●「1人の人間が本当に信じたことを書いた本」が重要
執行 本は、「本当の本」を読まなければいけません。ここが今の人にとって一番厳しいところです。「いい本」を読むかどうかではなく、本は「本当のことが書いてある本」を読まなければいけません。「本当のこと」に関しては、どんな意見でもいいから読んで取り上げなければダメです。
今の人はわりあいセントラルドグマ(揺るぎない絶対的な考え)があり、今の人間観に合っているものしか読みません。僕がよく例に出すのが、ヒトラーの『わが闘争』です。
内容がいいとか、肯定しているという話ではなく、大事なのは「言いたいことが書いてある」ということです。これが重大なことなのです。
この本は牢屋の中で口述筆記したものですが、ヒトラーの政治信条が全部書いてあります。その内容を、いいと言っているわけではありません。しかし人間というものは、とくにインテリには嘘つきが多い。当時のドイツのインテリは、みんな『わが闘争』を読んでいました。ただ政治家の言うことだから、どうせ嘘だろうと思っていた。政権をとるため、アジテーターで書いていると思っていたのです。
だからドイツの有能な学者たちを含めて、多くの人がヒトラーを支持して、選挙で総統にまでしてしまった。ところが書いてあることは、彼の本心だった。龍の尻尾を踏んでしまったのです。
―― 自分たちがそうだから相手もそうだと思っていたけれど、ヒトラーは真剣に書いていたのですね。そして言ったとおりに行動した。
執行 今の人はヒトラーが嫌いだから、みんなあの本を嫌いますが、僕が言いたい読書論は、違います。言ったことが間違っているかどうかではなく、「ヒトラーという1人の人間が本当に信じ、思ったことを書いてある本は価値がある」という話です。
聖書に価値があるのも、キリストという人間が、本当に信じていることを話し、それを聞いていた人が筆記したからです。だから聖書は価値がある。それがわからないと、読書の価値はわかりません。
ある1人の男が、われわれの前にこの地球上で生きた1人の人間が、本当に信じたことを書いている本だということが重要なのです。
―― 生き様そのものですからね。
執行 そうです。それを受け入れるか受け入れないかは、また別問題。これは全然違う問題です。
●理論とは「魂」である
―― ...