テンミニッツ・アカデミー|有識者による1話10分のオンライン講義
会員登録 テンミニッツ・アカデミーとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2017.01.04

今を生きる20代「さとり世代」の特徴とは?

さとり世代にあてはまる人

 「団塊世代」「バブル世代」「ゆとり世代」など、世代にはその時々の世情や人の生き様をあらわす名前がつけられてきました。そんな中、2013年に、流行語大賞にノミネートされた「さとり世代」をご存じでしょうか。何歳が対象になるか、という線引きは難しいところで、1987年から1996年生まれ、ゆとりの次、1990年代、と諸説あるようですが、おおむね今20代を過ごしている世代だと言われています。こうしてみると、ゆとり世代ともかぶっているようですね。

若いうちから「さとる」理由

 「悟る(さとる)」というと歳を重ねて、というイメージがありますが、まだ若いうちから世代の呼ばれ方としてこのようなネーミングをされるのはなぜでしょうか。

 さとり世代の最大の特徴は、欲がないことだといいます。昔は、昇進を夢見て、いい車を持って、いい家に住むという上昇志向の強い世代がありましたが、今ではできるだけひっそりと、日々を幸せに、というふうに、物よりも心の豊かさを求めるようになっているのだそうです。物の価値で競ったり、俗的な部分から少し離れた場所で価値を見いだそうとしたりする精神性が、まるで「悟った」ように見えるところから、さとり世代と呼ばれるようになったのですね。

「無理してでもやってみよう」でなく「調べてから一歩踏み出す」

 さとり世代は、あまり外に出たがらず、お金も極力使おうとしません。無駄なことを嫌う合理的なところがあります。小さい頃からインターネット環境があり、家にいながらも多くの情報を手にできるだけに、世の中を俯瞰でみているところがあるのかもしれません。

 スタッフのなかにもさとり世代と近い者がいるので聞いてみると、そのスタッフは自分も含め周囲の同世代の人に共通しているのは、「調べてすぐわかること」にはトライせず、しかもやる前に想像だけでモノの良し悪しや自分にできることかどうかを判断してしまうところだといいます。もちろん、チャレンジ精神や冒険心のある人もいるけれども、スタッフの知る限りでは、「無理してでもとりあえずやってみよう」ではなく、どちらかというと「綿密に調べてから一歩踏み出す」という慎重派が良くも悪くも多いとのこと。

 また、「正解かどうかがあらかじめわかってしまう(と本人が感じる)からこそ、臆病になってしまう」という話も聞きました。これらのことが世代の傾向としてどれくらいの割合でいるかはわかりませんが、検索すればなんでもすぐに調べられるというネット環境と関係がありそうですね。

あきらめの精神

 原田曜平氏著の『さとり世代 ―盗んだバイクで走り出さない若者たち』では、さとり世代の行動理念について、「プラスになるかどうか」ではなく、「マイナスにならないか」という考え方で動いていると指摘しています。

 この、「別にどうしても上にいかなくても良い」という考え方は、世の中に格差が生まれたからではないか、と記されています。ソーシャルメディアが発達し、さまざまな人との交流ができるようになった今、それぞれの集まりごとに自分を少しずつ変えていく「空気を読む」ことがうまくなり、自分はこのへんであるという、ある種のあきらめにも似た感情が生まれてくるのかもしれません。それでいて、個々の幸せを重視するようになった結果、「無理に合わせなくても良い」となり、個人の自由が確立されるようになってきたということです。

「何でもあり」の良さと悪さ

 こうして見ていくと、「さとり」とは言い得て妙ですね。現実を見据え、それでいて多くを求めず、日々の暮らしに満足する考え方はすばらしいと思います。しかしそれは必ずしも良いことばかりではないと思います。恋愛、お金、地位、これらへの執着を早くから捨て去り、「あがく」ことをしないために、打たれ弱くなることもあるかもしれません。焦りもがく苦しみがなくなるのは、人生のスパイスを失うことに他なりません。

 ただひとつ言えるのは、今の時代に合わせてみんな精一杯生きているということです。そんな「さとり世代」の生き方、その方法もまた、厳しい世の中を生き抜くための一つの処世術なのかもしれませんね。

<参考文献>
『さとり世代―盗んだバイクで走り出さない若者たち』(原田曜平著、KADOKAWA/角川書店)
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
「学ぶことが楽しい」方には 『テンミニッツTV』 がオススメです。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

「虚実篇」から学ぶ優秀なリーダーの役割と戦略の重要性

「虚実篇」から学ぶ優秀なリーダーの役割と戦略の重要性

『孫子』を読む:虚実篇(1)いかに主導権を握るか

今回から開始となる『孫子』シリーズの第6編「虚実篇」。虚実とは空虚と充実であり、空虚とは手薄、充実とは手厚いことだと田口氏は説く。また、虚偽と真実という虚実もある。これらはいったい何を意味しているのか。虚実篇では...
収録日:2020/05/21
追加日:2022/01/03
田口佳史
東洋思想研究家
2

台湾でクーデターは起きるのか?想定シナリオとその可能性

台湾でクーデターは起きるのか?想定シナリオとその可能性

クーデターの条件~台湾を事例に考える(1)クーデターとは何か

サヘル地域をはじめとして、近年、世界各地で多発しているクーデター。その背景や、クーデターとはそもそもどのような政治行為なのかを掘り下げることで国際政治を捉え直す本シリーズ。まず、未来の“if”として台湾でのクーデタ...
収録日:2025/07/23
追加日:2025/10/04
上杉勇司
早稲田大学国際教養学部・国際コミュニケーション研究科教授 沖縄平和協力センター副理事長
3

中国の「国進民退」に危機感…これからの日中関係を読む

中国の「国進民退」に危機感…これからの日中関係を読む

外交とは何か~不戦不敗の要諦を問う(5)日本外交の進むべき道

日本周辺での有事の可能性が叫ばれる中、日米関係を重視しながらも、隣国・中国とはどうやって関係を築いていくべきか。習近平政権以前の中国の在り方から振り返りながら、これからの中国との付き合い方を考える。また、シリア...
収録日:2025/04/15
追加日:2025/10/03
小原雅博
東京大学名誉教授
4

経済発展から「国家の安全」へ…転換された国家戦略目標

経済発展から「国家の安全」へ…転換された国家戦略目標

習近平中国の真実…米中関係・台湾問題(2)国家戦略目標の転換

「習近平中国」における内政において、最も重要な特徴は国家戦略目標の転換だと垂氏は言う。鄧小平時代の経済発展から国家の安全へ舵が取られ、「富より安全」を社会秩序の根底とするのが習近平中国の方向性となる。国家安全委...
収録日:2025/07/01
追加日:2025/10/02
垂秀夫
元日本国駐中華人民共和国特命全権大使
5

なぜ強みが大事なのか?ドラッカー、西田幾多郎の答えは

なぜ強みが大事なのか?ドラッカー、西田幾多郎の答えは

経験学習を促すリーダーシップ(4)成功を振り返り、強みを伸ばす

人の成長にとって、弱点の克服よりも重要なのは強みを伸ばすことだ。ではいかにして自分の強みに気づいていけばいいのか。指導者はどのようにしてそれを気づかせ、支援していけばいいのか。ピーター・ドラッカーの話をはじめ、...
収録日:2025/06/27
追加日:2025/10/01
松尾睦
青山学院大学 経営学部経営学科 教授