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DATE/ 2018.06.02

コンビニに外国人店員が増えた理由

 最近、コンビニや居酒屋など、外国人労働者の姿を目にすることが増えました。一昔前であれば学生の労働先として定番だったコンビニ・居酒屋ですが、なぜ外国人労働者の割合が増えているのでしょうか?

年々増加している在留外国人

 2017年6月末の「法務省在留外国人統計(旧登録外国人統計)統計表」によると、日本で生活している外国人の数は約247万人。日本で就職する外国人労働者も2016年には100万人を超え、その数は右肩上がりです。現在、政府は「移民政策を取らない」と主張していますが、実状はどうなのでしょう?

「法務省在留外国人統計(旧登録外国人統計)統計表」の内訳は、「永住者」が29.9%で最も多く、次いで「特別永住者」が13.5%、「留学」と「技能実習」が11.8%、10.2%となっています。最も人数が多いのが中国で70万人、次いで韓国の45万人となっています。近年、来日する人が増加している国としてはベトナムも挙げられます。

 なかでもこの5年で「留学」と「技能実習」が増加しました。

人手不足を見越して労働力を海外に求める

 コンビニ業界では、とくに活発な雇用に向けての動きが見られます。最大手のセブンイレブンは、来日者数の増えているベトナムの6つの大学と提携し、積極的に留学生を受け入れる方針を示しました。同じく大手のローソンも、ベトナム国内で日本への留学希望者にあらかじめ研修を行うといった取り組みを行っています。こうした各企業の戦略が、「最近見かける外国人のコンビニ店員さん」の背景にあるのです。

 そこには、日本の慢性的な人手不足と、少子化と人口減少に歯止めがかからないという現状から、将来を見越して外国人労働力をあてにしているという事実があります。すでに大手コンビニチェーンで働いている外国人の数は4万人を超え、20人に1人の割合。すでに、コンビニ経営には彼らの力が必要不可欠です。それはコンビニ業界だけでなく、介護や農業といった業種でも同じです。

「留学」の名目で違法労働をさせるケースも

 しかし、日本は基本的に移民を許していません。就労ビザを取得することは難しく、企業に就職するとしても複雑な手続きを踏み、国の定めた条件を満たしたごく一握りの人にしか在留許可はおりないのです。すると、問題になるのは不法移民、不法労働です。

 外国人留学生には、1週間に28時間とアルバイト時間の上限が定められています。もちろん法に従い、28時間以内の労働と語学勉強に精を出している学生さんもたくさんいらっしゃいます。少なくとも、企業できちんと仕事をしている外国人労働者の方々は、正規の手順で入国を済ませ、法に則った就労形態で働いています。

 一方で「留学」という名目で「出稼ぎ」来日し、28時間を超えて過酷な労働条件で働く人も少数ではありません。しかし、これは決して、労働者側だけの責任ではありません。企業サイドは現実問題として労働力を欲しています。また、日本人にとっては安い時給でも、外国人労働者であれば雇えるというのも、雇用者には魅力的なため、違法労働をさせているというケースもあります。

現実的な議論と、これからの社会

 そんな中、国会では移民の規制緩和について議論が行われています。人手不足が否めない農業や介護、建設、造船などの分野を中心に、日本で技能実習などを受けた外国人や、相応の技術を持った人に在留資格を与えるというものです。

 日本は島国という地理的な特性もあり、大々的な移民受け入れや外国人労働者という言葉には歴史的にも馴染みがないかもしれません。近い将来、日本はより深刻な人手不足に襲われます。法律と政治の動向はきちんと見定めながら、より現実的な議論を行い、意見を交換する必要があるのではないでしょうか。

 しかしそれとは別に、どんな国から来た方でも、一生懸命働いていることには変わりありません。法律や政治の問題は別に、さまざまな事情や背景を持った人同士が、お互いに敬意を持って暮らして行ける社会がやって来るといいですね。

<参考サイト>
・法務省:在留外国人統計(旧登録外国人統計)統計表
http://www.moj.go.jp/housei/toukei/toukei_ichiran_touroku.html
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一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授