラシーの基盤とは何か(2)明治日本の惑溺と多元性
アメリカは民主主義の土壌が育まれていたが、日本はどうだったのだろうか。幕末の藩士たちはアメリカの建国の父たちに憧憬を抱いていた。そして、幕末から明治初期には雨後の筍のように、様々な政治結社も登場した。明治日本は...
収録日:2024/09/11
追加日:2025/05/16
【会員アンケート】談論風発!トランプ関税をどう考える?
編集部ラジオ2025(8)会員アンケート企画:トランプ関税
会員の皆さまからお寄せいただいたご意見を元に考え、テンミニッツTVの講義をつないでいく「会員アンケート企画」。今回は、「トランプ関税をどう考える?」というテーマでご意見をいただきました。
第2次トランプ...
第2次トランプ...
収録日:2025/05/07
追加日:2025/05/15
相互関税の影響は?…トランプが築く現代版の万里の長城
世界を混乱させるトランプ関税攻勢の狙い(1)「相互関税」とは何か?
トランプ大統領は、2025年4月2日(アメリカ時間)に貿易相手国に「相互関税」を課すと発表し、「解放の日」だと唱えた。しかし、「相互関税」の考え方は、まったくよくわからないのが実状だ。はたして、トランプ大統領がめざす...
収録日:2025/04/04
追加日:2025/04/10
重要思考とは?「一瞬で大切なことを伝える技術」を学ぶ
「重要思考」で考え、伝え、聴き、議論する(1)「重要思考」のエッセンス
「重要思考」で考え、伝え、聴き、そして会話・議論する――三谷宏治氏が著書『一瞬で大切なことを伝える技術』の中で提唱した「重要思考」は、大事な論理思考の一つである。近年、「ロジカルシンキング」の重要性が叫ばれるよう...
収録日:2023/10/06
追加日:2024/01/24