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よくわかる「習近平政権」…世界における特徴とは
2012年以来、中国の最高指導者として長期政権を続ける習近平氏。一部からは皇帝と呼ばれるほど権力集中の進んだ彼の一挙一動に世界が注目しています。その人物像、習近平政権が目標とする政治について、小原雅博氏(東京大学名誉教授)の講義をもとに整理してみました。
しかし、父親が党中央委員から失脚したため、文化大革命に重なる十代から二十代にかけては多難でした。父は投獄され、彼自身も「下放(農村で学び直す)」という処分に遭い、北京から地方の陝西省へと追われたのです。若い時代に地方の農村生活を経験したことは、その後の彼の礎となりました。
当時一緒に苦労した人たちとの関係をいまだに持っていることもありますが、共産党自体の原点が彼のよく発する「純潔性」という言葉に潜んでいます。純潔の対極にあるのは「腐敗」。中国の歴史は「収」と「放」の繰り返しともいわれ、カリスマ的な中央に権力が集中した後は、分散が起こり腐敗を許してしまう傾向があります。特に胡錦濤政権までの中国は腐敗に悩まされ、「この腐敗を放っておけば国が滅ぶ」と憂えるほど、国民を悩ませました。
以後の反腐敗闘争には権力闘争の面もあるとはいえ、断固とした態度で腐敗を一掃した習近平氏に篤い信頼が寄せられたのが、強力なリーダーシップの核となりました。リーダーシップを持つ個人と集団指導体制の繰り返しもまた、寄せては返す歴史の脈動性を物語ります。
さらに人民解放軍も国の軍ではなく党の軍であるため、すべてが党の存続のために動いている図式を表したのが、1989年の天安門事件でした。社会の安定を保つためには、軍を導入して自由な言論を武力鎮圧することも辞さない姿を見せたのは、国際的に大きな波紋を呼びました。中国にとっての「民主化」がアメリカをはじめとする西側の「民主」とは相容れないことを示したからです。
とはいえ米ソ冷戦が終了した後の世界は、未知の成長性をはらむ中国に積極的に関与しました。そして、2001年に世界貿易機関(WTO)加入後の中国は、大変な経済発展を遂げます。
中国共産党の歴史は、「立ち上がる」「豊かになる」「強くなる」の三段階だといわれます。「立ち上がった」毛沢東氏、「豊かになった」改革開放の鄧小平氏はすでに評価されていますが、これらに並んで「強くなる」ことを自らに課したのが、強国強軍という「中国の夢」を掲げる習近平氏だったのです。
アヘン戦争以来の近代の屈辱感の裏返しとしてのナショナリズムを抱える中国民衆にとって、対外的に「ノーといえる中国」を体現する習近平氏はまさに英雄でした。
習近平思想とは、どのようなものでしょうか。まず、「四つの意識」として政治意識・大局意識・核心意識・見習う意識を打ち立てます。その上で、中国の特色ある社会主義の道・理論・制度・文化への「四つの自信」を揺るぎないものとします。これらにより、「二つの擁護」(習総書記が党中央の核心であり、全党の核心の地位にあることを擁護、党中央の権威と集中統一指導を断固として擁護)という絶対的忠誠を要求していくのです。
また、「国之大者」という言葉も発表されて議論を呼んでいますが、これもやはり「習近平を核心とする党中央に高度に一致すべき」だとするのが小原氏の見解です。
こうした政治手法を中国共産党は「民主」と呼び、中華人民共和国建国100周年を迎える2049年には「富強・民主・文明・和諧・美麗」の社会主義現代化強国を実現することを打ち出しています。
少し前まで、アメリカは中国のウイグルに対する人権問題や香港の民主化運動弾圧に対する批判を繰り返しましたが、中国側は「内政干渉」と、強い態度で退けています。また、2021年7月1日に行われた中国共産党創立100周年演説で、習主席は天安門壇上から「教師のような偉そうな説教は拒絶する」と宣言しました。
習体制下の中国は「監視社会」と「小康社会」をともに実現しています。デジタル化の進んだ現代、中国は100年に一度の大変局のなかにあるのです。
習近平の生い立ちと「純潔」
習近平氏の誕生は1953年、毛沢東が中華人民共和国建国を宣言してわずか4年後のことです。父・仲勲氏は革命に身を投じた功労者で、(国務院)副総理の要職に就くほどでした。それゆえ現在の習近平氏は「紅二代」の「太子党」、すなわち革命に参加した人間の血を引いた二代目と呼ばれています。しかし、父親が党中央委員から失脚したため、文化大革命に重なる十代から二十代にかけては多難でした。父は投獄され、彼自身も「下放(農村で学び直す)」という処分に遭い、北京から地方の陝西省へと追われたのです。若い時代に地方の農村生活を経験したことは、その後の彼の礎となりました。
当時一緒に苦労した人たちとの関係をいまだに持っていることもありますが、共産党自体の原点が彼のよく発する「純潔性」という言葉に潜んでいます。純潔の対極にあるのは「腐敗」。中国の歴史は「収」と「放」の繰り返しともいわれ、カリスマ的な中央に権力が集中した後は、分散が起こり腐敗を許してしまう傾向があります。特に胡錦濤政権までの中国は腐敗に悩まされ、「この腐敗を放っておけば国が滅ぶ」と憂えるほど、国民を悩ませました。
以後の反腐敗闘争には権力闘争の面もあるとはいえ、断固とした態度で腐敗を一掃した習近平氏に篤い信頼が寄せられたのが、強力なリーダーシップの核となりました。リーダーシップを持つ個人と集団指導体制の繰り返しもまた、寄せては返す歴史の脈動性を物語ります。
世界における中国と習近平政権の特徴
習近平政権の特徴は、党による強制力を伴う指導(領導)です。新型コロナ対策において中国政府がとった強力な封じ込め策にも現れたように、超法規的な存在として中国共産党が存在することは、法治国家の日本では想像できないスピードや強制力をもたらしています。さらに人民解放軍も国の軍ではなく党の軍であるため、すべてが党の存続のために動いている図式を表したのが、1989年の天安門事件でした。社会の安定を保つためには、軍を導入して自由な言論を武力鎮圧することも辞さない姿を見せたのは、国際的に大きな波紋を呼びました。中国にとっての「民主化」がアメリカをはじめとする西側の「民主」とは相容れないことを示したからです。
とはいえ米ソ冷戦が終了した後の世界は、未知の成長性をはらむ中国に積極的に関与しました。そして、2001年に世界貿易機関(WTO)加入後の中国は、大変な経済発展を遂げます。
中国共産党の歴史は、「立ち上がる」「豊かになる」「強くなる」の三段階だといわれます。「立ち上がった」毛沢東氏、「豊かになった」改革開放の鄧小平氏はすでに評価されていますが、これらに並んで「強くなる」ことを自らに課したのが、強国強軍という「中国の夢」を掲げる習近平氏だったのです。
アヘン戦争以来の近代の屈辱感の裏返しとしてのナショナリズムを抱える中国民衆にとって、対外的に「ノーといえる中国」を体現する習近平氏はまさに英雄でした。
内と外から見る習近平思想
人口14億人を数える現在、中国共産党には9500万人ほどの党員がいて、総書記はピラミッド体制の頂点です。習近平思想(「習近平新時代の中国の特色ある社会主義思想」)が憲法や党規約に盛り込まれたこともあり、党と習近平氏はほぼイコールに重なって見えます。さらに2018年の全国人民代表大会(全人代)で国家主席と副主席の任期制限を撤廃して長期政権化の布石としています。習近平思想とは、どのようなものでしょうか。まず、「四つの意識」として政治意識・大局意識・核心意識・見習う意識を打ち立てます。その上で、中国の特色ある社会主義の道・理論・制度・文化への「四つの自信」を揺るぎないものとします。これらにより、「二つの擁護」(習総書記が党中央の核心であり、全党の核心の地位にあることを擁護、党中央の権威と集中統一指導を断固として擁護)という絶対的忠誠を要求していくのです。
また、「国之大者」という言葉も発表されて議論を呼んでいますが、これもやはり「習近平を核心とする党中央に高度に一致すべき」だとするのが小原氏の見解です。
こうした政治手法を中国共産党は「民主」と呼び、中華人民共和国建国100周年を迎える2049年には「富強・民主・文明・和諧・美麗」の社会主義現代化強国を実現することを打ち出しています。
少し前まで、アメリカは中国のウイグルに対する人権問題や香港の民主化運動弾圧に対する批判を繰り返しましたが、中国側は「内政干渉」と、強い態度で退けています。また、2021年7月1日に行われた中国共産党創立100周年演説で、習主席は天安門壇上から「教師のような偉そうな説教は拒絶する」と宣言しました。
習体制下の中国は「監視社会」と「小康社会」をともに実現しています。デジタル化の進んだ現代、中国は100年に一度の大変局のなかにあるのです。
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