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800年間の涙が沈み込んだ絵

魂の芸術(1)戸嶋靖昌との運命的出会い

概要・テキスト
執行草舟は、画家・戸嶋靖昌の「街・三つの塔-グラナダ遠望-」という絵を見て、この画家にぞっこん惚れ込み、肖像画の制作を依頼した。なぜ惹かれたか。それはその一枚の絵に、800年間の悲しみが沈み込んでいると感じ、空気中や地中にある人類の涙を絵に描ける人間であることがわかったからであった。本当に人間の魂を「賦活」できるものは、いまや芸術だけである。真の芸術だけが、哲学者・ハイデッガーの語る「時間化」作用のようなものを具現化できるのである。(全10話中第1話)
※インタビュアー:神藏孝之(10MTVオピニオン論説主幹)
時間:11:46
収録日:2019/09/11
追加日:2019/11/08
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≪全文≫

●画家 戸嶋靖昌との出会い


―― これ、素晴らしい絵ですね。

執行 ここにあるのは、ご存知だと思いますが戸嶋靖昌です。戸嶋は、僕が日本で一番優れた芸術家だと思っている人です。彼とは特別な縁があって、戸嶋が死ぬ3年前に知り合い、会社の中にアトリエを造って、好きなときに会社に来てもらっていました。僕の肖像画を描いてもらうのも理由の一つで、結果として6枚描けましたが、出会ってしばらくして、がんが発覚し、3年後に亡くなりました。だから最晩年の作品になります。

 72歳で亡くなりましたが、その3年前に偶然出会い、僕がぞっこんほれ込んで肖像画を頼んだのです。本当なら今でも長く描いていたはずですが、3年後に亡くなったので戸嶋の芸術を後世に残すために記念館を創りました。ここは基本的には、戸嶋靖昌記念館なんです

 戸嶋靖昌の全作品を譲り受け、このように展示しました。戸嶋靖昌の名前を後世に残すことが、僕が主宰している「憂国の芸術」と名付けたコレクションの主体です。

―― すごいですね。一番晩年の最期の3年間を一緒に過ごされたのですね。

執行 楽しかったですよ。僕の肖像画を描いてもらい、描き終わったらいつも宴です。飲んだり食べたりしながら、いろいろ芸術論を戦わせました。

――それもすごいですね。しかも最後の成熟しきった3年、人間として一番成熟度が高いときですよね。

執行 だから戸嶋は特別な存在ですが、僕は戸嶋からは素晴らしい「運」をもらったとも思っています。戸嶋に会って、描いてもらい、戸嶋の記念館を創った。戦後の日本人が、高度成長から贅沢を覚え、バブルに向かっていくときに、戸嶋は一生食えなかったけれど、食えなくても自分の芸術というものに向かって、全てを捨てて描き続けた人です。そして1枚も売れないで死んでいったわけです。

―― 1枚も売れなかった。

執行 きちんと売れたものは、ありません。

―― それもすごいですね。

執行 そういう人なのです。売る気もなかったようです。

―― 全く無名の人ですよね、生きている間は。

執行 全く無名です。だから僕と出会っていなかった場合、絵も含めて全部、死ぬと同時に消滅して、終わってしまった人です。僕は絵を引き受けたとき、過去の作品も全部、かびの修復から何から施し、額装して展示できるようにして記念館を始めたのです。

――その意味では晩年の3年間...
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