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AIがどうしても人間に敵わないのが「混沌」

読書と人生(7)人間は、「混沌」を持つ存在である

執行草舟
実業家/著述家/歌人
情報・テキスト
第5回で、「読書の根本は、神秘に対面すること」と説いたが、この「神秘」はすなわち「混沌」でもある。「混沌」とは、「理論では解明できない1つの持続した思考」である。そのような「混沌」があることが、人間の人生が尊い唯一のいわれだと、執行草舟はいう。また、あらゆる能力において人間を上回るAIが、どうしても人間に敵わないことこそ、「混沌」なのだ。「混沌」を否定する人は、単細胞になる。読書は、このような「混沌」を養うためにも不可欠なのである。(全10話中第7話)
※インタビュアー:神藏孝之(10MTVオピニオン論説主幹)
時間:10:20
収録日:2019/05/14
追加日:2019/09/27
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≪全文≫

●「混沌」が人間のいわれ


執行 とにかく読書で、一番いいたいことは、最初からいっているように「役に立つ読書」をやめてほしいということです。読書とは知識を得るものではないと気付かなければ、読書の価値はわかりません。読書は神秘と付き合い、現代流にいえば「人生の問いを見つけるもの」なのです。自分がどう生きるべきか、どう死ぬか、何をすべきか、それを見つけるために読むのです。

―― そうか、人生の「問い」ですね。

執行 「問い」なのです。要は、「問い」を見つけるために読むのだから、これは逆にいうと、「難しい本」もないのです。全部わかる必要もありません。たとえば昔の人が書いた哲学書や何かを読み、そこにある1行か2行でもいいから人生の問いを見つけられたら、それで価値があるわけですから。今の人は、政治家も含めて、「問い」がない。どう生きるべきか、どう死ぬべきか。日本の政治を考える前に、自分が1人の日本人としてどう生きるか、どう死ぬか、その問いに自分なりの回答を持つ必要があります。

 政治は、人間の命に付随するものです。政治家といっても、生身の人間です。人間の命のほうが上で、政治が上ではありません。「命」が政治をやるわけで、その命をつくるのが読書なのです。

 僕のいう「神秘」とは、言葉を換えていわせてもらうと、「混沌」です。人間の一番優れたところは、「混沌」を持っているところです。よく訳のわからない「混沌」です。「混沌」を持っていることが、人間の人生が尊い、唯一のいわれです。理論では解明できない1つの持続した思考、これが「混沌」です。

 この混沌に対するエネルギー補給が読書です。それを僕は「負のエネルギー」と呼んでいます。生きるのは「正のエネルギー」です。正のエネルギーだけではなく、人間の魂には負のエネルギーが必要です。負のエネルギーを注入するのが読書なのです。

 その注入をどこにするかというと、魂なんだけれども、頭ではなくて、混沌と呼ばれる訳のわからない、その人間しかわからない人生の時間の中に入ってくるということです。その混沌を強めるのが、読書だと思うのですが、その混沌は、役に立つか立たないかわからないわけです。だから役に立たないことを覚悟して読まなければダメだといっているのです。

 僕に強みがあるとすれば、僕の混沌です。僕は人から質問されたとき、応じられない事柄がありません。人に会ったときに必ずいっているのが「何でも聞いてくれ、何でも答えるから」です。これは僕の混沌の大きさです。

―― 混沌の大きさですか。

執行 混沌の大きさです。優れているかどうかでなく、僕が持っている混沌が大きいことによるものです。その大きな混沌をつくったのが読書なのです。

―― それで何でも受け入れるわけですね?

執行 何でも。だから何でもあるのです。なぜなら、読書をすれば、そこに人類の英知が全部詰まっているわけですから。現世を見なければ見ないほど、読書によって英知は入ってきます。


●AIには「混沌」がない


―― 結局、18世紀ビクトリア朝は、ある種、一番いい時代でした。そのときまでにイートン校やハーロー校やラグビー校などのパブリックスクールの伝統や、オックスフォードやケンブリッジの伝統ができあがっていて、ユニオンの学生会の会長があって、エリート輩出の仕組みが確立していた。その頃まではきちんと読書をしていたわけです。しかし、イギリスのパブリックスクールに入るような階層の人たちも、どこかで読書をやめてしまいました。

執行 今はもう、みんなやめています。

―― デイヴィッド・キャメロンやジョージ・オズボーン、ボリス・ジョンソンなどもパブリックスクールからオックスフォード大学に進んでいます。私が実際に会ったのはオズボーンだけで、財務大臣で日本に来たときにお目にかかったのですが、でも、そのときに驚いたのです。パブリックスクールとオックスフォードを卒業して、ユニオンの会長も務めていて、もう少し何かないのか、と。

執行 でも、今はもうダメです。

―― そうですよね。やはりそこがおかしくなってきているのですね。

執行 だからどう考えても、20世紀から下がってきています。

―― エリートたちの質が下がってるのですね。

執行 アメリカのハーバード大学やイエール大学に行くような人たちも、みんな同じです。ハーバードやイエールなどアイビーリーグに属する大学はすべて、もとは宗教学校で、アメリカのキリスト教の各宗派が設立した学校です。ブラウン大学はバブティスト、イエール大学は名前は忘れましたが(会衆派)、プリンストン大学がユニテリアンといった具合で、WASP(ワスプ)と呼ばれる白人のプロテスタントの集団が寄付金でつくったのです。

 アイビーリーグの目的は、キリスト...
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