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松下幸之助の経営者としての「喜び」とは何か?

生き続ける松下幸之助の経営観(3)経営者の喜び

江口克彦
株式会社江口オフィス代表取締役社長
情報・テキスト
自分を喜ばせることよりも他人を喜ばせることが、松下幸之助の考える経営者の喜びであった―株式会社江口オフィス代表取締役社長の江口克彦氏はそのように語る。昭和の時代には優れたリーダーが多かったが、松下幸之助はそう考えて経営を行った代表的な人物であった。(2018年5月31日開催日本ビジネス協会JBCインタラクティブセミナー講演「生き続ける松下幸之助の経営観」より、全12話中第3話)
時間:08:08
収録日:2018/05/31
追加日:2018/10/15
≪全文≫

●昭和のリーダーは国民や従業員のことを一生懸命に考えていた


 昭和の経営者には、非常に優れた方がきら星のごとくたくさんいました。対して、平成の偉大な経営者を挙げようとしても、専門ごとに何人かは挙げられるかもしれませんが、誰もが思いつく共通の人物を挙げることは難しいと思います。それはなぜかといえば、昭和の経営者は、官僚や政治家でもそうですが、絶対的ではなく相対的な意味において、今よりももっと、日本の国や国民、あるいは従業員のことを、自分のことよりもよく考えていたからだと思います。

 日本は、大東亜戦争が終わった昭和20年には、灰燼(かいじん)に帰してしまいました。町は荒れ果てていて、食べる物も着る物も住む家もありませんでした。「バラック建て」という言葉がありましたが、そういった仮設の建物があるくらいでした。当時の政治家や官僚、あるいは経営者の人たちは、そういった日本の状況を見ていました。そして、そういう日本のリーダーの人たちは、「日本を何とかしなければならない」「日本国民の生活を何とかしなければいけない」「社員に何とかいい生活をさせてあげなければならない」、そういったことを考えていました。このことは、城山三郎さんの書いた『官僚たちの夏』を読んでいただければお分かりになると思います。

 当時の日本のリーダーたちは、言ってみれば、天下国家、日本の国のこと、あるいは国民のこと、あるいは従業員のことを、自分のことよりも一生懸命に考えていたと私は思います。アメリカに追いつき追い越すという言葉が、今でも皆さんの記憶の中にはあると思います。そうした考えの下で、自分のことよりも国民のことを、自分のことよりも従業員のことを考えるリーダーが数多くいたと思います。


●松下幸之助は質素な暮らしをしていた


 これに関しては、一つエピソードがあります。私は27歳の時に松下幸之助さんのそばで仕事をするようになりましたが、正直なところ初めは緊張していました。そして2年や3年がたった時、今夜自分の寝室に来てほしいと言われたのですが、まだ29歳や30歳の頃でしたから、一番最初に行ったときには非常に緊張しました。松下幸之助さんは、松下病院の4階をマンション代わりに使っていて、平日は常時そこで横になっているということでした。私は、松下幸之助さんのそばで23年間ほど仕事をしていましたが、松下幸之助という人は、1年間のうち半分くらいはベッドで横になっていたと思います。

 松下幸之助さんの寝室に初めて行った時、びっくりしたことは、松下幸之助さんが横になっているベッドの天板のベニヤ板が三角形に剥がれていることでした。そこに経営の神様が平気で寝ているのです。そして、「座ってくれ」と言われて私が緊張しながら座ったソファーも、いかにも粗末だったことを非常に印象深く覚えています。このように、松下幸之助さんは、自分や身の回りのことにはあまり関心がない人でした。

 これに関しては、松下幸之助さんだけではなく、土光敏夫さんもそうでした。土光さんは自分の給料を全て自分の学園などに回してしまって、自分は目刺しを食べているということがテレビに出た、という有名な話があります。

 このように、松下幸之助さんは、自身の生活をすごく質素にしていました。


●松下幸之助の喜びは、人を喜ばせることである


 今の平成の経営者に、経営者やリーダーとしての喜びはどこにあるかと聞けば、どう答えるでしょうか。やはり、お金をためたいとか、世界の富豪ランキングに入りたいとか、豪華な六本木の高層マンションの上の方に住みたいとか、そういったことを言うかもしれません。この質問を松下幸之助さんに聞いたことがあります。すると、人を喜ばせることが、指導者としての一番の喜びだと答えました。要するに、自分の喜びよりも人をいかに喜ばせるかということを考えていたのが、松下幸之助さんの一生でした。

 ですから、従業員をいかに喜ばせるかとか、お客様をいかに喜ばせるかということが、基本的な経営の考え方になるわけです。
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