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DATE/ 2015.10.23

ジョブズが火付け役、グーグルも実践している「マインドフルネス」がストレス社会を救う?

 「マインドフルネス」という言葉をどこかで耳にしたことはないだろうか。グーグル、インテル、パタゴニアなど、さまざまなグローバル企業が取り入れている「ある行為」のことだ。しかし、名前だけでは何のことだか想像がつきにくい。ここでは、マインドフルネスをごくごく簡単に説明したい。

火付け役は、スティーブ・ジョブズ

 マインドフルネスは、実はまったく難しいことではない。一言で言ってしまえば、マインドフルネスとは「瞑想」だ。仏教の「座禅」は、立派な、というよりも主流のマインドフルネスである。日本人には身近な行為だが、これまで日本企業が社員に瞑想を奨励するケースは少なかった。研修の一環として座禅を体験するくらいのものだろう。しかしマインドフルネスは、アメリカを中心にいまや企業社会で流行しているのである。

 火付け役は、スティーブ・ジョブズだ。ジョブズはアメリカにおける最初のメジャーな「瞑想するCEO」であり、禅仏教の伝統の信奉者、東洋思想の学徒だった。実は、彼は日本人の導師に師事し、ひっそりと、かなり深く研究していたのである。

ストレス軽減、集中力アップなどに効果的

 マインドフルネスがなぜ流行しているかといえば、手軽な割に効果が大きいからだ。ただ瞑想するだけで、ストレス軽減、集中力アップ、思いやりと優しさのトレーニング、持続可能な幸福感の高まりにつながるといわれている。瞑想を実践すると、たとえば困った上司がいても、自分がリアクションを変え、受ける影響を変えることでストレスを減らすことができるようになる。科学的にも、マインドフルネスを実践していくと、感情入力を処理する皮質領域が厚くなり、偏桃体が小さくなるといった具体的な変化がおこることが証明されている。

 なお、マインドフルネスは宗教から切り離されている。仏教以外にも瞑想を行う宗教は世界中に存在するが、それらとは基本的に関係がない。あくまでも技術として瞑想を捉える方法だ。特定のやり方で、意図的に、この瞬間に何ら判断を加えることなく注意を向けることが、マインドフルネスである。

日本でも流行する可能性がある

 マインドフルネスがグローバル企業を中心に流行している背景には、職場や社会の変化がある。グローバル企業では、以前よりもストレスフルで、勤務時間が増えているところが多い。技術革新や社会変化のスピードが速く、未来がより不確定になってきたことで社員の心には不安が増しているし、スマートフォンなどの発達で、仕事とプライベートの境目はどんどん曖昧になってきており、休む暇がない。これらを解決する方法として、マインドフルネスが注目を浴びているのだ。

 日本企業ではまだまだ広まっていないが、やはり同じようにストレスや不安は増大し、休む暇も減っているのだから、いずれマインドフルネスが流行する可能性は十分にある。一人で手軽にできることだから、気になるようなら、一足先に始めてみてはいかがだろうか。

<参考文献>
・『マインドフル・ワーク 「瞑想の脳科学」があなたの働き方を変える』(デイヴィッド・ゲレス著、岩下慶一訳 NHK出版)
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公益財団法人東洋文庫研究員