テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2022.02.07

よくわかる「習近平政権」…世界における特徴とは

 2012年以来、中国の最高指導者として長期政権を続ける習近平氏。一部からは皇帝と呼ばれるほど権力集中の進んだ彼の一挙一動に世界が注目しています。その人物像、習近平政権が目標とする政治について、小原雅博氏(東京大学名誉教授)の講義をもとに整理してみました。

習近平の生い立ちと「純潔」

 習近平氏の誕生は1953年、毛沢東が中華人民共和国建国を宣言してわずか4年後のことです。父・仲勲氏は革命に身を投じた功労者で、(国務院)副総理の要職に就くほどでした。それゆえ現在の習近平氏は「紅二代」の「太子党」、すなわち革命に参加した人間の血を引いた二代目と呼ばれています。

 しかし、父親が党中央委員から失脚したため、文化大革命に重なる十代から二十代にかけては多難でした。父は投獄され、彼自身も「下放(農村で学び直す)」という処分に遭い、北京から地方の陝西省へと追われたのです。若い時代に地方の農村生活を経験したことは、その後の彼の礎となりました。

 当時一緒に苦労した人たちとの関係をいまだに持っていることもありますが、共産党自体の原点が彼のよく発する「純潔性」という言葉に潜んでいます。純潔の対極にあるのは「腐敗」。中国の歴史は「収」と「放」の繰り返しともいわれ、カリスマ的な中央に権力が集中した後は、分散が起こり腐敗を許してしまう傾向があります。特に胡錦濤政権までの中国は腐敗に悩まされ、「この腐敗を放っておけば国が滅ぶ」と憂えるほど、国民を悩ませました。

 以後の反腐敗闘争には権力闘争の面もあるとはいえ、断固とした態度で腐敗を一掃した習近平氏に篤い信頼が寄せられたのが、強力なリーダーシップの核となりました。リーダーシップを持つ個人と集団指導体制の繰り返しもまた、寄せては返す歴史の脈動性を物語ります。

世界における中国と習近平政権の特徴

 習近平政権の特徴は、党による強制力を伴う指導(領導)です。新型コロナ対策において中国政府がとった強力な封じ込め策にも現れたように、超法規的な存在として中国共産党が存在することは、法治国家の日本では想像できないスピードや強制力をもたらしています。

 さらに人民解放軍も国の軍ではなく党の軍であるため、すべてが党の存続のために動いている図式を表したのが、1989年の天安門事件でした。社会の安定を保つためには、軍を導入して自由な言論を武力鎮圧することも辞さない姿を見せたのは、国際的に大きな波紋を呼びました。中国にとっての「民主化」がアメリカをはじめとする西側の「民主」とは相容れないことを示したからです。

 とはいえ米ソ冷戦が終了した後の世界は、未知の成長性をはらむ中国に積極的に関与しました。そして、2001年に世界貿易機関(WTO)加入後の中国は、大変な経済発展を遂げます。

 中国共産党の歴史は、「立ち上がる」「豊かになる」「強くなる」の三段階だといわれます。「立ち上がった」毛沢東氏、「豊かになった」改革開放の鄧小平氏はすでに評価されていますが、これらに並んで「強くなる」ことを自らに課したのが、強国強軍という「中国の夢」を掲げる習近平氏だったのです。

 アヘン戦争以来の近代の屈辱感の裏返しとしてのナショナリズムを抱える中国民衆にとって、対外的に「ノーといえる中国」を体現する習近平氏はまさに英雄でした。

内と外から見る習近平思想

 人口14億人を数える現在、中国共産党には9500万人ほどの党員がいて、総書記はピラミッド体制の頂点です。習近平思想(「習近平新時代の中国の特色ある社会主義思想」)が憲法や党規約に盛り込まれたこともあり、党と習近平氏はほぼイコールに重なって見えます。さらに2018年の全国人民代表大会(全人代)で国家主席と副主席の任期制限を撤廃して長期政権化の布石としています。

 習近平思想とは、どのようなものでしょうか。まず、「四つの意識」として政治意識・大局意識・核心意識・見習う意識を打ち立てます。その上で、中国の特色ある社会主義の道・理論・制度・文化への「四つの自信」を揺るぎないものとします。これらにより、「二つの擁護」(習総書記が党中央の核心であり、全党の核心の地位にあることを擁護、党中央の権威と集中統一指導を断固として擁護)という絶対的忠誠を要求していくのです。

 また、「国之大者」という言葉も発表されて議論を呼んでいますが、これもやはり「習近平を核心とする党中央に高度に一致すべき」だとするのが小原氏の見解です。

 こうした政治手法を中国共産党は「民主」と呼び、中華人民共和国建国100周年を迎える2049年には「富強・民主・文明・和諧・美麗」の社会主義現代化強国を実現することを打ち出しています。

 少し前まで、アメリカは中国のウイグルに対する人権問題や香港の民主化運動弾圧に対する批判を繰り返しましたが、中国側は「内政干渉」と、強い態度で退けています。また、2021年7月1日に行われた中国共産党創立100周年演説で、習主席は天安門壇上から「教師のような偉そうな説教は拒絶する」と宣言しました。

 習体制下の中国は「監視社会」と「小康社会」をともに実現しています。デジタル化の進んだ現代、中国は100年に一度の大変局のなかにあるのです。
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
自分を豊かにする“教養の自己投資”始めてみませんか?
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,400本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

平々凡々も大事、慎まなくてはいけないのはヤンチャな行動

平々凡々も大事、慎まなくてはいけないのはヤンチャな行動

『孫子』を読む:行軍篇(2)4つの地形での戦い方:後編

前回に続き、戦いにおける4つの地形、その環境の具体的な注意点を示し、それらをビジネス戦略や人生の局面に応用する方法を解説していく第2話。川、沼地、平地、そして高地においての戦いの要点が語られているが、広い視野を持...
収録日:2020/10/09
追加日:2025/01/12
田口佳史
東洋思想研究家
2

大人の学び・3つの心得=自由、世間が教科書、孤独を覚悟

大人の学び・3つの心得=自由、世間が教科書、孤独を覚悟

「50歳からの勉強法」を学ぶ(1)大人の学びの心得三箇条

大人の学び、50歳からの勉強法について童門冬二氏に伺ったシリーズ講義。人生のプロセスをある程度終えてからの勉強の仕方として、童門氏は三つのポイントを挙げている。一つ目は「学びの姿勢は自由でいい」、二つ目は「教科書...
収録日:2020/01/09
追加日:2020/05/14
3

『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』で追う近現代史

『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』で追う近現代史

なぜ働いていると本が読めなくなるのか問答(1)読書と教養からみた日本の近現代史

『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(三宅香帆著、集英社新書)では、日本人の本の読み方の変遷を追うとともに、明治以降、日本人が読んできた本を知ることで、日本の世相や文化史を克明に伝えている。本講義では2回にわ...
収録日:2024/08/26
追加日:2024/10/06
三宅香帆
文芸評論家
4

印象派の中心的画家ピサロとドガに影響を与えた人物とは

印象派の中心的画家ピサロとドガに影響を与えた人物とは

印象派とは~画家たちの関係性から技法まで(3)印象派を牽引したピサロとドガ

印象派を中心的に引っ張っていた画家として、ピサロとドガを取り上げる。のちに絶縁することになる2人だが、印象派展を牽引する上では手を取り合っていた。この2人がどのような影響のもとでその画風を作り上げたかを掘り下げる...
収録日:2023/12/28
追加日:2025/01/11
安井裕雄
三菱一号館美術館 上席学芸員
5

『貞観政要』が人気…日本の経営幹部研修で好まれる理由

『貞観政要』が人気…日本の経営幹部研修で好まれる理由

オリエント 東西の戦略史と現代経営論に学ぶ(5)東洋的リーダーシップ

年功序列の上下関係が根を張る日本型組織が、いきなりその体制を超分権型組織に切り替えるのは容易ではない。そこで今、日本の経営者が注目しているのが、部下からの忌憚ない助言の価値を説く『貞観政要』だ。これからの日本の...
収録日:2024/09/17
追加日:2025/01/10
三谷宏治
KIT(金沢工業大学)虎ノ門大学院 教授