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どうすれば「行間」が読めるようになるか

読書と人生(1)「命懸けの読書」とは何か

情報・テキスト
執行草舟は小学生のころ、1行もわからないのに、岩波文庫のカントによる『純粋理性批判』を読み通したという。当時は、結局カントはわからなかったものの、他の本が易しく思えてしかたがないということを経験した。しかも、時が経つにつれて、当時はわからなかったことも、「わかる時期」が来るという。なにより読書を「当事者」として実践することが大切なのである。そうすれば、おのずと「行間」も読めるようになってくる。(全10話中第1話)
※インタビュアー:神藏孝之(10MTVオピニオン論説主幹)
時間:14:25
収録日:2019/05/14
追加日:2019/08/16
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≪全文≫

●「必要性」で読む読書は、読書ではない


―― 「命がけの読書」というフレーズは社長らしいですね。

執行 僕自身が自慢としているのは、今の時代、少し忘れられていますが、読書そのものが僕にとって武士道なのです。僕は武士道が好きで、武士道を表明して生きてきました。もちろん今の時代にあって、これは「チャンバラしよう」という話ではありません。「何か1つのことに命を懸ける」ということです。僕の場合、それが小学校から「読書」なのです。僕の読書は命懸けで、単なる本が好きというレベルではありません。それが僕の大きな自慢です。

 それが68歳になった今、日本中に僕ほど読んでいる人は一人もいません。これは驚くことです。本を「ものにしている」人も、一人もいません。僕は読書を「ものにしている」のも自慢です。少し威張って聞こえるかもしれませんが、「昔の教養人」を目指していたのです。何かの専門家や学者になるからではなく、読書によって人格を築き上げたかったのです。英国のジェントルマンもそうでした。若い頃そういう教養人に憧れ、なろうとして、ある程度なれていると思います。

 ところが自分が大人になって世の中を見回してみると、そういう人はまったくいなくなりました。まったく読まないか、自分の専門など仕事などの必要性から読む人ばかりです。

 昔の考えでは、「必要性で読む読書」は読書ではありません。これは私だけでなく、昔の読書家の考え方です。読書とは「読書そのもの」に価値があるのです。だから悪く言えば「現世離れ」もしています。ただ読書の思想とは、もともと現世離れしたもので、「現世から離れるために読書をする」という発想が根本にあります。

 これはアメリカのアイビーリーグ、イギリスのオックスフォードやケンブリッジなど、昔の大学が全部、深山幽谷というか、森の中にあったことからもわかります。読書人をつくるには、現世と触れ合わないことが昔は条件だったのです。

 僕も読書とは、そういうものだと思います。その意味で現代人に読書家はいないと思います。「役に立つものを読もう」と思うだけで、その人間は読書家ではないのです。

―― ハウツーになるのですね

執行「勉強家」かもしれませんが、勉強家と読書家は違います。読書家とはルネッサンスの頃から、モンテーニュなどモラリストになるような伝統があります。そうした教養人の伝統に則ったもので、偶然ですが僕はそちらのほうに行けて、すごくよかったと思っています。

―― 今読書家といわれる人には、アクセサリーとして学問を考えている人がたくさんいます。社長の場合は、読書がきちんと自分の身体の中に沁みとおって入っています。

執行 そこなんです。たとえば大学教授でも、彼らにとって学問とは、イヤな言葉で言うと出世のための武器です。学問が出世の武器になったら、もう学問ではありません。それは功利主義です。

 学問とは、あくまでも学問そのものが好きでなければダメです。学問が好きで、ついでに大学教授になったというタイプが昔はいました。大学教授は、本当は「ついで」になるものなのです。僕の読書も、そういう考えが出発点にあります。僕は偶然、『葉隠』が好きで読み、「命懸けの生き方」を読書に限定した結果、自然に会得しましたが、今そうした読書をする人はいません。

―― トインビーの『歴史の研究』を原書で一か月半かけて読んだそうですね。

執行 そう、後ろの書棚にあります。6千ページあります。

―― それも大学入学前に読まれた。

執行「命懸けの読書」の一例です。大学に入る前の1か月半の休みで、辞書を片手に全部読みました。あのときは少し決意を固めてコンサイスの英和辞典を新たに買いましたが、1か月半でズタズタ、ボロボロになりました。1日1食しか食べず、2時間も寝なかったと思います。1か月半後に読み終わったとき、眼精疲労で視力を失っていました。このままになってしまうのかな、と思っていたら、運よく三週間で回復してきたので偶然助かりましたが、本当に命がけでした。トインビーの『歴史の研究』を身に着けるためには死んでもいい、という思いで突入したのです。

 ほとんどの本も近いのですが、とくにトインビーは原書で、短期間で集中したこともあり、本当に命懸けでした。記念的な読書といえるかもしれません。

―― 剣術修行みたいなものですね。まさに武士道の時代における「剣」が、現代においては「読書」なのですね。

執行 武士道の始まりです。「人生とは命懸けで生きなければならない」というのが武士道を説いた『葉隠』の教えです。「命懸けで何をするか」ということです。

 それが僕の場合は『葉隠』から入って、もともと本が好きだったので、そのまま本に突入していった。「本を読むこと」自体をまず自分の最...
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