テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2025.03.14

『ゆるストイック』に学ぶ、不確実な時代を生きる新たな方法

「少し力を抜いて生きよう」――コロナ禍にあったとき、世の中はそうした風潮が広がりました。それから少し時間が経過した現在、「がんばりすぎない」という生き方から抜け出せず、方向性が見えないまま戸惑っている人もいるのではないでしょうか。この状況に対しては、周囲のノイズから少し距離を置き「淡々と自分のペースで歩み続ける」というスタンスが有効かもしれません。

 ただしSNSなどを目にすると、絶えず情報が流れ込んできます。そうなると「自分のペースで」ということは簡単ではありません。ではどうすればよいのでしょうか。この点に関して「ゆるストイック」というキーワードを中心に筆者の思索をまとめた本が、今回紹介する「ゆるストイック──ノイズに邪魔されず1日を積み上げる思考」(佐藤航陽著、ダイヤモンド社)です。

 著者の佐藤航陽(さとうかつあき)氏は1986年福島県生まれの起業家、発明家、宇宙ロボット開発者です。佐藤氏は早稲田大学法学部在学中の2007年に、ビッグデータ解析やオンライン決済に関する会社を立ち上げます。その後、世界8カ国に展開し、2015年には20代でマザーズに上場。この頃には年商200億を達成し、2017年に宇宙開発を目的とした株式会社スペースデータを創業しました。現在は宇宙ステーションやロボット開発に携わり、JAXAや国連と協働しています。他の著書としては『お金2.0 新しい経済のルールと生き方』(NewsPicks Book)や『行動する人に世界は優しい―自分の可能性を解き放つ言葉―』(新潮社)など多数あります。

まずは「アンラーニング」して価値観をリセット

「ゆるストイック」というスタンスでは、「あなたは◯◯すべきだ!」というマウントは決してとりません。また、自分の力だけで成し遂げようとせず、周りの助けを素直に受け入れる「ゆるさ」も重要です。現代の二極化した超格差社会では、「ゴールを急ぐのではなく、続けることそのものを楽しむ」こと、つまり「こつこつと持続的に楽しみながら努力すること」が大事です。「自分を律するストイックさ」と他人と違う考えを許容し干渉しない「寛容さ(ゆるさ)」という、相反する価値観を同時に持つことが「強さ」に直結する、と佐藤氏は述べます。

 このために佐藤氏は、まずは一度「アンラーニング」することを推奨します。具体的にはSNSのアプリを消して、日常的に入手する情報を一度遮断し、自分の価値観を一旦捨てることから始めるとよさそうです。こうして自分の思考を一度リセットすると、「なぜあれほどまでにどうでもいいことを気にしていたのだろう」と思うようになるとのこと。佐藤氏は「古くなった価値観をアンインストールして『空き容量』を確保すること」がまずは最優先だといいます。

 このとき、過去の人々が生み出し社会に定着させた「発明品」(=古くなった価値観)について、本当に自分に必要なものを選び取り、それ以外は手放します。この価値観として挙げられているのが「公正世界仮説」「被害者意識」「自己責任論」「ゼロリスク思考」「ゼロ失敗思考」「ロジカルシンキング信仰」の6つです。本書ではそれぞれについて、現代ではどういう点がそぐわないのかということについても触れられます。

 ここではこの部分の詳細については割愛しますが、該当部分を読むと自分が解放されるかもしれません。また、この代わりの発想方法として、「自分がコントロールできないことに焦点を当てない」姿勢と「『願望』と『現実』を混同せず、現実の仕組みを理解する」ことが推奨されています。これらが「ゆるく(柔軟に)」考える土台となります。

努力はゲーム化して実践する

 こうして「柔軟な思考」を取り入れることができたら、あとは努力します。ただし、努力は必ず報われるわけではありません。また、「才能」だけで成功するわけでもありません。より大事なのは環境などの「運」です。運を味方につけることで「ほんの少し他人より優れた特徴があれば、それだけで十分にチャンスを掴むことができる」と佐藤氏は言います。

 さらに努力を続けるには「あらゆることをゲーム化すること」が勧められています。おおよそ20%から30%の確率で自分の望んだ結果が返ってくるときに人は没頭しやすいことがわかっています。つまり10回中2~3回当たるゲームにすることです。こういったタスクを自分に設定することで、意欲が続きやすくなります。

 また目標設定は、現在の自分では少し「できなさそうなこと」こそが、自分にとって最適な難易度です。たとえば「まず2キロ減らす」「毎日10分運動する」といった例が示されています。このような小さな目標を達成したら、ゲームでステージが進むごとに少しずつ難しくなるのと同様に少しずつ目標を高くしていきます。こうしていくと小さな成功体験が積み重なり、挑戦が楽しくなります。こうして達成感を重ねていくと、大きな目標への自信とモチベーションが高まります。

ゆるさ=環境の力を借りる柔軟性、ストイックさ=自力での成長

 佐藤氏は「他力」と「自力」という異なるエネルギー源を組み合わせて自分を成長させること、つまり、「環境の力を借りる柔軟さ」と、「自力での成長」を両立させることを大事にします。これがつまり「ゆるさ」と「ストイックさ」です。このとき大事なことは「因果にとらわれず、ランダムな出来事を自然なものとして受け入れる」ことです。

 現代は何が起こるかわかりません。しかし私たちは、回数制限なしにくじを引くことができます。なんどでもチャレンジしていれば、いつかは当たりがくるかもしれません。運がいい人の特徴はシンプルに「とにかく試行回数が多い」ことです。「運の悪い人」から脱却するためには、「失敗」=「無能」という固定観念から早めに脱却し、なんどでもチャレンジすることです。

 本書での「ゆるさ」とは「柔軟さ」のことです。一方で「ストイックさ」とは「今日が最後かもしれないと意識して生きること」とも言えます。佐藤氏は「もし何の制約もなかったとしたら、自分は何をするだろうか?」と考えるそうです。そうして出てきたことを実行していくだけで、日々は充実するといいます。

 本書のあとがきでは、「『持たざる者』は世の中の仕組みを誰よりも理解した上で『運』を味方につける必要がある」と示されています。この「運」を味方につけるには、「ゆるく」努力を続けながら、「ストイックに」自身を見つめて生きていくことです。本書はこのように、不確実な現代での生き方のヒントが「ゆるストイック」という言葉に凝縮されています。ぜひ本書を開いてみてください。読み終える頃には、目の前の現実やここに立っている自分の姿が以前よりもだいぶクリアになっているはずです。

<参考文献>
『ゆるストイック──ノイズに邪魔されず1日を積み上げる思考』(佐藤航陽著、ダイヤモンド社)
https://www.diamond.co.jp/book/9784478120729.html

<参考サイト>
佐藤航陽氏のX(旧Twitter)
https://x.com/ka2aki86

~最後までコラムを読んでくれた方へ~
自分を豊かにする“教養の自己投資”始めてみませんか?
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

トランプ関税はアダム・スミス以前の重商主義より原始的

トランプ関税はアダム・スミス以前の重商主義より原始的

第2次トランプ政権の危険性と本質(2)トランプ関税のおかしな発想

「トランプ関税」といわれる関税政策を積極的に行う第二次トランプ政権だが、この政策によるショックから株価が乱高下している。この政策は二国間の貿易収支を問題視し、それを「損得」で判断してのものだが、そもそもその考え...
収録日:2025/04/07
追加日:2025/05/17
柿埜真吾
経済学者
2

大隈重信と福澤諭吉…実は多元性に富んでいた明治日本

大隈重信と福澤諭吉…実は多元性に富んでいた明治日本

デモクラシーの基盤とは何か(2)明治日本の惑溺と多元性

アメリカは民主主義の土壌が育まれていたが、日本はどうだったのだろうか。幕末の藩士たちはアメリカの建国の父たちに憧憬を抱いていた。そして、幕末から明治初期には雨後の筍のように、様々な政治結社も登場した。明治日本は...
収録日:2024/09/11
追加日:2025/05/16
3

【会員アンケート】談論風発!トランプ関税をどう考える?

【会員アンケート】談論風発!トランプ関税をどう考える?

編集部ラジオ2025(8)会員アンケート企画:トランプ関税

会員の皆さまからお寄せいただいたご意見を元に考え、テンミニッツTVの講義をつないでいく「会員アンケート企画」。今回は、「トランプ関税をどう考える?」というテーマでご意見をいただきました。

第2次トランプ...
収録日:2025/05/07
追加日:2025/05/15
テンミニッツTV編集部
教養動画メディア
4

相互関税の影響は?…トランプが築く現代版の万里の長城

相互関税の影響は?…トランプが築く現代版の万里の長城

世界を混乱させるトランプ関税攻勢の狙い(1)「相互関税」とは何か?

トランプ大統領は、2025年4月2日(アメリカ時間)に貿易相手国に「相互関税」を課すと発表し、「解放の日」だと唱えた。しかし、「相互関税」の考え方は、まったくよくわからないのが実状だ。はたして、トランプ大統領がめざす...
収録日:2025/04/04
追加日:2025/04/10
島田晴雄
慶應義塾大学名誉教授
5

重要思考とは?「一瞬で大切なことを伝える技術」を学ぶ

重要思考とは?「一瞬で大切なことを伝える技術」を学ぶ

「重要思考」で考え、伝え、聴き、議論する(1)「重要思考」のエッセンス

「重要思考」で考え、伝え、聴き、そして会話・議論する――三谷宏治氏が著書『一瞬で大切なことを伝える技術』の中で提唱した「重要思考」は、大事な論理思考の一つである。近年、「ロジカルシンキング」の重要性が叫ばれるよう...
収録日:2023/10/06
追加日:2024/01/24
三谷宏治
KIT(金沢工業大学)虎ノ門大学院 教授