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偉大な芸術家の「魂を共有する力」

魂の芸術(7)肖像画に見る「根源的共同化」とは

概要・テキスト
戸嶋靖昌の肖像画は、描く対象の顔と、戸嶋自身の顔が融合している。これこそ、まさにハイデッガーがいう「存在の根源的共同化」なのである。だから、その肖像画は、描く対象には似ていない。だから、戸嶋の肖像画はお金にはならなかった。お金になるのは、精密に、忠実に「写生」をした絵である。まさにそれが、多くの発注主が求める絵だからである。だが、真の芸術は、「存在の根源的共同化」を成し遂げるような「魂の共有」ともいうべき力から生み出されるのである。(全10話中第7話)
※インタビュアー:神藏孝之(10MTVオピニオン論説主幹)
時間:12:29
収録日:2019/09/11
追加日:2019/12/20
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≪全文≫

●ゴッホの絵も「間違った絵」だと思われた


執行 これは戸嶋のカリンの絵です。

―― これもすごいですね。

執行 生命が溌剌とした、カリンの色気がすごく出ています。戸嶋の絵は宇宙の中で、生命がどう存在しているか、いわば生命の本質が見てわかるのです。

 これはマイテという人の肖像画です。マイテと戸嶋という人間が、先ほど言った存在の根源的共同化に成功した絵です。だからこの顔はマイテの肖像だけれど、マイテではない。戸嶋の顔とマイテの顔が融合した顔なのです。僕の肖像画も、僕の顔と戸嶋の顔が融合しています。僕の顔だけを描いても、それは芸術ではない。

―― 存在の共同化は、そのように見るんですね。

執行 そうです。「根源的共同化」とハイデッガーが定義しています。その哲学的な『存在と時間』の概念が、戸嶋のこの絵の中で実現しています。だから戸嶋は自分の絵を描くたびにマイテと自分の命が合同したり、僕の命と自分の命が合同したり、いろんな人と合同している。

 これはホアキンという人の家の庭ですが、こうした自然の絵になると、今度は時間化作用という、自然が繰り広げた時間と自分の命が一緒になっています。

―― 先生の肖像画はありますか?

執行 僕の肖像画はこれです。

―― 2003年だから16年前ですね。

執行「巖の草舟」という題を戸嶋が付けて。

―― これ、すごく面白い。

執行 かっこいいでしょ。これが一番、僕の顔としてはわかりやすい肖像です。

―― 確かに融合していますね。根源的共同化なんですね。

執行 この存在の根源的共同化ができる人が、真の芸術家です。根源的共同化をすると、程度の低い絵画的な意味では評価が下がります。美しくないからです。例えば写真みたいに誰かのを描くなら、きれいに描いたほうが評価は高くなります。根源的共同化では、描く人間と描かれる人間の命が融合しますから、肖像画としては何か似てないような感じがする。

―― 写真のような、アンドリュー・ワイエスみたいな絵がいいと。

執行 その意味で根源的共同化ができる芸術家とは、自分の命を投げ出していないとできません。簡単そうだけど、できないのです。

―― 自分の命を投げ出して初めて、根源的共同化になるわけですね。

執行 だから戸嶋の肖像画は、お金にならない。戸嶋の肖像画にお金を払う人は、ほとんどいない。

―― 理...
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