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古武士の風格を持った民権派の代表・松村謙三

失われている「保守の知恵」~友好の井戸を掘った人たち(2)松村謙三

佐高信
評論家
情報・テキスト
wikimedia Commons
失われている「保守の知恵」を探る本編シリーズ第2話は、富山出身で自民党民権派の元祖・松村謙三にスポットを当てる。右翼に屈せず中国を訪問し、政敵・岸政権に抵抗した警職法反対運動や自民党総裁選立候補など、古武士の風格漂う逸話が多い松村に流れる民権派の知恵を追う。
時間:14:28
収録日:2014/01/22
追加日:2014/02/24
カテゴリー:
タグ:

●中国に対する岸信介の歴史認識と現在の政治のゆがみの関連性


 それでは、次はまさに日中友好の井戸を掘った人たちの元祖のような、松村謙三という人についてお話したいと思います。

 松村謙三さんは富山県の砺波というところの出身です。私は、松村さんについて、「正しい言葉は反対のように聞こえる」という老子の言葉から引いた『正言は反のごとし 二人の謙三』というタイトルで、評伝のようなものを書いたことがあります。

 松村謙三さんは、生涯の、いわば政敵というのは、岸信介さんだったわけです。まさに今の安倍晋三さんのおじいさんである、岸信介。ついでに申し上げると、何年か前に安倍さんが、荒井広幸さんと一緒に、首相ではないときですけれども、旧満州国の首都だった長春をたずねる。昔は新京と言ったわけです。そこの記念館に案内されて、一般の観光客として行ったと思いますけれども、いろいろと当時の日本との関係などが書かれていて、いろいろな写真なども飾られている。その中で、ガイドが、ずらっとその日本人の写真、板垣征四郎とか石原莞爾とか並んでいたのでしょうか、「この人たちは長春を支配した悪い人たちで、岸信介、この人が一番悪い人」と言ったのだそうです。それで、荒井さんがびっくりして、安倍さんを指して、「この方はその人の孫ですよ」と言ったら、ガイドがさすがに息を呑む場面があったと言うのです。

 その岸信介という人が、満州国というものを傀儡政権の官僚として支配した中国に対して、やはりいいことではないことをやったと認めるか、認めないかということが大きな問題となってくるわけです。残念ながら、安倍さんは、やはり身内的感覚に終始して、おじいちゃんは悪いことをやったというように考えられない。そこから、現在の政治のゆがみというのが、私は出てきていると今思うわけです。


●侵略の定義とその認識~民権派を放逐した国権派~


 少し松村さんから離れますけれども、非常におもしろい話があって、遠藤誠さんという、変わった弁護士がいたのです。マルクス主義と仏教、両方を信じている。仏教は釈迦ですので、「自分は釈迦マル主義者だ」と言っていた人ですが、暴力団対策法というものにも反対して、つまり暴力団だけを取り締まるのではなくて、一般の市民運動なども取り締まることになるから、それは反対だと。それで、山口組の弁護をした変わった弁護士だったわけです。

 そうしたら、当時の山口組の5代目組長である渡辺芳則、その人になにかご注進に及んだ人がいるのでしょう、「組長、遠藤などという人に弁護を頼んでいると、あれは左の人間だから山口組が左傾化しますよ」と言った人がいるらしいのです。

 それで、渡辺さんは、遠藤先生に聞くのですけれども、「今左と右を分ける目印というのは何なのですか」と。遠藤さんは、「左と右を分ける目印というのは、先の戦争を侵略と認めるかどうか、それが多分左と右を分ける目印なのだと思う」と言ったそうです。

 そしたら、渡辺組長が、間髪を入れず、「それは侵略ですよ。他人の縄張りに足を踏み入れたのだから」というように言ったというのです。

 それで、遠藤さんが、「組長、そんなことを言うと組長も左だと言われますよ」と言ったら、渡辺さんは、「それで左と言われるなら、自分は左と見られてもいい」と言ったという話があって、私はそれ以来、渡辺芳則さんを、さん付けして呼んでいるのです。

 他人の縄張りに足を踏み入れたというのは、非常に分かりやすい侵略の定義だろうと思うのです。それを認められない人たちが自民党の中にはいて、いわゆる国の権力である国権派と、民の権力である民権派、つまり国権派と民権派の流れがあると、宇都宮徳馬さんが自民党の中のことを言ったのです。

 その民権派というのは、松村謙三、石橋湛山、田中角栄、宮澤喜一などへと流れる。国権派は、岸信介、中曽根康弘、そして今の安倍晋三に流れる。自民党の中でその二つがしのぎを削っていて、残念ながら、今自民党の中は民権派がほとんど放逐されてしまったという状況にあるのだろうと思う。


●古武士の風格・松村謙三の逸話1~右翼に屈せず中国訪問、そして政敵擁護も~


 民権派の元祖である松村謙三という人については、さまざまなエピソードがあります。岸信介、そのあと弟の佐藤栄作という人が首相になるわけですから、岸、佐藤という人は、中国に対して敵視対策をとります。

 松村さんが、右翼の脅しなども受けながら何度も中国を訪問するわけですけども、佐藤栄作に対して、中国の要人が松村さんの目の前で批判したときに、松村さんはそれに対して、「いやしくも佐藤栄作は日本の首相だ」「私の目の前で佐藤を批判することは許さない」と言った。つまり、自分は佐藤栄作を批判するけれども、外に出たら首相とし...
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