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破壊されて立ち上がるところから始まる

読書と人生(10)思想とは破壊である

情報・テキスト
「怖さ」「恐ろしさ」がないものはダメである。成長のもとは「恐怖」なのだ。そもそも、すべての思想は破壊である。破壊されなければ建設はない。プラトンやアリストテレスから、ニーチェまで、みんなそうである。文学も、たとえばドストエフスキーなどは、読んで自殺を選んでしまう人まで出てくる。破壊されて挫けてしまうのなら、それはそれで諦めるしかない。それを恐れたら、何もできない。破壊され、落ちたところから、血のにじむような努力で這い上がっていく。それが思想であり読書なのである。(全10話中第10話)
※インタビュアー:神藏孝之(テンミニッツTV論説主幹)
時間:11:24
収録日:2019/05/14
追加日:2019/10/18
カテゴリー:
≪全文≫

●「怖さ」と「混沌」がないものはダメである


執行 崇高というのは、きれいなだけではなく、何か恐ろしいものです、崇高というものは、仰ぎ見る。仰ぎ見るものというのは、怖くなければダメです。だからそこに不良性が入ってないものはダメです。怖くなければダメ。昔の親父です。

―― だから不良性なのですね。

執行 そこは不良性から出てくるということです。

―― 怖さは、不良性から出てくるのですね。

執行 出てくる。反骨精神です。それがなかったら全然怖さがない。怖さがなかったら、人間はまったく成長しない。やはり、成長のもとは「恐怖」です。

 聖書の箴言に「主を畏れることは知識の初めである」という言葉がある。これも「主を畏れること」であり、「主を愛すること」ではないのです。神を愛してはダメで、神は恐れなければダメなのです。だから、上役を恐れなければダメ、尊敬する人を恐れなければダメ、親父を恐れなければダメ、同じです。それを逆に今の人たちはきれいごとでとるから、ダメなのです。

―― そのとおりですね。

執行 好きなだけではダメなのです。

―― そうでしょうね。しかし、本当に気を付けないと、そういう人をつくってしまいますね。中途半端な秀才みたいな人を集めることになってしまいます。自分の学んだ些細なことだけ振り回したがる人たちです。

執行 やはり、先ほどいった「混沌」がないのです。混沌のない人は、昔から秀才であっても「教科書秀才」と言われます。では昔の人でも混沌のある人は何でできたかというと、読書です。膨大な本を読んでいました。

 このあいだ少し話にも出ましたが(テンミニッツTV講義「人間的魅力とは何か(1)魅力ある人がなぜ消えたか」)、昔の偉い人と、今の偉い人は全然違う。昔の偉い人は何でも知っている。人間的魅力があったし器量も大きかった。小林秀雄も村松剛も、僕が会った人はみんなそうです。子供の頃から読み続けた文学など、損得ではない読書です。今の人は自分の役に立つものしか読まないから薄っぺらいのです。

 村松剛のすごいところは何かというと、あの人の政治理論などは、当然、本で読んで知っていますけれども、僕が会った最初に感動したのは、あの人の生活の知恵なのです。どうでもいい知り合いのことを全部知っている昔の大人というか、大家族を率いている長老というのか。もうあれだけの学者で、今で言えば線の細い秀才のはずの人が、親戚の末端の人間がどこの学校で何の賞を取ったとか、親戚の孫の小学校の習字であの子が金賞を取ったとか、そういうつまらないことまで知っているわけです。大したものです。あれが「混沌」の力なのです。その「混沌」のなかから、村松剛のようなあの時代の文学者や評論家は、政治論や文学論を出してきたわけです。それが厚みになっている。僕が言う言葉だと「行間」を作っているわけです。

 本当に今の秀才は、つまらない。勉強ができるだけですね。教科書しか読んでいない。普通の本を読んでも、役に立つ本しか読んでない。

―― それはやはり危うい。武器を持たせたらいけませんね。

執行 僕は、本当に恥ずかしいので、憲法9条護持なんて人に言いたくないのです。憲法9条護持など、僕から言わせれば女々しいというか、恥ずかしい。はっきり言えば、「男の理論」ではない。平和主義は「女子供の理論」です。そのようなものを僕がいい歳をして言うようになるとは、本当に恥ずかしい。恥ずかしいけれども、言わなければならない世になったということなのです。

―― そういうふうに変わってきてしまったのですね。

 執行 僕が変わったのではなく、社会が変わったのです。

―― そこで歯止めをつけておかないと、危なくてしかたがない。

 執行 危ない。憲法9条は大成功だと僕は思っています。


●ホモサピエンスの未来へ


―― そういう意味ではしんどい局面ですよね。アジアの一国になってしまう。呑み込まれてしまいますよね。アメリカの属国でいくか中国の属国でいくか、その選択肢しかなくなってしまいます。

 執行 これはもう、どちらかしかないですね。僕は前から言っていますが、最終的には、この世界を崩す引き金を引くのは中国だと思っています。あの国はそういう国です。悪く言うと、バイタリティがある。アメリカは、まだちょっと、ヒューマニズムに潰されていますから、自分から引き金を引くことはありません。

―― (誰かに引き金を)引かせることはあっても。

執行 そうです。自分が悪者になることはないでしょう。中国は悪者になるのは平気だと思うのです、最後は。

―― やっぱり、なかなか怖い段階ですよね。

 執行 怖いですよ。本当に僕も、こんな時代になるとは思わなかったけれども、人類はもう、本当に凄いところにきている。もう「日...
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