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DATE/ 2018.06.07

人生100年時代に備える「生涯学習」の極意

 「人生100年時代」に備えて、いくつになっても元気に働く、あるいは充実した趣味の時間を持つことを目標に掲げている方も多いでしょう。今回はその目標のなかに「生涯学び続ける」を入れてみませんか、というご提案です。

社長も会社役員も「大人の学び直し」が当たり前のアメリカ

 生涯学習の重要性を説くのは経営コンサルタントの浜口直太氏。アメリカのビジネススクールで経営学を教えた経験を持つ浜口氏には、アメリカ文化で「いいな、好きだな」と思っていることがあります。それは、能力さえあれば16歳で大学に入学、18歳で大学院にといった飛び級が当たり前のように行われていること。その一方で、どんなに年を取った人でも、また既に仕事で業績を挙げている人でも、大学、大学院に入って学び直しをするのが珍しくないということです。

 日本では、一度大学を卒業して仕事を始めてしまうと、学ぶことを止めてしまう、せいぜい仕事で必要な知識をインプットするにとどまる、というケースが残念ながら非常に多いようです。しかし、欧米では仕事をリタイアした高齢者、あるいは既に大企業の社長や幹部として地位を確立している人が、学び直しのために大学の門をたたくのは珍しくないといいます。

 浜口氏も、当時20代だった自分の講義を受けにきた60代、70代の会社社長や役員クラスの人々の姿を例に、年齢や社会的地位、仕事のキャリアに関係なく、自分以外は皆師であると思って学ぶべきだと言います。

生涯学習の頼もしい味方となる「本」

 そうは言っても、大人になってから大学に入り直すなんて無理と思ってしまうかもしれません。浜口氏はそのような人のために、生涯学習の方法の一つとして本を読むことを勧めています。「学ぶ」からといって、なにも難しい学術書や専門書を読まなくてもいいのです。なぜなら、どんな本もみなが「師」だからです。

 本には書いた人ならではの経験や知識が詰まっていて、時には到底自分では経験し得なかったことを疑似体験したり、会うことのできない人、できなかった人の言葉を知ることができます。他人の失敗の経験談から学ぶこともできると考えれば、ビジネス書のみならず歴史小説など、文学分野からも学ぶことは多々あるでしょう。しかも、授業料は1000円、2000円程度の本代のみ。通勤電車のなかやお風呂、就寝前のベッドで、と本を読むのであれば時間も場所も思いのままです。

 これだけ聞けば、本を生涯学習の友としない手はないだろうと思えてきます。

生涯学習の極意は「誰からも学ぶ、素直に学ぶ」

 最後に、いくつになっても有意義な学びはできるという実例をご紹介しておきましょう。浜口氏が20代でアメリカのビジネススクールで経営学を教えていた時の受講生に、見るからに知的なオーラを放つ一人の紳士がいたそうです。理論に基づいたすばらしい発言をするこの紳士。話をしてみると、実は心理学の研究者でその道の権威でもある人。多くの著作もあり、そうそうたるキャリアの持ち主でした。

 その人は、「自分は心理学ではそれなりの知識も経験も持っているが、専門分野の外では子どものように未熟だ。だから他の分野のこともどんどん学ばなければいけないのだ」と言って、毎回熱心に講義を聞き、「今日もとても勉強になりました」と言って帰っていったそうです。浜口氏はこの紳士の言葉、ふるまいに大変に感動し、また、松下幸之助が尊んだ「素直」な心を持っているこのような人が伸びていくのだろうと思ったそうです。

 こうしてみると、「学ぶ力」というのはいくつになっても自身の未熟を自覚できること、どんな人からも学ぼうと素直になれる力と言い替えられるのかもしれません。皆さんも、「素直」と本を味方にして、大人の学び直しを人生100年時代の計画表に入れてみてはいかがでしょうか。
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
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一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授