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DATE/ 2018.10.15

転職回数と生涯賃金の意外な関係とは?

 さらなるキャリアアップ、そして収入アップを期待して転職をする人は多いでしょう。転職=収入アップを期待させるような求人サイトの広告も目にしますが、実際のところ、ひとつの会社で正社員として勤め上げるのと、転職をしながら仕事を続けるのとでは、どちらがより稼ぐことができるのでしょうか。

同一企業で働き続けたほうが、2,000万円オトク

 厚生労働省管轄の独立行政法人である労働政策研究・研修機構は、既存の労働統計をもとに独自の視点と計算方法で「ユースフル労働統計2017」をまとめています。そのなかで、A転職は平均的にするが、60歳で定年退職するまでフルタイムの正社員を続けるパターンと、B同じ企業で、60歳で定年退職するまでフルタイムの正社員を続けるパターンとで分けて集計しています。

 その結果、Aのパターンで大学・大学院卒の男性の生涯賃金(退職金は含めない)は2億7,000万円、女性は2億2,000万円であるのに対し、Bの大学・大学院卒の男性の生涯賃金(退職金は含めない)は2億9,000万円、女性は2億4,000万円で、Aと比べて2,000万円ほど高いことがわかりました。またBの場合、学歴が高くなるほど就業年数は短くなるものの、賃金水準が高くなるため、結果として生涯賃金も高くなるとしています。

 以上は平均値ではありますが、同一企業で働き続けたほうが、転職をしながら働き続けるよりも2,000万円多く稼げるようです。また生涯賃金は学歴が高いほど、また企業規模が大きくなるほど生涯賃金も比例して高くなるという結果も発表しています。

転職をすればするほど下がる退職金

 「ユースフル労働統計2017」では、転職による退職金の減少率もまとめています。最も減少率が大きくなったのは45歳で転職した場合の55.5%。これは、退職金制度がある企業の多くが、ある一定の勤続年数(概ね20年)を超えた時に退職金が大きく増額されるためで、ちょうど40~45歳前後で勤続年数が二分されてしまうからだということです。

[転職による退職金減少率]
25歳:-14.9%
30歳:-34.9%
35歳:-48.3%
40歳:-54.8%
45歳:-55.5%
50歳:-47.7%
55歳:-31.6%
(2015年、1,000人以上規模企業の男性大学卒の男性労働者)

 一般に、退職金は長年勤めれば勤めるほどその額は増えていきます。逆に言えば、転職をすればするほど、当然退職金の額も下がっていくということ。転職でその時の収入は上がっても、転職のタイミングによって結果的に生涯年収が大幅に下がってしまう可能性があるのです。

転職のタイミングによっても生涯賃金は下がる

 また、転職を1度経験してから定年を迎えると、1度も転職せずに定年を迎えた時と比べて最高で12.8%の減少になるという結果が。特に40~45歳で減少率が目立っているのは、前述した退職金の額とリンクしているからと考えられます。

[転職による生涯賃金減少率](転職なしを0とする)
25歳:-3.6%
30歳:-8.3%
35歳:-11.4%
40歳:-12.8%
45歳:-12.7%
50歳:-10.7%
55歳:-7.0%
(2015年、1,000人以上規模企業の男性大学卒の男性労働者)

生涯賃金を上げたいなら現状維持がベスト。ただしそれもリスクはある

 以上の結果から、少しでも生涯賃金を多くしたいなら転職はしない、あるいは、転職はできる限り40代前でしたほうがよいといえるでしょう。

 とはいえ、統計はあくまで全体的な傾向で、転職先は前職と同じ企業規模の会社であることが前提となっています。より規模の大きい会社への転職や、実力重視のベンチャー企業への就職などで一気に収入を上げるケースは少なくなく、転職によって賃金を上げている人の割合が2015年からプラスに転じた、という結果も報告されています。

 ひとつの会社に長く勤めたほうが結果的に「得」ではあるでしょう。とはいえ、終身雇用制度が崩れ、どんなに大きな会社でも突然倒産に追い込まれることもある昨今。今後、働き方を変えざるを得ない事態に直面しないとも限りません。

 今回発表されたデータをもとに、将来自分がどうなりたいかを思い浮かべながら、今後どうキャリアアップを目指すか考えてみてはいかがでしょうか。

<参考サイト>
・独立行政法人労働政策研究・研修機構:ユースフル労働統計 2017 労働統計加工指標集
http://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/kako/2017/index.html
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