テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
ログイン 会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2018.09.30

なぜ出世を望まない若者が増えているのか?

 「ゆとり世代」や「さとり世代」といった世代は、おおよそ「合理性を重視し、浪費や高望みをせず、穏やかな暮らしを志向する」世代として捉えられるようです。世代を一括りにしてしまうことの是非はさておき、データを見ると、少なくとも最近の若者は「管理職志向が減少している」ということは言えそうです。

管理職志向がある新人は減少傾向

 リクルートマネジメントソリューションズは2017年に「新人・若手の意識調査」(インターネット調査、対象は全国の正社員801名、内訳は入社1年目116名、入社4年目343名、入社7年目342名)を行いました。これは2010年、2013年と継続的に行われています。

 これによると、管理職に「なりたい」「どちらかといえばなりたい」は31.9%です。2010年は55.8%、2013年は45.0%なので、継続して大きな減少傾向にあります。責任をあまり背負いたくないということでしょうか。このあたりに関連して、「働く上で重視すること」の調査項目を上位から並べたものが以下です(5段階回答で5が最大)。

1.収入が安定していること(4.1)
2.仲間と楽しく働けること(4.0)
2.自分の興味や関心に合致していること(4.0)
2.健康を損なう心配がないこと(4.0)
3.失業の心配がないこと(3.8)
3.自分の才能や能力を発揮できること(3.8)
3.自分の成長を感じられること(3.8)
4.高い収入を得ること(3.7)
5.自立して、人に気兼ねなくやれること(3.5)
5.社会の一員として務めを果たすこと(3.5)
6.働く時間が短いこと(3.4)
6.世の中のためになること(3.4)
7.世間からもてはやされること(2.9)
7.責任者として采配が振れること(2.8)

 上位(4.0以上)には「収入の安定」「仲間との楽しさ」「興味」「健康」といった自分の在り方や内面に関する要素があり、下位(3.0未満)には「もてはやされること」「責任者として采配が振れること」といった、いわば自分の外側にある項目がきていると言えるのではないでしょうか。「もてはやされる」「采配を振るう」というのは響きからしても少し派手な感じがします。いわゆる一昔前の「モーレツ社員」といった感じの働き方でしょうか。

 ただし、出世を望まないのだからすべからく正社員の離職や転職が盛んになっているかといえば、そうでもなさそうです。新卒3年以内の離職率は、過去30年間をたどっても3割程度で推移しており、そこまで大きな変化はありません。また、ここ数年の転職率の推移では、2013年の4.5%から2017年は4.8%と微増にとどまっています。また、この転職率を押し上げているのは、ここ数年で社会進出の幅が拡がった女性であり、男性の転職率は変化していません。年功序列、終身雇用が崩れつつある現代として考えれば、ちょっと意外ではないでしょうか。

 こう考えてみると、若い世代は出世したくないからと言って、皆が積極的に転職を選んでいるわけでもないようです。つまり、「出世したくないけれども転職もしない」「平社員のままで安定していたい」という気持ちを抱えた若者が多いと言えるでしょう。

管理職はやりづらい

 管理職に必要とされる能力は少し変化してきていると言えるでしょう。都道府県別労働局に寄せられるパワハラ(いじめ・嫌がらせ)の相談件数を見ると、右肩上がりに増えています。内訳を見ると、部下が上司からパワハラを受けたとする相談がトップです。もちろんパワハラは論外ですが、上司には部下を監督・指導する責任があることも事実です。部下とうまく関係が築けなければ、ちょっとしたことでパワハラと認識されてしまうことも考えられます。

 また、管理職になればさらに上の管理職からの要求が大きくなることは想像できます。つまり、部下と上司の板挟み状態に加えて、自分が犠牲にならない形を維持しつつ(自己の健康を保ちつつ)、うまく振る舞う能力も求められます。また、年功序列時代のように、耐えていれば自動的に給料があがって定年まで勤められるという状況はありません。こうなれば管理職はリスクが大きく、できれば避けたいという気持ちに至るのも無理はない気はします。

 こういった状況は単に若者が弱くなった、だとか、今の若者は欲がないといった言説で片付けられるものではないと思われます。企業のあり方や働き方が大きく変化し、さまざまな人材が入り込む職場で、どのように人と向き合い、どのような方法が自分や周囲にとってより豊かな生活につながるのか、若者は試行錯誤しているのではないでしょうか。

<参考サイト>
・リクルートマネジメントソリューションズ:新人・若手の意識調査2016
https://www.recruit-ms.co.jp/research/inquiry/0000000560/
・厚生労働省:新規学卒者の離職状況
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000137940.html
・総務省統計局:労働力調査(詳細集計) 平成29年(2017年)平均(速報)結果
http://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/nen/dt/
・あかるい職場応援団 データで見るパワハラ
https://www.no-pawahara.mhlw.go.jp/foundation/statistics/
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
自分を豊かにする“教養の自己投資”始めてみませんか?
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,100本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

失敗から学んだ石田梅岩、独学で教養を高めた少年期の体験

失敗から学んだ石田梅岩、独学で教養を高めた少年期の体験

石田梅岩の心学に学ぶ(2)梅岩の教養を育んだ少年期の体験

江戸の町人の例に漏れず11歳で奉公に出た石田梅岩だが、奉公先の商家の事情から15歳で帰郷する。失敗ともいえるこの体験が梅岩思想に与えた影響は大きいと言う田口氏。郷里へ戻った梅岩が23歳で再び奉公するまでの記録は残って...
収録日:2022/06/28
追加日:2024/04/15
田口佳史
東洋思想研究家
2

ロボットの「カンブリア爆発」時代へ電動化がもたらすもの

ロボットの「カンブリア爆発」時代へ電動化がもたらすもの

日本のエネルギー&デジタル戦略の未来像(1)電動化で起こる「カンブリア爆発」

「カーボンニュートラル」に代表されるように、持続可能なエネルギー活用を目指す動きは世界的に加速している。特に東日本大震災以降、日本でもエネルギー問題は課題となっている。では日本は、どのようなエネルギー戦略を構築...
収録日:2024/02/07
追加日:2024/04/13
岡本浩
東京電力パワーグリッド株式会社取締役副社長執行役員最高技術責任者
3

がん治療にも応用、オートファジーによる疾患制御の方向性

がん治療にも応用、オートファジーによる疾患制御の方向性

オートファジー入門~細胞内のリサイクル~(5)オートファジーと疾患の関係

オートファジーは人間の疾患とどのように関係しているのか。大隅良典氏の研究を皮切りに、急速に発展してきたオートファジー研究だが、その研究成果は医学の分野において、薬剤の開発やがん治療への応用など、新たな手法を生み...
収録日:2023/12/15
追加日:2024/04/14
水島昇
東京大学 大学院医学系研究科・医学部 教授
4

議論で和を実現せよ、怒りと執着を捨て凡夫の自覚を持て

議論で和を実現せよ、怒りと執着を捨て凡夫の自覚を持て

聖徳太子「十七条憲法」を読む(5)条文を読む…和と議論

「議論によって和を実現する」――これは、十七条憲法の条文の中で最も多くかつ非常に重要なこととして第一条、第十条、第十五条、第十七条に記されている内容である。議論を尽くすことにより自ずと立ち上がる道理。また、その前...
収録日:2023/08/24
追加日:2024/01/04
賴住光子
東京大学大学院人文社会系研究科・文学部倫理学研究室教授
5

なぜ今「心理的安全性」なのか、注目を集める背景に迫る

なぜ今「心理的安全性」なのか、注目を集める背景に迫る

チームパフォーマンスを高める心理的安全性(1)心理的安全性が注目される理由

「心理的安全性」は近年もっとも注目されるビジネスバズワードの一つともいわれている。その背景には、コロナ禍におけるリモートワークの増大、社会全体が未来予測の難しい「VUCAの時代」に入ったことがある。職場環境が多様に...
収録日:2022/04/26
追加日:2022/07/23
青島未佳
一般社団法人チーム力開発研究所 理事