テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2018.09.28

フレイルという老年症候群は、口から予防する

 人生100年が夢ではなくなってきた現在、ただ平均寿命が延びるだけでなく、健康に生きられる年数が延びることは、誰しもの関心事項です。いま老年医学の世界で注目されているのは「フレイル」という状態。健常な状態と日常生活でサポートが必要な要介護状態との間にある、身体的・精神的・社会的に虚弱になった状況を指します。

 注目されているのは、これまで「歳だから弱っても仕方がない」とみなされてきた状態が治療によって改善でき、また予防もできる点です。生き生きとした老後を送るために、私たちは何に気をつければいいのでしょうか。国家公務員共済組合連合会虎の門病院院長の大内尉義氏の講話を参考にしてみました。

フレイル予防は「運動」「栄養」「社会参加」の三位一体

 フレイルは、日本老年医学会が2014年に提唱した言葉です。多くの高齢者は健常な状態から、筋力が衰える「サルコペニア」という状態になり、握力や歩行速度が低下してきます。サルコペニアが進行すると転倒などをきっかけとして活動の低下が生じやすく、生活機能が全般に衰える「フレイル」となり、要介護状態に至るという理解に基づいています。

 フレイルを予防するポイントは「運動」「栄養」「社会参加」の三位一体だといわれています。筋肉を増やすためにはウォーキングなどの有酸素運動とともに筋トレも必要とされ、食事では十分なタンパク質の摂取が奨励されています。

 これだけでも従来の「高齢者」イメージをくつがえしますが、さらに注目されるのは社会参加。人は高齢になるにつれ社会と接するのがおっくうになりがちですが、家に閉じこもってばかりいるとうつ傾向に陥りがちです。仕事や趣味、ボランティアなど、さまざまな活動に積極的に参加していくことが、重要なフレイル対策になると研究されています。

「オーラル・フレイル」に要注意

 「オーラル・フレイル」は、口腔機能の低下がサルコペニアやフレイルにもたらす関係に着目して、東京大学高齢社会総合研究機構の飯島勝矢教授が提唱した概念です。

 ものがかみにくくなると、自分のかめるものだけを好んで食べるようになるため、かむ機能はますます衰え、食事の質が低下して栄養不足に陥っていきます。それにより、かむ機能や飲み込む機能はさらに悪くなるという悪循環が続きます。これは、どこかで断ち切る必要があるのです。

 歯科医を定期的に受診して、虫歯の治療や入れ歯のチェックは念入りにしてもらいましょう。ちゃんと「歯でものがかめる」「のみ込める」ためには、自分の歯の残り本数やあごのかみ合わせだけでなく、舌やのどなどの筋肉が協調することが大切です。

 かむ力、舌を上あごにつける力、舌の動きなどの機能はすべて加齢とともに低下するものですが、自覚的に鍛えていくと効果はあります。例えば多くの病院や施設で取り入れられているのが「パタカラ体操」。「パ、パ、パ」「タ、タ、タ」「カ、カ、カ」「ラ、ラ、ラ」と連続して発声することで、舌の動きを速く保ち、食べるときに働く筋肉を鍛えることができます。

 姥捨てを描いた深沢七郎の小説『楢山節考』には、主人公の“おりん”が、70歳を目前にしても丈夫な自分の歯を石で砕くシーンがありました。しっかり食べられる歯をそろえていることが全身の健康の証であり、健康長寿の秘訣であることは、昔からの庶民の知恵そのものです。
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
より深い大人の教養が身に付く 『テンミニッツTV』 をオススメします。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

アジア的成熟国家モデルづくりへ、日本が目指すべき道とは

アジア的成熟国家モデルづくりへ、日本が目指すべき道とは

日本の財政と金融問題の現状(4)日本が目指すべき成熟国家への道

機関投資家や経営者の生の声から日本の金融市場の問題点を見ていくと、リスクマネーを供給するための市場づくりや人材育成等の課題が浮き彫りになる。良質なスタートアップ企業を育てるにはどうすればいいのか。今こそアジア的...
収録日:2025/04/13
追加日:2025/07/01
木下康司
元財務事務次官
2

相互依存で平和は保てるか…EUの深化・拡大の難題とは

相互依存で平和は保てるか…EUの深化・拡大の難題とは

地政学入門 ヨーロッパ編(9)EUの深化・拡大とトルコの問題

国際政治の理論として国同士の経済交流、相互依存が安全保障、つまり平和を維持できると伝統的に考えられてきたが、今般の国際政治ではそれは必ずしも当てはまらないようだ。そこでEUの問題である。国の垣根を越えて世界国家に...
収録日:2025/02/28
追加日:2025/06/30
小原雅博
東京大学名誉教授
3

最悪のシナリオは?…しかしなぜ日本は報復すべきでないか

最悪のシナリオは?…しかしなぜ日本は報復すべきでないか

第2次トランプ政権の危険性と本質(8)反エリート主義と最悪のシナリオ

反エリート主義を基本線とするトランプ大統領は、金融政策の要であるFRBですらも敵対視し、圧力をかけている。このまま専門家軽視による経済政策が進めば、コロナ禍に匹敵する経済ショックが世界的に起こる可能性がある。最終話...
収録日:2025/04/07
追加日:2025/06/28
柿埜真吾
経済学者
4

江藤淳と加藤典洋――AI時代を生きる鍵は文芸評論家の仕事

江藤淳と加藤典洋――AI時代を生きる鍵は文芸評論家の仕事

AI時代に甦る文芸評論~江藤淳と加藤典洋(1)AIに代わられない仕事とは何か

昨今、生成AIに代表されるようにAIの進化が目覚ましく、「AIに代わられる仕事、代わられない仕事」といったテーマが巷で非常に話題となっている。では、AIに代わられない事とは何であろうか。そこで、『江藤淳と加藤典洋』(文...
収録日:2025/04/10
追加日:2025/06/25
與那覇潤
評論家
5

寝ないとよく食べる…睡眠不足が生活習慣病を招く理由

寝ないとよく食べる…睡眠不足が生活習慣病を招く理由

睡眠と健康~その驚きの影響(1)睡眠が担う5つのミッション

私たちに欠かせない「睡眠」。そのメカニズムや役割についていまだ謎も多いが、それでも近年は解明が進み、私たちの健康に大きく関与することが明らかになっている。まずは最新情報を盛り込んだ睡眠が果たす5つの役割を紹介し、...
収録日:2025/03/05
追加日:2025/06/05
西野精治
スタンフォード大学医学部精神科教授