社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2016.10.11

介護保険料の地域差は最高3倍!なぜ差が付くのか?

 「介護保険料」について、皆さんはどのくらいご存じでしょうか。高齢社会の進行に伴い2000年4月にスタートした介護保険制度の運営主体は「市区町村」です。自治体から「要介護」「要支援」の認定を受けた65歳以上を中心にさまざまな介護サービスが行われ、利用者は実際にかかる費用の1割(所得によっては2割)を負担するだけですむという制度です。

2911円でスタートした介護保険料が8165円に!?

 介護保険制度がスタートした当初、介護保険料は全国平均で月額2911円でした。ところが、しだいに高くなって、2015年には7割以上の自治体で5000円を超えて全国平均5514円に達しているとのことです。しかも今後、2020年には6771円、2025年には8165円に達するものと、厚生労働省では予測しています。

保険料の地域格差は、最高で3.1倍の開き

 厚労省が2015年4月にまとめた市町村動向によると、第6期(2015~2017年度)の保険料基準額が最も低いのは鹿児島県三島村の2800円、その次に低いのは北海道音威子府村の3000円。一方、最も高かったのは奈良県天川村の8686円、次に高いのは福島県飯館村の8003円となっています。最も高い地域と低い地域を比較すると、月々の差額は6000円近く、格差は3.1倍に達しています。ちなみに東京都内23区を見ると、最も高いのが港区6245円、安いのは荒川区5662円です。

 都道府県別にみると、最も低いのは埼玉県で4835円、逆に最も高かったのは沖縄県で6267円と発表されました。なぜ、このような地域格差が生まれるのでしょうか。

高齢者が多く、サービス利用が多ければ保険負担は増える

 介護保険制度の財源は公費が50パーセント、残りの50パーセントが40歳以上の国民が自治体に納める「介護保険料」でまかなわれます。公費50パーセントについては、国25パーセント、都道府県12.5パーセント、市区町村12.5パーセントの割合が定まっています。保険料負担額については、市区町村が3年ごとに介護保険事業計画を策定し、それぞれの地域における3年間の保険給付費の見込みにもとづいて、具体的な額を定めています。

 一人ひとりが支払う介護保険料に影響するのは、その自治体の高齢者の数と介護サービスの利用総額です。要介護認定者の数が多かったり、介護施設で暮らす高齢者が多い自治体ほど、介護保険料が高くなるわけです。先述の介護保険料が最も高かった奈良県天川村の場合、人口およそ1600人のうち65歳以上が4割以上で介護施設に入所している高齢者も増加したこと、2012~2014年度に財政安定化基金から1800万円を借り入れたことから、「全国一」の保険料となってしまったようです。

「ころばん体操」で、保険料を引き下げた東京・荒川区

 高齢者が多くても、健康な生活を送っていれば、介護保険料負担は減らすことができます。介護予防のための取り組みを積極的に行なっているのが、東京都内で唯一、介護保険料を引き下げることに成功した荒川区などの例です。

 荒川区では、2002年に首都大学東京と協力して、オリジナルの転倒予防体操「荒川ころばん体操」を開発しました。そして、地区のボランティアリーダーによる協力を得て、現在では区内公共施設等26カ所で週1、2回実施しているのです。4カ月続けると足腰に筋力がつき、転倒率が全国平均と比べて半分になるなど、効果が実感されています。

 健康寿命をのばして元気な高齢者が増えれば、介護保険料も安くなる。ぜひ全国で実現したいものです。
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
「学ぶことが楽しい」方には 『テンミニッツTV』 がオススメです。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

豊臣兄弟の謎…明らかになった秀吉政権での秀長の役割

豊臣兄弟の謎…明らかになった秀吉政権での秀長の役割

豊臣兄弟~秀吉と秀長の実像に迫る(1)史実としての豊臣兄弟と秀長の役割

豊臣と羽柴…二つの名前で語られる秀吉と秀長だが、その違いは何なのか。また、これまで秀長には秀吉の「補佐役」というイメージがあったが、史実ではどうなのか。実はこれまで伝えられてきた羽柴(豊臣)兄弟のエピソードにはか...
収録日:2025/10/20
追加日:2025/12/18
黒田基樹
駿河台大学法学部教授 日本史学博士
2

逆境に対峙する哲学カフェ…西洋哲学×東洋哲学で問う矛盾

逆境に対峙する哲学カフェ…西洋哲学×東洋哲学で問う矛盾

逆境に対峙する哲学(1)日常性が「破れ」て思考が始まる

「逆境とは何に逆らうことなのか」「人はそもそも逆境でしか思考しないのではないか」――哲学者鼎談のテーマは「逆境に対峙する哲学」だったが、冒頭からまさに根源的な問いが続いていく。ヨーロッパ近世、ヨーロッパ現代、日本...
収録日:2025/07/24
追加日:2025/12/19
3

日本の外交には「インテリジェンス」が足りない

日本の外交には「インテリジェンス」が足りない

インテリジェンス・ヒストリー入門(1)情報収集と行動

国家が的確な情報を素早く見つけ行動するためには、インテリジェンスが欠かせない。日本の外交がかくも交渉下手なのは、インテリジェンスに対する意識の低さが原因だ。日本人の苦手なインテリジェンスの重要性について、また日...
収録日:2017/11/14
追加日:2018/05/07
中西輝政
京都大学名誉教授 歴史学者 国際政治学者
4

『100万回死んだねこ』って…!?記憶の限界とバイアスの役割

『100万回死んだねこ』って…!?記憶の限界とバイアスの役割

何回説明しても伝わらない問題と認知科学(2)バイアスの正体と情報の抑制

「バイアスがかかる」と聞くと、つい「ないほうが望ましい」という印象を抱いてしまうが、実は人間が生きていく上でバイアスは必要不可欠な存在である。それを今井氏は「マイワールドバイアス」と呼んでいるが、いったいどうい...
収録日:2025/05/12
追加日:2025/11/09
今井むつみ
一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授
5

葛飾北斎と応為の見事な「画狂人生」を絵と解説で辿る

葛飾北斎と応為の見事な「画狂人生」を絵と解説で辿る

編集部ラジオ2025(31)絵で語る葛飾北斎と応為

葛飾北斎と応為という「画狂親娘」の人生と作品について、堀口茉純先生にそれぞれの絵をふんだんに示しながら教えていただいた講義を、今回の編集部ラジオで紹介しました。

葛飾北斎といえば知らぬ人はいない江戸の絵...
収録日:2025/12/04
追加日:2025/12/18