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ヤルタ会談の裏の目的…ソ連対日参戦のための極東密約

敗戦から日本再生へ~大戦と復興の現代史(8)ヤルタ会談の密約と本土上陸作戦

島田晴雄
慶應義塾大学名誉教授/テンミニッツTV副座長
情報・テキスト
ヤルタ会談に臨むチャーチル、ルーズベルト、スターリン
(中央ソファー左から)
公立大学法人首都大学東京理事長・島田晴雄氏による島田塾特別講演シリーズ。1945年2月のヤルタ会談では、日本の戦後処理について米ソ間で密約が交わされ、また、この頃のアメリカでは、「日本は狂信的」という見方が定着していた。まさに、日本は敗戦後、米ソの直接分割統治を免れ得ない危機にさらされていたのだ。しかし、そこに一石を投じた女性学者の存在があった。(2016年7月8日開催島田塾第137回勉強会島田晴雄会長講演「敗戦、占領、そして発展:日本は異民族支配からいかにして再生したか?」より、全13話中第8話)
時間:09:54
収録日:2016/07/08
追加日:2017/07/29
≪全文≫

●ヤルタ会談の密約-極東についての秘密協定


 1945年2月4日、原爆投下の前ですが、ヤルタ会談が行われました。今はウクライナからロシアが併合したクリミア半島で行われましたが、ここはとてもきれいな保養地なのです。リヴァディア宮殿で、2月4日から1週間にわたって会談が行われ、最後に米英ソの3首脳の公式会談で締めくくられました。

 会談の目的は何かというと、ドイツの非軍事化、米英ソ仏による4カ国の分割占領、国際連合を設立するためのサンフランシスコにおける連合国会議召集、それから解放後のポーランド政権のあり方の審議。主眼は欧州ということになっていたのですが、実は極東について秘密協定があったのです。

 これは何かと言えば、フランクリン・ルーズベルト大統領が、43年秋以来、スターリンに対して何とか日本打倒の協力を要請し続けていたのです。スターリンは「ドイツが負けたら、3カ月後をめどに参戦する」と約束しましたが、「われわれが参戦するなら見返りが欲しい」と言ったのです。ルーズベルトは、スターリンが太平洋の出口を必要とするということが分かっていましたから、日露戦争で日本が正当に獲得している南樺太を「返します」と約束しました。それから千島は、1875年の日露間の平和協定で日本の領土と認定済みですが、これを「引き渡す」という約束もしているのです。このことを後にハリー・S・トルーマン大統領が知って、「何をやっているんだ、うちの大統領は?」と、もう仰天するのです。


●米強硬派による2つの本土決戦実施案


 ところが、その終戦の年の春まで、日米には強硬派がいました。ルーズベルトは強硬派で、軍ももちろんそうでした。日本は陸軍が強硬派です。彼らは両方とも「日本本土決戦だ」と考えていたのです。

 アメリカには詳細な実施案がありました。皆さん、ご存じかどうか。2つあるんです。1つは南九州上陸作戦。これは“Olympic Operation” と言います。それから関東平野侵攻作戦、“Coronet Operation”。11月1日には南九州上陸作戦を予定。空爆、鉄道破壊、大陸と遮断、日本列島を封鎖する。1946年3月には関東平野を全面侵攻作戦で首都制圧。粉々にして、息の根を止める。ゲリラも制圧する。ゲリラがいるから完全制圧は時間がかかるだろう、1946年末だとされていました。

 なお、軍部はこの南九州上陸作戦について、ドイツに無条件降伏を強いた経験を踏まえ、なんと6月18日に大統領の承認を得ていたのです。ちなみに、ポーランドやドイツでどのぐらい死者が出たかというと、700万人です。日本は多く見ても直接には350万人です。なぜ日本より小さな国で死者が2倍になっているのか。これは本土決戦があったかどうかなのです。ソ連にはナチ・ドイツが侵攻しましたので、戦死者2,000万人と言われています。ですから、日本で本土決戦があったら、一体何が起きただろう? ということです。恐ろしいですね。

 結局、これらの対日作戦はノルマンディー作戦の2倍の規模で、もし太平洋岸からアメリカ軍が侵攻するなら、ヤルタの密約により、日本海側からソ連が上陸してきますから、必ず米ソによる分割統治になり、体制の異なる分割国になります。日本が徹底抗戦すれば、そうなったのですが、何とかそれを回避したわけです。


●占領軍の対日戦略を批判したヘレン・ミアーズ


 この頃までのアメリカは、「日本は作られた狂信国」「もう日本は気が狂っている。凶状持ちだ」という日本像を持っていました。ところが、「アメリカの対日戦略は間違っている」と唱えた人がいました。ヘレン・ミアーズという女性の学者が、“Mirror for Americans:Japan”『アメリカの鏡・日本』という素晴らしい本を書いています。1948年の出版で、何十年もたって1995年に翻訳出版されました。当時、「日本語出版したい」と、GHQに掛け合った日本の学者がいたのですが、マッカーサーが「とんでもない。これは扇動だ。非常に間違った危険な本だ」と言ったのが、ようやく発掘されて、伊藤延司さんという人がこれを翻訳しました。訳しながらもう涙が止まらなかった本だそうです。

 では、どういうことが書いてあるのか。彼女は東洋や日本の専門で、戦前の日本に1年滞在し、京都などをずっと歩いて文化を研究していました。占領中は、連合国軍最高司令官(SCAP)総司令部、すなわち占領軍の労働政策の諮問機関委員として来日しましたが、彼女は占領軍で働きながら、占領軍の幹部や同僚の経済や法律の専門家が、あまりにも占領政策の対象である日本について何も知らないということについて驚き、戦慄を覚えたというのです。彼女は、こういう質問を書いています。「科学者が、自分の知らない化学薬品を使って、果たして実験をするだろうか」と。外交評論家・岡崎久彦さんは、「彼女は、不十分な点もあるけれど、歴史学者とし...
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