社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
批判や悪口を「ありがたい」と思える度量に学ぶ
世の中に、「ワンマン社長」「独裁者」と呼ばれるリーダーは数多い。しかし、自分に楯突く者を許さないどころか、批判さえシャットアウトするトップの率いる組織は、流動性を欠いて沈滞し、やがて滅びる。
日本でも「金言耳に逆らう」のことわざが、「良薬口に苦し」と並んで大事にされてきた。浮沈の激しいビジネス界では、松下幸之助のストレートな言葉、「批判してくれる人は大事にせんとあかん」が有名だ。
なかでも忘れがたいのは、政財界人と幅広い交流のあった臨済宗大徳寺派顧問、立花大亀師との交流だ。
江口秘書(当時)は苦々しく思うことも多かったが、ある時幸之助翁から「今度、大亀さんと食事しようと思うんや。連絡取ってくれ」と命じられ、京都の真々庵(幸之助翁が思索のために所有した南禅寺近くの別邸)に瓢亭の弁当を準備して場をしつらえる。「君も一緒にどうや」と幸之助翁に誘われ、江口秘書は会食の様子をつぶさに見聞することができた。
代わりに反論したくなる江口秘書にとって針のムシロのような1時間が過ぎると、幸之助翁は言った。「それは私も気をつけんとあきまへんな。他にまだありませんか」大亀老師はここまで批判した手前、あれもこれも、と重箱の隅をつつく。
帰り際、幸之助翁と玄関で別れて門までの30秒ほどの間に、大亀老師は江口秘書に告げる。「松下さんは、偉い。こんな偉い人はおらんよ、あんた」以後、大亀老師の松下批判はピタリと止まった。
『裸の王様』を避け通した松下幸之助
それをいさめたのが、古くはギリシア神話の「王様の耳はロバの耳」であり、アンデルセンの『裸の王様』だろう。日本でも「金言耳に逆らう」のことわざが、「良薬口に苦し」と並んで大事にされてきた。浮沈の激しいビジネス界では、松下幸之助のストレートな言葉、「批判してくれる人は大事にせんとあかん」が有名だ。
批判する相手をわざわざ招いた幸之助
幸之助翁の晩年23年を秘書として仕えた江口克彦氏は、PHP研究所社長の経歴もある現役参議院議員だが、翁が批判者を大切にし、わざわざ招いて意見を乞うたエピソードを紹介している。なかでも忘れがたいのは、政財界人と幅広い交流のあった臨済宗大徳寺派顧問、立花大亀師との交流だ。
「言いたい放題」の禅僧を真々庵へ
大亀老師は、権力を持つ人々への「言いたい放題」がかえって人気を呼ぶタイプの禅僧だった。2005年に105歳の長寿を全うするが、その頃はあちこちで松下批判を行っていた。江口秘書(当時)は苦々しく思うことも多かったが、ある時幸之助翁から「今度、大亀さんと食事しようと思うんや。連絡取ってくれ」と命じられ、京都の真々庵(幸之助翁が思索のために所有した南禅寺近くの別邸)に瓢亭の弁当を準備して場をしつらえる。「君も一緒にどうや」と幸之助翁に誘われ、江口秘書は会食の様子をつぶさに見聞することができた。
「他にありませんか」
雑談が一段落すると幸之助翁は、商売をしていると注意が行き届かない点もあるので、教えてほしいと頭を下げた。大亀老師はここぞとばかり、露骨な批判の言葉を浴びせにかかる。幸之助翁は事実と反することもあるのに一つも逆らわず、ただ「そうですか」と、おとなしくご意見を拝聴するのみだ。代わりに反論したくなる江口秘書にとって針のムシロのような1時間が過ぎると、幸之助翁は言った。「それは私も気をつけんとあきまへんな。他にまだありませんか」大亀老師はここまで批判した手前、あれもこれも、と重箱の隅をつつく。
「松下さんは、偉い」の重み
さらに30分が経ち、さすがに批判も品切れになった頃、「教えていただいたことは、心に留めておきますわ。まだ、ないですか」と幸之助翁。大亀老師は困惑の態で、世間話に戻っていった。帰り際、幸之助翁と玄関で別れて門までの30秒ほどの間に、大亀老師は江口秘書に告げる。「松下さんは、偉い。こんな偉い人はおらんよ、あんた」以後、大亀老師の松下批判はピタリと止まった。
言ってスッキリ、聞いて役に立つ
「良薬口に苦し」を知らない日本人はいないだろうが、実際に服用できる人は一握りだ。それが松下幸之助の素晴らしい魅力の秘密だったろう。しかし、面前で批判をぶつけた相手(大亀老の他にも何人もいた)も、うっぷんを晴らしてさぞスッキリしたに違いない、と江口氏は50年前を振り返るのである。~最後までコラムを読んでくれた方へ~
自分を豊かにする“教養の自己投資”始めてみませんか?
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,500本以上。
『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
契機は白村江の戦い…非常時対応の中央集権国家と防人の歌
「集権と分権」から考える日本の核心(2)非常時対応の中央集権と東アジア情勢
律令国家は中国の先進性に倣おうと始まったといわれるが、実際はどうだろうか。当時の日本は白村江の戦いの後、唐と新羅が日本に攻め込むのではないかという危機感から「防人」という徴兵制をつくった。徴兵には戸籍を充実させ...
収録日:2025/06/14
追加日:2025/08/25
「学びの危機」こそが現代社会と次世代への大きな危機
「アカデメイア」から考える学びの意義(1)学びを巡る3つの危機
混迷を極める現代社会にあって、「学び」の意義はどこにあるのだろうか。次世代にどのような望みをわれわれが与えることができるのか。社会全体の運営を、いかに正しい知識と方針で進めていけるのか。一人ひとりの人生において...
収録日:2025/06/19
追加日:2025/08/13
カーボンニュートラル達成へ、エネルギー政策の変革は必須
日本のエネルギー政策大転換は可能か?(3)エネルギー政策大転換への提言
洋上や太陽光を活用した発電の素地がありながらその普及が遅れている日本。その遅れにはどのような要因があるのだろうか。最終話では、送電網の強化など喫緊の課題を取り上げるとともに、エネルギー政策を根本的に変換させる必...
収録日:2025/04/04
追加日:2025/08/24
同盟国よもっと働け…急激に進んでいる「負担のシフト」
トランプ政権と「一寸先は闇」の国際秩序(3)これからの世界と底線思考の重要性
トランプ大統領は同盟国の役割を軽視し、むしろ「もっと使うべき手段だ」と考えているようである。そのようななかで、ヨーロッパ諸国も大きく軍事費を増やし、「負担のシフト」ともいうべき事態が起きている。そのなかでアジア...
収録日:2025/06/23
追加日:2025/08/21
ウェルビーイングの危機へ…夜型による若者の幸福度の低下
睡眠から考える健康リスクと社会的時差ボケ(4)社会的時差ボケとメンタルヘルス
社会的時差ボケは、特に若年層にその影響が大きい。それはメンタルヘルスの悪化にもつながり、彼らの幸福度を低下させるため、ウェルビーイングの危機ともいうべき事態を招くことになる。ではどうすればいいのか。欧米で注目さ...
収録日:2025/01/17
追加日:2025/08/23