●バブル崩壊後、一人負けした日本の財政
「少子高齢化と財政の役割」としてのシリーズ第2回は、財政赤字の原因について考えてみたいと思います。日本は非常に大きな財政赤字を抱えているわけですが、その解決を図るためには、なぜ財政赤字が大きいのかということを考える必要があります。
最初に主要先進国における財政赤字、それから債務残高について比べてみたいと思います。これはよく引用される数字ですが、20数年前にさかのぼってみましょう。1990年は驚くべきことに日本の財政は黒字で、主要先進国の中では最も良い状況でした。1990年というのはバブルの最高の状況だったと言えるからです。ところがたった10年後の2000年を見てみると、日本の財政赤字はGDP比7パーセントを超えました。主要先進国の中で最も悪い水準になったのです。
他方、先進国を見てみると、1990年代の後半にかけて多くの国で財政再建が行われました。その結果、2000年の財政赤字は多くの国で黒字となり、OECD平均でも財政収支はほぼ均衡に至りました。日本だけが一人負けをしたと言えます。
●国によって大きく違う財政状況
ところが、2000年を過ぎると再び、先進諸国で財政赤字が拡大しています。特にリーマンショックを経た2008年、2009年以降に赤字が拡大し、例えば、イギリスやアメリカでは10パーセントを超える赤字になっています。ところが、もう少しよくこの数字を見てみましょう。スウェーデンの財政赤字ですが、リーマンショック以後も財政赤字はそれほど大きくありません。オーストラリアやニュージーランドを見ても、やはり財政赤字は大きくありません。スウェーデンについては、国の借金から貯金、特に年金の積立金を差し引いた純金融負債を見ると、マイナスになっています。マイナスということは貯金を積み上げているということです。
何を言いたいのかというと、なぜ国によってこれほど財政状況に違いがあるのかということなのです。この違いを考えることが、日本の財政赤字について考える非常に重要な要素になるのです。
●財政赤字拡大のポイントは「他人のお金」と「錯覚」
経済学者がこの財政赤字についていろいろなことを言っています。例えば、「財政赤字は、利己的な政治家による合理的な行動の結果である」「特定の公共政策から便益を受ける者は通常、その政策のコストを負担するわけではない。彼らは、全費用のごく一部しか負担しない」といったことです。何となく分かりますね。政治家は選挙で、あれもこれもと言うわけです。それは彼らが、選挙で当選したいと考えているからです。
私は政府部門の予算について、よくこういうことを言っています。「政府部門の予算というのは、他人のお金を使う仕組みである」。どうですか。皆さん、例えば、もし上司があなたに「今晩の夕食を、何でもいいから奢ってあげる」と言ったら、どんなレストランに行くでしょうか。ホテルとか料亭とか、高いレストランに行きますよね。その理由は簡単です。自分のお金を使わないからです。つまり、他人のお金であればたくさん使おうというインセンティブが働くのです。それが、政府部門で財政赤字が拡大する非常に大きな要因の一つなのです。
あるいは、先ほどいったように、選挙で政治家はあれもこれもということを連呼します。そうすると、いろいろな政策、例えば年金の引き上げ、児童手当といったものの引き上げがただでできる、と選挙民は思いがちなのです。つまりこれは、選挙民からすれば政治家に騙されており錯覚を起こすということで、だから財政赤字が拡大するといわれているのです。(このことについては、皆さん、)何となくそういうことを感じているのではないでしょうか。
●予算制度の違いが財政状況に影響する
こうして、いろいろな研究が行われているわけですが、ポイントは国によってそうしたことに違いが起こるのかということです。例えば、選挙民です。日本の選挙民は政治家に騙されやすくて、スウェーデンはそうではないのか。そのようなことは、直ちには信じがたいことです。
最近、研究されている理論は、予算制度に問題があるというものです。どこの国でも政府が予算を作るわけですが、予算の作り方は国によって違いがあります。例えば、財務大臣と各省大臣の力関係はどうなのか。簡単にいうと、財務大臣の力が強いのか弱いのか、あるいは透明性が低いのか高いのか、単独政権か連立政権か。こうした予算編成の仕組みに国によって違いがあり、その違いによって財政赤字の大小を説明できる。こうした研究が行われているのです。
●「世界一弱い財務大臣」も財政赤字拡大の要因
具体的な指標を見てみたいと思います。まず財務大臣の権限についてです。これは数字が大きいほど財務大臣の権限が強いことを示してい...